第17話 ネタになる僕(要くん目線)
その日の夜、藤田たちとの飲み会の帰り道、綾香さんと井達さんが二人で歩いているのを見つけてしまった。
ショックで吐きそうになる。
やがて駅の前で二人が立ち止まり別れの挨拶の一幕になった。その場で別々の路線に乗るんだって分かってホッとする。
僕は綾香さんと同じ路線。追いつけるかな……と考えたけど、それは無理だった。
井達さんが、昼と同じ様に綾香さんの後ろ姿が消えるまで見送っていたからだ。
イラッとしながら眉をしかめていたら、井達さんが振り向いて僕に気がついてしまった。
「お、わんこ」
「すみません、倉本です」
やっと名前を伝えた。
井達さんは「倉本要だろ? 人の名前覚えるのは得意なんだ」って、しっかり口角を上げて笑う。
この人、僕が後ろからいつから居たのか気にならないのかな? どうでも良いのか。
「倉本、あれ、どう思う? 」
過ぎ去った綾香さんの帰った方向に指差して、唐突な話を仕掛けてくる。
「あれって……と、言われても」
「倉本、俺には愛想悪いな」
井達さんは興味ありありって顔で僕を見る。
井達さんにとって何が面白いのか分からないけど、確かに僕は誰にでも愛想が良い。ただ、井達さんにはそれが出来ない。嘘が通用しないって感じがして苦手だ。
「口説くつもりでも無かったのに、ナチュラルに振りやがって」
「……? 」
「二日後ぐらいにはネタになるって、お前か? 」
「知りません」
ムッとしてそのまま態度に出してしまった。相手が悪過ぎると思っているのに、むしろ、僕は井達さんの懐に甘えてるのだろうか。
「井達さんこそ、今更出る幕無いんじゃないですか? バツイチのまま十年来の仲で収まってて下さい」
二日後にネタになる僕と十年来ズレてる井達さん。
「言うね、お前」と屈託ない。
——ダメだこの人とは喧嘩にならない。僕で遊んでるなって感じだ。半分腹いせみたいに。
「はぁ……」と脱力したため息をつくと、井達さんが、また拳を僕に向けて"rock and roll"を誘う。
コツッて当てた拳がそこそこ痛い。井達さんが、フッと笑って「じゃあな」って帰っていった。
いや、かなり痛い。
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