第3話 他人事ではない

 わんこ系野獣・要くんとの情事から数日、何事もなかった様に私は社内で仕事をこなしている。


「総務課の小堺君、騙されたらしい。家裁になるらしいよ」


「母子手帳で嘘ついたって」


「あー、あれ、役所行けば貰えるもんね」


「結局、仕込み切れずにバレちゃったって」


 本来ならプロジェクトリーダーである私は部下である彼女たちを叱る立場だ。でも、今回は他人事じゃなさ過ぎて耳がダンボ。


 聞こえないふりをしていたのに、彼女たちは私に話を振ってきた。


「綾香さん、その女、バカすぎますよね〜」


 ネタがネタだけに、私にまで聞こえるように話していたらしい。


「騙されちゃったのもどうかと思うけど」


 と、あっさりと返して私はプライベート手帳を開く。


「変な女に絡まれちゃうと大変ですよね? 」


「そ、そうね……」


 私は同意を求められるが、それどころではない。あの日はマトモに避妊してない……。恋人いない歴を更新してる私がコンドームなんか確保してないもの!


 ……直ぐ近くに要くんも座って仕事をしている。聞こえているに違いない。気不味い。


『出来ちゃったの、どうしよう……』なんて、要くんにいう羽目にはなりたくない。手帳を開きながら彼女たちの話に乗る。


「そうね。どっちもどっち過ぎるわね」


 ……冷や汗を掻きながらクールに応える。私は社内ではクールビューティーって言われている。それだけの努力をしてきた。


「ですよねぇ〜! ねぇ、要くんもどう思う? 」


 案の定、要くんも巻き込まれた。


「えっ? 僕はなんとも言えないな」


「えー、なんで? 」


「いや、なんだかんだ入籍までしたんでしょ? 好きじゃなきゃそういう事にもならないでしょ? 」


 要くん……それは、正論だよ。

 そうね、本当なら好き合ってなきゃ女が妊娠するなんて無いわよね。レイプでもない限り……。あ、ってのがあるわね!


 ——『好きじゃなきゃ』か、改めて重い!


 私なんて、自分の身体が何とか賞味期限ギリギリなのが確認出来たぐらいよ……


 もう、要くんの若い肉体に溺れました!! いや、要くんならきっと軽く三十年は旬で味わえそうよ!!


 ……とにかく良かった!! (力強く)


 私は要くんが巻き込まれているのを隙に、今月の排卵予定日を確認する。アプリも使ってるけど、手帳に書き込む習慣は保持している。


 手帳を確認して、

『よ、よし、多分、安全……』


 私は、この安心感を味わう為にデスクから離れてコーヒーを飲みに行く事にした。

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