第4場 変われるチャンスが来た

     ボロボロになったアケチが転がり込んでくる。


クレノ アケチさん! その格好! いったい何が!

アケチ 何とか、本土のセキュリティを突破してきた。

ラブピ 帰ってくれませんか? 僕たちも危険です。

パンタ 空気読めよ! 人間か、お前は! 

ツクヨ わけがあるはずよ。ここまでしてやってきた。

アケチ (手紙を託す)これを……。

ハルナ 私に?(ひったくって開く)読めませんけど。 

ツクヨ 私?(ハルナから受け取る)暗号化されてる。

    To-morrow, and to-morrow, and to-morrow,

    Creeps in this petty pace from day to day

    To the last syllable of recorded time,

    And all our yesterdays have lighted fools

    The way to dusty death. Out, out, brief candle!

    Life's but a walking shadow, a poor player

    That struts and frets his hour upon the stage

    And then is heard no more: it is a tale

    Told by an idiot, full of sound and fury……。*5

    解けました。(アケチに何か囁く)

アケチ ありがとう……君の方だと思ってた。

クレノ アケチさあん……。ツクヨさん、すごい……どうして?

ツクヨ 戦おうよ。ゾンビウィルスだって撲滅できたんだから。

ラブピ 違う……時は必ず来る。信じるんだ。(逃げ去る)


     アケチが去ると、ハルナが去る。

     パンタ、クレノとツクヨを残して気まずそうに去る。


クレノ ……初めてです、こういう雰囲気も。状況はともかく。

ツクヨ はい、会計報告。文化祭の。(椅子に座る)

クレノ あ、ごめん、忘れてた、委員会。(椅子に座る)

ツクヨ 領収書読み上げお願い。私、計算するから。

クレノ ええと、ペンキが1053円……何で、あんなことが?

ツクヨ (計算機=スマホを使う)……内緒。クレノ君は?

クレノ 障子紙1本398円で3本……ゲームは小3の時から。

ツクヨ (計算の結果を報告に記入)……強かったの?

クレノ ブルーシートが1枚938円……小5で優勝した。

ツクヨ (計算機=スマホを使う)……特技って、いいね。

クレノ 薄ベニヤが1枚525円で2枚……ツクヨさんだって。

ツクヨ (計算の結果を報告に記入)……個性って言って。

クレノ 釘が1箱で609円……じゃあ、あの暗号、何なの?

ツクヨ (計算機=スマホを使う)……説明するだけムダ。

クレノ ひどいな、レシートだよ……じゃあ、ゾンビって?

ツクヨ それはねえ……苦しみや痛みを感じなくなること。

クレノ はいはい、自己責任……そのゾンビ、どうなった?

ツクヨ 聞いてるでしょ……壁の向こうに追い払われたの。

クレノ はい、終了(領収書を渡す)……それが海岸の壁? 


     ブルーシートの「壁」が立ち上げられている。


クレノ (歩み出る)ツクヨさん? その後は? あれ?


     ハルナ・パンタが戻ってくる。


ハルナ ツクヨ? ちょっと話があるんだけど。

パンタ 画面で言っとけばログインしなくていいだろ。

ハルナ 直接話がしたいのよ、クレノ君のこと。

パンタ 直接じゃないだろ、部屋出られない時点で。

ハルナ ねえ、ツクヨさんのこと、どう思ってる?

クレノ いや、すごいなと……あんなことができて。

ハルナ 来る時が来たら、私だって……。

クレノ 見なかった? ツクヨさん。

ハルナ 何か大事な用?

クレノ いや、海岸の壁とかウィルスのこと、教えてもらおうと。

ハルナ 私でも知ってる、そんなの。

    ……10年くらい前? ブタがウィルスでゾンビ化したの。

パンタ 急に襲いかかったんだよね、普通のブタに。

クレノ 大丈夫だった? ハルナもパンタも。

パンタ 学校休みになったよね、壁できてウィルスなくなるまで。

クレノ どうなったの? 襲われたブタは。

ハルナ ゾンビになって、壁の向こうに送られた。

クレノ 何で、今でも壁があるの?

