スキル鑑定

 それから数日後。

 いつも通り喫茶店の営業を続けていると、お店にシモンがやってきた。

 彼はのんびりと紅茶とケーキを楽しんだ後、ちょいちょいとわたしを手招きで呼び寄せた。


「クーナ、ちょっといいかな」


「はい」


「実はね、少し君とお話したくて」


 びくっと身を固めると、シモンは苦笑した。


「全然怖いことじゃないから大丈夫ですよ。近況とか、体調のこともききたくて」


 片眼鏡の奥にあるのは、優しい灰色のひとみ。

 ちっとも怖そうなんかじゃない。


「このあと、私の部屋に来てくれるかな。あ、ルルもつれておいで」


 ルルを見てシモンは微笑む。

 ルルはイチゴをもらって、ご機嫌そうにしっぽを振っていた。


「るぅ〜」


 自然なお誘いに、わたしは気付いたらこくりと頷いていた。


「分かりました」


「うん、ありがとう。それじゃあ、部屋へ行こうか」


 シモンはルーリーとダンに断って、わたしを連れ出す。

 わたしはルルと一緒に、シモンのあとをついていった。


 ◆


 喫茶店で働き始めてもう一月くらいがたつけど、そういえばわたしは、ギルドの一階しか行き来していなかった。

 ルーリーにギルドの中を案内してもらったことはあるけど、あのときはなにがなんだかわからなくて、あんまりじっくりギルド内を見ていなかった。


 改めてシモンのあとについて歩くと、ここが大きな建物なんだということを実感する。

 階段をあがり、いくつかの会議室を通り越したところに、ギルドマスターの執務室はあった。


「さ、どうぞ」


 にっこり笑って、シモンがドアを開けてくれる。


「し、失礼します」


「るー」


 恐る恐る足を踏み入れると、そこは日当たりのよい、整理整頓された綺麗な部屋だった。

 奥には大きな机があって、そこに紙が積まれている。


 その前にはソファとローテーブル。

 シモンはわたしとルルにソファにすわるように勧めた。


「これ、この間知り合いからもらったんです。よかったらどうぞ」


 そう言って、お菓子をだしてくれる。


「わぁ、きれい」


 目の前には、キラキラとした色とりどりの宝石のようなものがお皿の上に並べられていた。


「迷宮にしか咲かないイリアという花からとれた蜜をかためて、宝石みたいにカットした飴です。イリアの蜜は色が様々で、きれいなんですよ」


 ルルがぴょんと机にのって、クンクンと匂いをかいだ。

 そして甘いものだと気付いた瞬間、ぱくっとそれをくわえて、ばりばりむしゃむしゃと噛み砕く。


「るう〜」


 ばりばりむしゃむしゃ……。


「る、ルル、それは舐めるものなんだよ……」


 そういっても、ルルは全然気にせず、むしゃむしゃと食べていたのだった。


「はは。食いしん坊なカーバンクルですね、この子は」


「ご、ごめんなさい……」


「まあ、赤ちゃんだし、食べ盛りなんでしょうねぇ」


 そういってルルの頭を撫でるシモンの指は、すごく優しい。


 わたしたちはしばらく、雑談をしつつ、近況を報告した。


 体調がすっかりよくなったこと。

 喫茶店で働く生活にも慣れてきたこと。

 ルルが少し太ったことなど。


 シモンは聞き上手だった。

 最初は少し緊張していたけれど、わたしは次第に、自然に話せるようになっていった。


「ずっと心配していたので、よかったです」


 一通り報告し終わったあと。

 シモンは眼鏡をずらしつつ、そういって微笑んだ。


「ここに来たときは、すごく怪我も多くて、不安でしたから」


「……その節はどうもありがとうございました」


 ぺこっと頭を下げれば、シモンはかぶりをふった。


「いいんですよ、うちのギルドの傘下にあるものは、みんな家族だと思っていますから」


「……かぞく」


 まさか一従業員にそんなことを言われるとは思っていなくて、びっくりした。


「それで、少し話が急なのですが。少しクーナに、確かめたいことがありまして」


「?」


 シモンはいつものように優しく微笑んで言った。


「クーナ。よかったらあなたのスキルを、私に鑑定させてくれませんか?」


「……え?」


 スキルの鑑定?


