第6話 狩る者と狩られる者達


「よし、話が終わった所で行動開始ね」


キョウカは意気揚々と言う



「行動開始ってまず、どやって魔族を捜すのさ?

それに準備は?俺、なんも持ってないんよ」


何度も言うようだが、亜真斗には戦う術がない



「RPGじゃないんだから、武器屋とか道具屋なんてあるわけ無いじゃない

でも、秘密裏ではあるけど、魔族討伐本部ってのがあるから

そこに連絡して、なんか情報を引っ張ってくるわ」


キョウカは淡々と話を進め、どこかに電話し始めた




世界の命運が掛かっているはずなのに、軽い感じに亜真斗は少し疑問を感じた






「わかりました、ありがとうございます」



キョウカは電話を切った




「間もなくこの辺りにゲートが現れる

そこに乗り込みましょう」



「ゲート?」



「魔物の住処、世界の裏、魔界への入り口のことよ

都会の近くなのに、前から廃屋のままってのは恐らく

魔物共がゲートを守っていたからかもね」



「本部ってのはそのゲートがいつどこで開くとかがわかるのか?」




「たまたまだけど、本部には高レベルの予知能力者がいて、その予知に引っかかったみたいね

それに好都合なことに、その情報を聞いて

他のハンターがここに向かってるみたいよ」



亜真斗は少しほっとした


「他にもいるんだね、そういう人」



「そうね、全ての人が魔物のことを忘れた訳じゃないみたい

ただ大抵、くせ者しかいないけどね」


キョウカはほくそ笑みながら言う


「くせ者とは失礼ね新人さん」


入り口の方から声が聞こえた




そこに程よく美人のお姉さまと


身長体格から男と思われる、何かの生き物をモチーフにしたマスクを着けた人と


人とはおもえないほど大きいクマのような大男と


スナイパーライフルを携えた中性的な少女



どうやら魔族ハンターのパーティーのようだ



「ほらね」


キョウカはしかめっ面をしている





「あなたたち2人だけ?

にしてもみすぼらしい格好ね

足を引っ張らないでよ」



あからさまに亜真斗の方を見て

姐さんは毒を吐いた



亜真斗は返す言葉もない




「別に手柄が欲しい訳じゃないから

私たちのことは気にしないで、お構いなく」



キョウカは冷たい目をしてあしらう







そして突然、亜真斗とキョウカは感じた





魔の気配






部屋の真ん中辺りにゲートと呼ばれる

時空の歪みが現れた



その直後にクマさんはゲートに突っ込んでいく




「ゲートが開くということは、魔族がこちら側に来ようとしているってこと

彼はそれを妨害する奇襲担当よ」



そう言いながら姐さんとマスクマンは

ゆっくりとゲートに入っていく





「おれ、大丈夫なんかな」


亜真斗は呆気に取られ、小さくつぶやいたが

キョウカに聞かれていた



「大丈夫大丈夫、この奇襲に便乗して

情報収集に専念しましょ

使えるものは使わないと損よ…あ」



キョウカは企み顔で言った後に気づいた


まだスナイパーが自分の後ろにいることに



そっとキョウカは振り返った




「…私は……後衛…だから……先にどうぞ……」



「大丈夫そうね、私達も行きましょ」





亜真斗は腹をくくった





いざ魔界へ






ゲートに入る、景色が歪み始め


次第に見知らぬ景色が現れた




するとそこに、先発のクマさんが倒れていて



姐さんは剣を振るい、必死に魔物の群れを切り払っている



マスクマンは少し離れた所で、

身長の2倍はあるであろう巨人の猛攻を躱している所だ






恐らく奇襲は失敗である




「しょうがない、援護するわよ」



そういうとキョウカは巨人のいる方に走り出した



亜真斗は足がすくみ動けない




すると1匹のゴブリンが斧を構え


クマさんに近付いている




トドメを差しに来たようだ





やらなければやられる




亜真斗は勇気を振り絞り、ゴブリンに向かって走りだした



そしてその勢いのままゴブリンに飛び蹴りを浴びせた


ゴブリンは吹き飛ぶ


そのまま亜真斗はゴブリンの落とした斧を拾い

立ち上がろうとしているゴブリンに一撃を決める



安心したも束の間

突然亜真斗の体が宙に浮く


肩が痛い



羽の生えた魔物、ガーゴイルに肩をつかまれ

連れて行かれようとしている



「なんだてめぇ離せこのやろぉ」


亜真斗は抵抗するも振りほどけない




それに気づいた姐さんがこっちに向かって

何かを投げた



それは目の前をかすめた


そしてガーゴイルの頭部にダガーが刺さっている



姐さんに助けられた



そして亜真斗は地上に転がり落ちる




気付けば亜真斗は、姐さんと共に魔物に取り囲まれていた



「弥彦が助けられた借りを返しただけよ」


姐さんは息を切らしながら言う




恐らく、弥彦とはクマさんのことだろう





亜真斗は姐さんが倒したであろう魔物の剣を拾い言う


「足を引っ張らないよう努めますね」





魔物達の猛攻が始まる




亜真斗は必死に魔物の気を読み取り、攻撃を躱す



体がなにか覚えているようだ


不格好ながらも躱しながら剣を振るう




そして突然、猛攻が止まる



亜真斗はなにやら不気味な感覚を感じる





[死]