パンタ イノシシを入れないためさ、ウィルスを運んでくる……。


     轟音。ツクヨがブルーシートの奥へ消える。

     椅子にしがみつく3人。矢が空を切る音。


クレノ (受け止めて)これは……。矢文?

パンタ 何て? 

クレノ アケチさんからのメッセージだ。

ハルナ 見せて!

パンタ どうせ読めないだろ。ツクヨさんじゃないと。

クレノ ツクヨさん! 来てよ!

パンタ ツクヨさん? 見てるんでしょ?

ク・パ ツクヨさ~ん!

ハルナ 読めるってば! えーと……。


     ラブピが戻ってくる。


ラブピ 声に出すな!

ハルナ 何よいきなり!

ラブピ 誰が見てるか分からない。

パンタ こんな過疎化したSNSのゲームのチャット。

クレノ でも、ツクヨさんは見てるよ、きっと。

ラブピ やめろ! これ以上巻き込むな、ツクヨさんを!

ハルナ (おもむろに読む)ワクチン完成。以上。

クレノ ……来た! ほら来ました、勝利への抜け道! 


     クレノ、一同を差し招く。ラブピは来ない。


クレノ っていうことは、もうウィルスの心配はない。

ハルナ ね、クレノ君、帰ったら2人で出かけない?

クレノ いや、俺たちは帰らない。

パンタ 何で? 帰ろうぜ、座ってんの限界。

クレノ 悪いけど、協力してくれ。現実を変えるために。

ラブピ それ以上喋るな。

クレノ 俺は、いい格好したいんでな。お前と違って。

ラブピ やめろ! じっとしてろ! 時を待て!

クレノ 今が、その時じゃないのか? 今なら勝てる。

パンタ 何に? ウィルスに? 教師どもに?

クレノ システムと、ルールと……イノシシそのものに。

パンタ 何でオレたちがそこまで?

クレノ イノシシが野放しだから、こんなことになるんだろ?

ハルナ なるほど……。確かに、私たちにしかできない。

クレノ 座れと言われたら座る。それでいいのか?

パンタ オレは……嫌だ。今まで言えなかったけど。

ハルナ 壁で守ってもらってるんだと思うと、ね。

クレノ 誰が文句言える? イノシシを撲滅した俺たちに。

パンタ どこにいるか分からないイノシシに、怯えてたけど。

ハルナ もう、イノシシは怖くない。私たちは、無敵だから。

クレノ ……そう、最強で無敵。最高の抜け道です、これは! 


     再び矢文。


ラブピ 読むな!

パンタ うるせえな……何て?

クレノ 「副作用の恐れあり。使用は本人の責任で」

ハルナ 何かまずい?

パンタ 普通の薬の注意書きだよ、こんなの。

クレノ とにかく、使えばウィルスもイノシシも怖くない。

パンタ やるか?

ハルナ やっちゃう?

ラブピ それ以上言うなよ。本当に危ないからな。

パンタ 何だよ、いつも偉そうなことばっかり言ってさ。

ハルナ せっかく、みんなやる気出してるのに。

ラブピ 本気にしたくないだけさ、そんなおとぎ話を。

クレノ 行けよ、どこへでも。止めないから。マップ広いんだろ。

ラブピ 分かった……ツクヨさんを巻き込むな。(去る)

ハルナ ずっと来ないでほしいな、アンタにも、ツクヨにも。

パンタ さて、作戦会議だ。

クレノ ワクチンを打って、船を降りたら味方を増やす。

パンタ 船長も、船員も、教師どもだっている。

クレノ 生徒は300人だ。船員も味方につくかもしれない。

ハルナ どっちにしてもリーダーが必要ね……クレノ君。


     パンタとハルナの視線に、クレノ、胸を張る。


クレノ ……僕は変われるかもしれません。この、異世界なら。


        

     ブタを題材にした曲(3)。踊り出すブタたち。

     パンタ・ハルナ・ツクヨの椅子が取り除かれる。

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