「あの、わたし、小さい頃から魔力が全くなくて……鑑定しても、意味、ないと思うんですけど……」


 何を突然言い出すのかとびっくりして、思わずそういえば、シモンはふるふると首を横に振った。


「人は年齢や訓練を重ねることで、魔力値は変化します。さらに思いもしない頃に、特別なスキルが開花することもあるのです」


 もちろん、とシモンは続ける。


「君が嫌なら、大丈夫ですよ」


 にっこり笑ってそう言われ、わたしは自分の手を見た。

 まあ、何もないと思うけど……恩人のシモンがぜひそうしたいというなら、全然協力するし、別に嫌でもない。


「大丈夫です。でも、本当に何もないと思いますよ」


「わ、ありがとう! 何もなくても、別にいんですよ。それにスキルの鑑定はついでに健康状態なんかも確かめられますしね」


 どうしようかな〜とシモンは考えたのち、ぴ、と指を立てていった。


「スキルの鑑定方法は二種類あります。一つは魔道具を使って鑑定する方法。もう一つは鑑定眼を使って鑑定する方法。今回は僕が鑑定眼を使って君のスキルを確かめてみようと思うのですが、どうでしょうか?」


「……シモンは、鑑定眼を持っているんですか?」


「ええ。わりと使う機会も多いので、結構正確ですよ」


 びっくりした。

 アルーダ国では、鑑定眼を持ってる人ってめったにいなくて、ほとんどは魔道具に頼った鑑定だったから。

 本物の鑑定眼の持ち主は、初めて見たかもしれない。


「それに現時点の魔道具では、一部、鑑定しきれないものもありますからね」


 そう言って、シモンは微笑んだ。


「じゃ、そのままじっとしていただけると助かります」


「は、はい」


 どうやって鑑定するのかな……。


 シモンはわたしに手の平をかざした。

 するとその瞬間、全身をあたたかな光に包まれたような、ほわっとした感覚に包まれた。


「わっ!?」


「大丈夫大丈夫。そのままじっとしていてくださいねー」


 シモンが閉じていた眼をあけると、灰色だったその瞳は、金色に変化していた。

 ふわぁ、宝石みたいですっごくきれい……。

 わたしがその眼に見とれている間に、シモンがぶつぶつと何かをつぶやきながら、そばにあったバインダーを手にとって、中に何をメモし始めた。


「るー?」


 ルルはわたしとシモンを交互に見て、首を傾げていた。

 何か変化を感じているのかもしれない。

 それからわたしの体をくんくんとかぐ。

 ひとしきりかいだのち、それでも何が起こっているのか理解できなかったのか、ルルはぽすっとわたしの膝の上にのって、かりかりとわたしの服をひっかいた。


「ルル、ちょっとごめんね」


「るう〜」


 もふもふの体を抱っこして膝からおろそうとすれば、シモンにとめられた。


「そのままで大丈夫ですよ」


「る!」


 ……ということで、ルルはそのままに、わたしは引き続き鑑定を受け続けた。


 それにしても、シモンもすごくきれいな人だな……。

 人間なのかな。それとももしかしたら、別の種族なのかも。


「ん……」


 ぴく、とシモンの手が一瞬だけとまる。

 何かな、と首を傾げているうちに、鑑定は終わったようで、体からぽかぽかとした光がひいていった。


「……よし、終わりました。ご協力ありがとうございました」


「いえ、こちらこそ……」


 ぺこっとお辞儀をして、結果をきく。

 シモンは少しまゆをひそめて、言った。


「まず、健康状態ですけど。これはお医者さんからも言われていると思いますけど、痩せすぎですね。もっともっと、栄養のあるものを食べましょう」


「は、はい」


 ここへきてから、だいぶマシになったかなと思っていたけど、まだまだだったらしい。


「それで、魔力に関してですけど」


 ごくり。

 な、なにかかわったのかな……?


