第21話 プロポーズ

 要くんと付き合う様になって、私の部屋に要くんの日用品が増えて行く。前の彼氏はもう十年も前なもんだからほぼ痕跡が無くて、要くんが嬉しそうにマーキングしてる。


 要くんがキッチンでコーヒーを淹れてる。コーヒーメーカーは棚の奥から要くんが引っ張り出して来た物。


 ……部屋の勢力図が塗り替えられている?


 要くんがいっしょに揃えた2つのマグカップにコーヒーを入れてローテーブルに置く。


「綾香さん、コーヒー入ったよ」


「……うん。ありがと」


「綾香さん」「綾香さん」って、部屋でも会社でもしっぽ振って寄ってくる。(しっぽは生えてないわよ)


「目立つから止めて」と言っても、聞く気が無いもんだから、最近は、『要くんの飼い主』って呼ばれてるんだけど大丈夫か、私。


 バレてないわよねぇ……と心配してる。

 要くんは全く構わないって。


 まぁ、そんな話をした。


「ほら、しつこい僕に仕方なくって感じで良いでしょ? 元々僕が綾香さんを好きになってたわけだし」


 ふかふかクッションに転がってる私を拾い上げて、ソファーまで運ぶ。


「……ヤラセだ」


「ヤラセじゃないです」


 要くんの膝に座らされてのコーヒータイム。家主が要くんみたいになって、私がペットみたいに主従が逆転になってる。


 ローテーブルのコーヒーに手を伸ばそうとすると、要くんがぎゅーっと私を抱えた腕で抑える。


「コーヒーはまだ熱いから」


「はいはい」


「言わないと綾香さん猫舌だし♬」


「はいはい」


 猫舌じゃない要くんだけコーヒーを飲む。氷の一欠片でも入れてくれればいいのに。


 さっさと自分だけ飲み終わって空のマグを私のマグの横に置くと、要くんが私を抱えたまま立ち上がってベッドのある部屋に連れて行く。


「要くん、私、飲んでない」


「いつも冷ましてるでしょ? 」


「淹れたての匂いは別」


 文句を言うと、要くんがキスをする。コーヒーの香りと味と温かさが伝わる。うん、確かに、これだわ。


「……いや、一口」


「それは後で、カフェオレにしてあげます」


「ぶうぅ——っ!!」


「……ぶうぅ? 」


 要くんめ、調子に乗って。別にいいけど。悪態吐きたいだけだし。


 要くんは私とベッドに座る。


 そうだ、思い出した。スマホのLIN□を開く。


「そういえば、藤田くんがBBQしようって。井達くんも来るって」


「えっ? なんで藤田、綾香さんのLIN□知ってるの? 」


「聞かれたから」


「藤田〜〜! 僕だってやっとつなげたのに」


「要くん、変なところ遠慮するよね。社の女の子たちに聞かれたらホイホイつながるくせに」


「……うん」と、要くんが俯向く。


「えっ? そこ、落ち込むところ? 」


 半分泣きそうな顔になるからびっくり。


「悲しいこと思い出しちゃって」


「そうなの? 」


「綾香さんに距離おかれるような事したの、今思い出した方がキツいかも」


 あー、あの時は社内メールだけで業務連絡以外の事は避けてたし。私、規則ではないけど個人的なアプリは同僚とは使わないようにしてた。会社の人たちともLIN□繋ぐようになったの、要くんと付き合ってから。


 個人的な連絡手段を取らない私に、要くんはショック受けてた。私は要くんとの『誤ち』が薄まる事しか念頭に無かった。


 要くんが待ち伏せして「お話があります」って言った瞬間に、要くんが欲しい自分が爆発しそうなのを必死に抑えてた。


 要くんはメチャクチャだったけど、私の気持ちをこじ開けてくれた。


 あの時ちゃんと避妊しなかったこと実はかなり気にしてた。


「ごめんね」


「いや、だから綾香さん悪くないから」


「ん、じゃあ、仕切り直しで♡」


「うん」


 要くんの首に腕を回していっしょにベッドに転がる。要くんはキスで好きって訴えてくる。


 要くんの好きの重みが、実は結構ハマる。求められてるなぁ〜って感じが。


「綾香さん」


「なに? 」


「結婚して」


「えっ? 」


 いきなりドシッと重いの来たよ!

 若いって凄いな。


「……あ、今、若気の至りとか思おうとしたでしょ? 結構傷付くからやめて」


 要くんが先手を打ってくる。


「おも……ったりしない」


「絶対に、思ったでしょ。仕方ないけど」


「うん」


「返事して」


「……する」


 要くんが嬉しいって顔をする。それから私の胸に顔を埋めて、かわいいが過ぎる。


 大好き過ぎて死にそう。


 要くん、その後、プロポーズはサプライズを考えてたのにまた暴走しちゃったって悔やんでた。


 要くん、それで良いと思うけどね♡

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