第16話 番犬わんこ(要くん目線)

 会社の近くのファミレスで藤田と昼食を取っている。会社の人たちもちらほら見かける。


 少し離れた席に綾香さんを見つけた。


「挨拶行く? 」藤田が言うけど「忙しい人だから。最近、残業長いし」と止めた。


「綾香さん、クールビューティーって感じだったけど、実はかわいいよな〜 挨拶したかったなぁ〜」


 藤田が遠目の綾香さんの話をする。


「分かってるよ。そのうちね」


「わんこは、番犬かよ」


「わんこ言うなって」


 綾香さんは、あれっきり素っ気ない。いや、今まで通り、そつがない。


 週末一人カラオケしてるのは、実は知ってた。派手そうに見えてお一人様ばっかりしてて、独り言がおかしくて、結構ポンコツのくせに。


 お一人様を見られたのを狼狽えて僕を食事に誘って見栄を張るなんて、本当かわいい。


 男っ気無いと思ってたのに、井達さんの男気に隙間を埋められるんじゃないかと思うと、急に食欲が失せてきた。


 出向する前に僕にリハーサルしてくれる以外の時間、一緒に居られず外回りばっかりしているうちに井達さんが接近してるなんて……


 綾香さんは今はその気がなくても、井達さんはそうじゃない気がする。


 二人との年の差をこんな風に感じるなんて、僕だけが置いてけぼりみたいで悔しい。


 頼んだ日替わりランチを半分しか食べられなくて、藤田に怒られた。

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