 ドキドキしていると、シモンはあっけらかんと言った。


「確かに0ですね! 珍しいです」

 

 思わずガクッとなる。

 ……まあ、それはそうか。

 小さい頃からずっとなかったんだから、急に出てくるはずもない。


「しかしクーナ、すごいことが二つ、わかりましたよ」


「? すごいこと、ですか?」


「ええ」


 シモンはうなずいた後、わたしとルルを見て、言った。


「どうも君は、ルルの契約者になっているようですね」


「え? け、契約?」


「るー?」


 契約って、まずなに……?

 わたしがはてなをいっぱい浮かべていることに気づいたのか、シモンは笑って言った。


「高位の精霊や聖獣、神獣というものは、基本的にひとに懐いたり、その特殊な力をひとにかしたりはしません。ですが、もしも気に入ったひとが現れた場合は、その限りではありません」


「……?」


「自分が気に入った相手に力を貸したいと思ったなら、その魂と絆を結び、自らの力を契約者に貸すことがあります」


「ちょ、ちょっと待ってください」


 わたしは慌ててシモンを止めた。


「わたし、ルルとは森で出会っただけです。別に特別なことはなにも……」


 そういうと、シモンも首をかしげた。


「それなんですよね。だいたいの契約って、相手に名前をつけて、体液を与えれば完了するんですけどねぇ」


「……え」


 あれ……ちょっと待てよ。


「ルルって名前つけたのは君ですよね?」


「は、はい……」


「じゃあ、血とか舐めさせたりしませんでした?」


「いいえ……」


 でも体液ってことは。


「あのー、それって涙とかも入りますか?」


「あー、はいりますねー、体液ですからねー」


 シモンは能天気にうなずいた。

 わたしは思わず頭を抱えてしまった。


 わたし、知らないうちにルルと契約してたのか……!


 あの森で、泣いていたわたしをルルが慰めてくれたのだ。

 きっとわたしがなにもかんがえずに名前なんかつけちゃったから、こんなことに……。


「ルル、わたしと契約しちゃってよかったの?」


 思わずルルの方を向いて、そう問う。

 ルルは首をかしげた。


「る? るう〜」


 もふい頭をすりつけてくる。

 遊ぶの? と言った感じに。


「どうしよう……なんかルルもよくわかってないみたいです」


 わたしたちの様子を見ていたシモンは、笑った。


「はは。まあ別にいいんじゃないですか?」


 いや軽っ!

 カーバンクルって、すごい珍しい生き物って聞いたけど……


「名前と体液を与えても、相手が拒否すれば契約は成り立ちません。少なくとも、ルルは君のことを気に入ってるんですよ」


「そ、そうなんでしょうか……わたしのせいで、無理やり拘束されているとかではなく……?」


「ええ、もちろん。それにご覧なさいな。この子が、君を嫌っていると思うかい?」


 シモンに言われて、ルルを見る。


「るん♪」


 ルルは自分のことが話題に上がっているのが嬉しいのか、ふわふわとしっぽを振っていた。

 わたしとシモンの顔を見て、嬉しそうに机の上でぐるぐる回った。

 ……確かに、めちゃくちゃ嫌われてるってこともなさそう。


「まだ幼体のこの子を、君が保護してくれてよかったと思いますよ、私は」


 シモンはそういって眼鏡をずらす。


「確かにカーバンクルに関してはまだまだ謎なことが多い生き物ですが。今はこのまま、様子を見てもいいかと思います。別に契約したことがわかったからって、なにもかわりませんしね」


 た、たしかに……。


 ルルが甘えたように膝にのってきたので、わたしはその首を撫でた。

 きゅるうう〜と嬉しそうに、ルルは鳴き声をあげる。


「そしてもう一つ。今度は君自身に関して、お知らせがあります」


 シモンはわたしを見て、真剣な顔で言った。


 これ以上、何かあるの……?


