第18話 ナチュラルな綾香さん(要くん目線)

 僕は切ない気持ちで休日を終えて、アンニュイな通勤電車に揺られて会社に着く。


「おはよう、要くん」と、綾香さんがかわいい笑顔で挨拶してくれた。


「おはようございます」


 前なら「綾香さん」「綾香さん」って、跳ねる様に追いかけてたのに、今はそれが出来ない。


 綾香さんが超ご機嫌で、キラキラしてて僕のフィルターに眩しすぎ。


 井達さんとデートして僕が上書きされたのかと思うと辛い。井達さんは「ナチュラルに振りやがって」って言ってたけど、そんなの分からない。


 システム手帳にバツ印付けられた僕に比べたら……


 僕の腕の中に捕まえたはずの綾香さんがすり抜けて、心のゼンマイが外れちゃったみたいで苦しい。


 僕の様子に他の女の先輩が声をかけてくれる。


「どうしたの、要くん元気ないね」


「大丈夫です。寝不足で。元気ですよ」


 にっこりと返す。


 それでも先輩たちが次々と僕に心配をかけてくれる。チョコやら飴やらが僕の机に届く。こんなに要らないのにってぐらい集まるから、愛されてるなぁ〜って感謝して僕は仕事に集中する。


 デスクに溜まっていくお菓子に、綾香さんが寄ってきた。綾香さんのいつものペース。


「あ、これ、好き。要くん、ちょーだい? 」


「……」


 座っている僕は、綾香さんを見上げる。包みからチョコをもう頬張ってる。こういうところ、凄く好きだ。


「ん? 」


 いたずらっぽい笑顔の綾香さんに貰われてくチョコにまでヤキモチ焼いて、僕は相当重症らしい。


 それにしても綾香さん、ナチュラルなかわいさ撒き散らして、最近は外回りしないで社内にいるもんだから藤田にまで「実はかわいいよな」なんて言われちゃって……


 綾香さん、僕が綾香さんを好きだと言うのが分かってないんじゃないかって、ふと気がついて……「あ——っ! 」って叫びそうになった。

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