第3場 初めての仲間が来た

ラブピ (冷笑)残念。アテがはずれたな。

クレノ 別に、アテになんかしてない。

ラブピ ルール無用の、無敵のヒーローにすがろうとした。

クレノ そんなことない! 俺には俺の力があった。

ラブピ このゲームの中だけのな。

ハルナ アンタもアケチさんのおかげで助かったじゃない。

ラブピ そのとき僕はいなかったろう?

パンタ 逃げたんだろ。いくらこのゲーム、マップ広いからって。

ラブピ ムダと分かってることはしないことにしてる。

ツクヨ ……ムダじゃないよ。何もしないよりは、いい。

ラブピ 何もしてないって? 僕が?

パンタ お前、何のためにログインしてんだよ。

ラブピ それは……。

クレノ じゃあ、もし俺とアケチさんが戦わなかったら?

ラプビ イノシシがここと僕たちを食い荒らしていたろう。

ハルナ よくそんなこと、平気で言えるわね。

ラブピ たかがゲームだ。スマホはまた替えればいい。

パンタ じゃあ、クレノがやったことはムダだったのかよ。

ラブピ 忘れるな。僕たちはここから出られない、本当は。

クレノ じゃあ、何もしなくていいっていうのか?

ラブピ ひとりひとりが、じっと終息を待つしかない。

クレノ 座れと言われたら、座ってないといけないのか?

ラブピ ルールやシステムの破壊なんか、幻想にすぎない。


     ノックの音。全員、椅子に座ってスマホをいじる。   


クレノ ……ルール。システム。それは、俺の敵でした。    

ラブピ (立ち上がって)はい、じゃあ、グループを作って。


     ブタを題材にした曲(2)

     クレノの椅子を頂点に、学習グループが作られる。


ラブピ 問題! 象を冷蔵庫に入れる方法を考えること。

クレノ ……賑やかな授業についていけなかった。


     曲が続く中、椅子が元の位置に戻される。

     

クレノ ……やがて迎えた高校受験。(歩み出る)

    勉強がイヤで、ネットでの交流を覚えました。

    そこで受験テクニックを教わって、運よく合格。

    そのとき気づきました。

    ルールやシステムと正面から戦ったってダメだ。

    必ず、どこかに抜け道があるはずだということに。

    ……ハイ! 「象」を、カナで書けばいいんです!


     音楽が消えていく。


ツクヨ (歩み出る)……気にしなくていいよ。

クレノ ありがとう。気にしてくれて。

ツクヨ あの、ラブピ君だって、本当はいいブタだから。

クレノ ……ネットでもそう。「クレノ君も本当は」って。

ハルナ (しがみつく)最高、クレノ君! 格好いい!

クレノ ……もっとも、高校では、こんなことなかった。


     ハルナ、逃げる。


ハルナ うわ、何、気色悪っ!

ツクヨ え、こういうの趣味?

ハルナ んなワケないでしょ? ぶつかっちゃったのよ。

クレノ あ、ごめん……。

ハルナ (無視)何か言った? 最近、空耳ひどくてさ。

ツクヨ (無視)っていうか、誰かそこにいる?

クレノ ……そう、俺なんかいなくたってよかった。


     ハルナ、振り向く。ツクヨは振り向かない。


ハルナ もう、クレノ君なしじゃいられない。

クレノ アケチさんじゃなくて?

ハルナ 私が思ってたことを、みんな言ってくれたでしょ?


     パンタが2人の間に割り込む。


パンタ そうだよクレノ! お前なしじゃいられない!

ハルナ 邪魔しないでよ! 今、いいとこだったのに!

パンタ (無視)どうやったらあんなに勝てるんだよ!

クレノ ……ここに来る前は、こうでした。


     ホイッスルの音と共に、バスケの試合の邪魔。


ハルナ 邪魔しないでよ! 今、いいとこだったのに!

パンタ どうやったらあんなに負けんだよ

クレノ ……たかが球技大会に、と思っても言えません。


     銃声と共に、ブタゾンビ殺戮ゲームが始まる。


クレノ ……学校の隅でコレやってたほうがマシでした。

パンタ ボサっとすんな、来るぞ!