「え、と……?」


 もう一つというのは、一体なんだろう。

 シモンはこほんと咳をして、あらためて言った。


「実はですね、君には特殊なスキルが備わっているようです」


「特殊なスキル?」


 思わず目を瞬かせる。

 今までも何度か鑑定してもらったことはあるけど、わたしには別に、特にスキルなんてなかった。


「ただし、ロックがかかっていて、今はまだそれが何なのかはよくわかりません」


「ロック……?」


「スキルが芽生えようとしている状態のときに鑑定すると、靄がかかったみたいに、その能力がわからなくなってしまうんです。そういう時はほとんどが、かなり特殊なスキルを後々獲得していくことになりますね」


「……今まで何もなかったのに」


 驚いた。

 これももしかしたら、ルルの影響なのだろうか……?


 ぽかんとしていると、シモンは真面目な顔で言った。


「いいかい」


「?」


「最近の研究で明らかになったことなんだけど、魔力値が0というのは、限りなく珍しいことなんです」


 それはよくわたしも知っている。

 けれどふるふるとシモンは首を横に振った。


「そういうひとは得てして、後天的に特殊スキルに目覚めるものが多い」


「!」


 そんな話、聞いたことない……。

 じゃあ今まで魔力値が0だったひとは、みんな特別なスキルを持っているってこと?


「ただし、それにはある条件が必要になる」


「条件?」


 それは、とシモンはため息をついた。


「……精神に強いショックを受けることだ」


「!」


「必ずしも目覚めるわけじゃない。けれど君はどうやら、目覚めたようだ」


 びく、と体が揺れた。

 精神的に強いショックを受ける……。

 それはもしかして、わたし、あのときのパーティでのことが……。


「わ、わたし……」


 冷や汗が浮いた。

 シモンにも誰にも、わたしの身に何があったかを話していない。

 それじゃだめだって思うけど、いつも話そうと思ったら言葉がつっかえて出てこなくなる。

 相当ショックだったのかな……。


「……いいんですよ、何があったかを言わなくても」


 シモンは柔らかい表情を浮かべた。


「ただし、これから先、君は特殊なスキルに目覚めるでしょう。魔力値0のひとの傾向として、後天的に生まれたスキルはかなり強力なものが多い。君はそれをコントロールできるようにならないといけません」


「コントロール……」


「何も怖い話じゃないですよ」


 シモンはにっこり笑う。


「しっかり練習すれば大丈夫」


 それはわたし一人でできるものなのかな……。

 不安そうな顔をしていると、シモンは言った。


「クーナ。私にときどき、スキルの鑑定をさせてくれませんか? もしもスキルの内容が分かったら、私を師として、力のコントロールを学んで欲しい」


「……いいんですか?」


 びっくりして、耳がぴょこぴょこ動いた。

 それはこちらが頼まないといけないことだ。


「もちろん。私のギルドにいる者を、私は守らなければならない。もちろん君のことですよ、クーナ」


 胸がむずむずした。

 どうしても聞きたいことがあって、口をぱくぱくしていると、シモンに話すように促された。

 わたしは耳をぺたっと下げて、恐る恐るシモンに聞いた。


「……ここにいるひとたちはみんな、優しすぎます。どうして見ず知らずのわたしに……女で、獣人で、役に立たないわたしにも、ここまで優しくしてくれるんですか?」


 そう聞くと、シモンは微笑んだ。


「優しくされることに、理由が欲しいかい」


 理由……?


