第26話 買って帰ろ

 今日は珍しく綾香さんと一緒に電車に乗って帰っている。わざと時間をずらしたり、スーパーで待ち合わせしたりするんだけど。


 満員電車の中でペタッとくっついてくるから、かわいい〜。


 二人の関係は社内で秘密にしていること、綾香さんもあまり気にしなくなったのかな。うちの会社、井達さんカップルみたいなの人もいるから割とオープンなところあるし。


「明日から朝も一緒で良くない? 」って提案する。


「……うーん」


 綾香さんは返事と裏腹に満員電車をいいことにスーツの下から僕の背中に手を回して更にベッタリしてくるから、僕は顔は多分デレデレしてる。車内の他人からしたら、かなりムカつくバカップルだと思う。


 駅を出てラブラブに手を繋いで一緒に買い物をする。超幸せ。ニマニマする。


 ドラッグストアにも寄って消耗品も買う。僕は自分の整髪料を見つけて綾香さんを探すと、綾香さんが普段は僕しか寄らないコーナーにいる。


「妊娠検査薬? 」


「ぁうっ……」


 気不味そうな綾香さんだけど、思い当たらないわけない。殆ど毎日いっしょに過ごしてるんだから「そういえば」は僕でも分かる。


「買って帰ろ」と、綾香さんの手から検査薬を取ってカゴに入れる。


 あれっ? ってぐらい甘えてくるかと思ってたら、実は不安がっていたのかと思うと申し訳ない気持ち。僕にとって心配なのは、綾香さんにとってそれが望んでない事かどうかだと思う。


「ね、帰ろ」って、綾香さんの額にキスをする。


「うん」って綾香さんがホッとしたような顔をすると、何も考えてない僕はなんだか急にホクホクしている。


 綾香さんを本当に手に入れたような気がするなんて言ったら、完全に不謹慎なんだろうけど……。僕の男の性って最低だ。優しさが所有欲の裏返しで出来てるなんて。


 部屋に帰ったら、綾香さんの不安が何なのか聞いて応えてなきゃ。僕は今、自分の都合でしかイメージ出来てないのかもしれない。

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