第4話 安心して忘れて!

 私はコーヒーを片手にプライベート手帳を再び確認する。アプリの方にも、あの日を登録して安全を期す。


 ——よし、大丈夫!! 多分、おそらく……


 神妙な顔をして要くんがやってきた。わんこだったら、耳が垂れてクソかわいいってやつよ。


「あ、だ、大丈夫だから、安心して忘れて! 」


「……忘れて? 」


 要くんの額にかかる前髪が揺れる。横になると少し覗けるキレイな額……シャワーに濡れて掻き上げると色っぽい要くんの顔を思い出して、息の温度が変わりそうになる。


 ——二人きりになったらダメと改めて思う。


 不安そうな要くんの前に手帳を開いて確認させる。要くんが手帳を私の手から取り上げてパラパラとめくる。買い物予定のメモと生理予定日、美容院、親戚の集まりなどの予定以外色気のある事は何も書いていない。


「綾香さん、隠すようなプライベートって、無いんですね」


「そ……(それは言わないで)」


 要くんに何も言えない虚しさが胸を突く。


「しかも、あの日をバツ印……って、そんなにダメだったんですか? 」


「ちがう! そうじゃないのよ」


 要くんの手から手帳を取り返して、コーヒーを一気飲みして——要くんから逃げた。


『そんなダメだったんですか? 』なわけないじゃない。何言ってるのよ、リア充……いや、要くんはリア獣よ!! 最の高よ!?


 とにかく、私は社内で要くんと二人きりになるのを避けている。プロジェクトに私情は厳禁。それは、要くんへの指導でもあるし、私は社会的に死にたくない。


 まだまだキャリアを重ねて……この会社で成果という達成感を味わいたいの!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る