亜真斗は集中しその感覚を辿る



そこには魔物と睨み合いを続ける姐さんがいた





亜真斗は無我夢中に走り出し、姐さんにタックルで突き飛ばした



「ちょっとあんた、なにしてんのさ!」




その直後、先ほど姐さんがいた足下から

土がせり上がり、大きな手が現れた



その手はなにかを捜しているようだった




恐らく、あの場所にいれば握りつぶされていただろう





そして、そのまま巨大な手の持ち主は

地面から這い出てきた





遠目で見た巨人と同類


全身が土で成り立ってるゴーレムのようだ






ゴーレムはその巨大な手を振り回す




「あぶねぇ!こんなの喰らったらひとたまりもないぞ」


亜真斗は間一髪躱すことで精一杯だ




「図体がでかい分、懐が隙だらけだ」


姐さんは果敢にも攻め、斬りつける




だが、土の体に刃が通らない






振り回すは腕は段々と速度を上げ

亜真斗達に襲いかかる





「め.めちゃくちゃだ」



腕を躱しても地面ごと周囲を吹き飛ばす





[死]の感覚が周囲を包む



逃げ場が見つからない






絶体絶命かと思われたその時に



[死]の感覚が疎らに散りはじめる







ゴーレムの顔が削れ落ちていた



恐らく、一時的ではあるが視覚を失っている





「よくやった、セン」


姐さんは遠くを見て言う



「セン?」


あのスナイパーのことらしい

そしてスナイパーの撃った弾がゴーレムの顔に命中したようだ




「ひとまず引くよ坊や」


 

「坊やじゃない立花だ」





息を切らしながらその場を離れる





「立花.ね、自己紹介すらまだだったわね」



「霧夜[キリヤ]よ

いつだれが死んでもおかしくない世の中だからこそ、ちゃんと覚えておきなさい」



「そんな縁起でもないこと言わないで下さいよ霧夜さん………キリ…ヤ?」



亜真斗の脳裏に浮かぶ光景、そしてその時

聞いた声

それに合わせ亜真斗は口走る



「インビジブルリッパー キリヤ」



「ちょっとなによそのダサい呼び名…は?」





2人は時間が止まったように沈黙する








その間にもゴーレムはこちらに迫ってきている




センがあらゆる箇所に弾丸を撃ち込むが

ゴーレムは突き進む



すると霧夜が小さな声でつぶやいた


「こんな刃じゃ話にならないじゃない」


そう言いながら武器を地面に捨てた




そして、ゴーレムの方に向きを変え

霧夜は両腕を掲げる



「こんな大事なこと忘れちゃってるなんてね…」





亜真斗は感じた、風の流れが変わったことに



霧夜を中心に風が戦闘体勢に入ったみたいな感覚だ









「霧夜家に代々伝わる、対魔能力

その身に刻んで頂けるかしら?」





そして霧夜は両腕を振り下ろし叫ぶ




「サウザンドエッジ!」






周囲の風が一斉に動き出す




瞬く間に無数の風の刃が、ゴーレムの体を削り取っていく









「なにあれ?!」


離れて交戦中のキョウカも感じた膨大な力を





「力を取り戻したか‥不可視の刃…」


マスクマンが小さく呟く







ゴーレムの体はもういつ崩れてもおかしくないぐらいボロボロになっている





そして暴れ回った風がゴーレムの上空に集まった





亜真斗の記憶とリンクする



過去に出会ったキリヤと名乗る青年の奥義




そして、亜真斗は小さく口走る

それと同時に霧夜も叫ぶ



「刈り取れ、イマジンサイス!」

「刈り取れ、イマジンサイス!」






上空から一閃の刃がボロボロのゴーレムを

粉々に打ち砕く





ゴーレムを構築していた土が風に流され、霧散していく








だかしかし、次に亜真斗の足下に[死]の気配が



「またゴーレムか!?」



そこに亜真斗は魔の気を感じとった




なにかがゴーレムを生み出していると気付き


すぐさま辿り、追いかける




その先に杖を持った魔術師のような魔物




「おまえが元凶か!」


亜真斗は魔術師に飛びかかる





が、土の障壁に阻まれた




亜真斗は弾かれた衝撃で地面に倒れ込む



そこにセンの弾丸が障壁ごと魔術師を貫いた





「さすが、スナイパー様だぜ…」







そして、キョウカとマスクマンが交戦中のゴーレムも

術者を失い、崩れ去っていく





亜真斗達は、無事に敵の包囲網を看破した




霧夜が亜真斗に駆けよる

「よくわかんないけど立花

あんたのおかげで記憶を、力を取り戻せた

感謝するわ」



「いや、俺もよくわかってないんです

こちらこそ助けられて感謝ですよ…」






キョウカとマスクマン

そして、意識を取り戻したクマさんと合流した






「さぁここからが本番、反撃開始よ」

霧夜が鼓舞する




だが敵の本拠地の建物とは違う方角から

魔物の軍勢がこちらに迫ってきていた



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