「……わたしは、なぜみんなそうなのか、わからなくて。いや……言葉ではわかるんです、助け合いは大切だって。でも、なんでだろ……心の奥底では、それを心底不思議に思っているわたしがいるというか……」


 話してて、わけわかんなくなってきちゃった。


「……これは教えがいがありそうだなぁ」


「?」


 シモンは苦笑した。


「理由が必要なんだとしたら、そうだね、まず君が子供なこと。子供は大人が大切に育てるべきだ」


「わ、わたし、もう15歳です」


 子供に見えてたのか……。

 びっくりしていると、シモンは首を振った。


「十五歳は、この国では未成年ですよ。十八歳からが大人です」


 アルーダ国では、十五歳って言ったら、もう結婚しているひともいる。

 この国ではもう少し、成人年齢が高いみたい。


「それから、君が怪我だらけで、守ってくれる大人がいなくて。だったら、私たちが君を守らないと。私たちは大人なんだから」


「……」


「それにうちのギルドは、『助けを求められるひとになること。ひとを助けられるひとになること』をモットーにしてますからね」


 そう言ってシモンは微笑んだ。 


「冒険者たちがパーティを組むのは、一人では成し遂げられないことがあると分かっているからだ。お互いのいいところも悪いところも補い合って、生きているんですよ」


「補う……」


「種族に関してもそうだ。人間には人間の、獣人には獣人の短所と長所がある。だから一概にどちらが優れているなんて言えません。そこに優劣をつけることは、とても悲しいことですよ、クーナ」


 シモンに優しく諭されて、少し心が落ち着いた。


「ここにいれば、きっとわかるようになりますよ。いろんな種族のひとたちがいるでしょ?」


「……はい」


「みんな自分に誇りを持って生きている。その姿を、遠くからでいいから、たまーに見てみるといいですよ」


 シモンは笑った。


「君はここにいてもいいんだよ」


「!」


 一瞬、目がじわっと熱くなった。

 慌ててゴシゴシとこする。


「るー」


 さっきからずっと黙っていたルルが、わたしを見上げて、首をかしげた。

 またほっぺをぺろぺろしてこようとするので、思わず笑って、それをとめる。


「……ってことで、スキルに関しては、当面私あずかりってことでいいかな?」


「……はい。よろしくお願いします」


 そう言って、頭をぺこっと下げる。

 すると、扉をどんどんと叩く音が聞こえてきた。


「ちょっとマスター! まーた中央ギルドから苦情が来てますよ!」


 入ってきたのはエレンさんだった。


「キリルさんをよこせって! あのひと、どこほっつき歩いてるんですかね!? どうも中央のSランクの依頼を片付けるって口約束してたらしくて。しかもまた女性トラブルおこしてるんですよ! ト・ラ・ブ・ル!」


 彼女は入ってくるなり、大量の書類を机において、こちらを振り返った。

 それからわたしを見て、目を丸くする。


「あっ、クーナさん!? それにルルちゃんも!」


「こんにちは」


 エレンさんは恥ずかしそうに笑って舌をだした。

 シモンも、困ったなぁとまゆを下げている。


「キリルもどうにかしてSランクの依頼片付けてくれないかな。溜まってくるとギアに回さないといけなくなるから、困るんですよね」


 あの人はもう杖騎士ですから、とシモンはつぶやく。


「まったく、仕事さぼって女の子と遊んでたりするんだから! あ、クーナさん、今度キリルさんにあったらお仕事してくださいって言ってくれませんか?」


「えっ?」


「クーナさんの言うことだったら、なんでも聞きそうだもの!」


 そ、そうだろうか。


 エレンさんはぷりぷり怒っていた。


 まあまあ、とシモンが笑って、お菓子を指し示す。


「一緒にティータイムでもしましょうか」


「あ……」


 わたしは恥ずかしくなってしまった。


「し、シモン……」


「ん?」


「ご、ごめんなさい」


「?」


 シモンがお皿を見る。

 それからあ、と口を開く。


「ルルが全部食べちゃったみたい……」


「る〜♪」


 ルルは能天気に口の周りをぺろぺろと舐めていた。


 それを見て怒る気もなくなっちゃって、みんな、笑ってしまったのだった。


 ──わたし、まだまだ不安こともあるけれど、なんとかここでやっていけそうな気がする。


 笑いながら、ふとそう思った。

 



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