クレノ 死ね! ブタゾンビどもが!

ハルナ 何それ? 何ゾンビ?

パンタ とっくの昔に片付いたろ、ブタのゾンビ化は。

クレノ ……無敵で万能でいられるのが、ゲームの世界。

パンタ 今はイノシシだろ。イノシシ撲滅!

ハルナ また守ってね、イノシシから、私を……クレノ君。


     クレノの前から、ツクヨが立ち去ろうとする。


クレノ いや、イノシシイノシシって……こういうんだろ?


     クレノ、イノシシっぽい格好をする。


パンタ 何それ? 

クレノ いや、イノシシだよ。(真似をする)

ハルナ ああ、イノシシね? イノシシ……(真似をする)


     立ち止まるツクヨ。


クレノ いや、今、撲滅とか守ってとか言ってたろ。

ツクヨ イノシシに、それと分かる姿はないわ。

クレノ でも、さっきこのゲームに。

ツクヨ 本当は、他のブタと見分けがつかない。

クレノ じゃあ、俺たちが倒したのは?

ラブピ たかが絵に描いたゲームのイノシシだろ。現実じゃない。

ツクヨ でも、間違ってない。イメージとしては。

ラブピ 海岸の壁が阻む、不都合で恐ろしいもの全て……。    

パンタ それをまたツクヨさん、よく知ってるな。意外。


     沈黙。すくみ上るツクヨ。


ツクヨ それは……。

ラブピ 行こう、ツクヨさん。

クレノ ちょっと、まだ話は終わってない。

ラブピ するだけの値打ちがあるとは思えないな。

クレノ 何でだよ。敵の正体を知るのがムダなのか?

ラブピ その次に始まるのは、イノシシ探しだ。

クレノ いけないか? 感染源を見つけて取り除くのが。

パンタ あ、なんで思いつかなかったんだろ。

ラブピ じゃあ、どうやってイノシシを探す?

クレノ それは……


     パンタとハルナ、椅子に戻るクレノを背中にかばう。


ハルナ それ以上言わないで、クレノ君に。

パンタ 絶対、何か手があるはずだ。

ラブピ ない。僕たちの知恵なんか、たかが知れている。

パンタ じゃあ、このまま死ねっていうのかよ、ウィルスで。

ラブピ まだ死ぬと決まったわけじゃない。

パンタ でも、一人死んでるじゃないか、あの島で。

ラブピ 僕たちは死なないかもしれない。

ハルナ しれない? 「絶対死なない」って言えないんじゃね。

ラブピ 焦るな。時を待とう。チャンスは必ず来る。


     クレノ、パンタとハルナの間から顔を出す。


クレノ ……こんなの初めてでした。仲間がいるなんて。

パンタ 口ばっかりじゃないか、お前。今まで何かしたか?

ハルナ いつも隠れてばっか。イノシシからも逃げたし。

ラブピ スマホ壊すんだろ、あれ。唯一の通信手段は守る。

パンタ クレノは戦ったじゃないか。そんなの怖がらずに。

ラブピ ログアウトすればいい。ウィルス感染は防げるよ。

ハルナ この世界はどうなるの? この、私達のゲームは。

ラブピ なくなっても、死にはしないさ。たかがゲームだ。

ツクヨ でも、私、みんなといられて楽しい。

ラブピ ツクヨさん?

ツクヨ この世界がなかったら、私、ひとりぼっち。

ラブピ そんなことない。今までだって……。

ツクヨ 変な言い方だけど、閉じ込められてよかった。

ハルナ 台無しじゃない、修学旅行も、クルーズも。

ツクヨ このゲームのチャットしかないけど、話ができた。

クレノ ……その気持ち、分かります。俺も、そうでした。

ラブピ ここから逃げたっていい。話そう、本当の世界で!

クレノ 現実で何ができる! ゲームで仲間を守れないで!


     ハルナ、パンタ、歩み出るクレノに道を空ける。


ラブピ 変えられるのか? 現実を。いい格好するだけで。

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