86:銀と赤の姫たち

 場所はフリーティング王国。


「わぁ……!」


 フィーベルは思わず声が漏れる。


 王城の中にある長い廊下。

 その壁に、大きな油絵が飾られている。


 描かれているのは二人の人物。


 一人は白い上品なドレスに身を包み微笑む母、フィオ。左手にはカスミソウと白ユリの花束を持っていた。そんな彼女の左手には、きらりと光るダイヤモンドの指輪。


 もう一人は、凛々しい顔付きの父、ベルガモット。白を基調としたタキシード姿で、靴まで真っ白だ。フィオと仲良く並んでいる。フィオの顔には笑みがあるが、ベルガモットの表情は真顔だ。いつも以上に厳格な様子がありありと出ている。緊張していたのかもしれない。


 二人の絵をじっと見つめ続けるフィーベルの傍には、本物のフィオがいる。嬉しそうな表情ではにかんでいた。だが、そんな妻と娘を見ていた本物のベルガモットは、自分の絵に渋い顔をしていた。


「……わざわざフィーベルに見せることないだろう」

「あらいいじゃない。結婚した姿、どうしてもフィーベルに見せたかったんだもの。ファイが急かさなかったら、直にも見てほしかったわ」


 フィーベルが帰国している間に、二人は結婚式を挙げたらしい。フィオは娘にその姿を見て欲しいと思っていた。が、フィーベルがフリーティング王国で暮らすのかどうかまだ分からない時期だったことと、ファイが「さっさと結婚しろ」と急かし、国中に結婚式の日取りを先に発表してしまったせいもあり、叶わなかった。


「そもそも式だって大勢の前で挙げる必要はなかった」

「あら駄目よ。この国の姫がようやく結婚したのよ? 国中を挙げてお祝いしないと、国民にも申し訳ないわ」

「俺は目立つのが苦手なんだ。フィオだけ前に出たら、」

「もう、まだそれを言うの? この国の姫が一体誰を選ぶのか、みんなとても楽しみにしていたわ。あなた、緊張でずっと怖い顔をしていたでしょう。それが逆にちゃんと守ってくれそう、って思ってもらえたのよ。よかったわね」

「よくはない……」


 ベルガモットが堪えるような表情になる。

 どうやら色々あったらしい。


「私はお父様とお母様の晴れ姿、拝見できて嬉しいです」


 フィーベルはにっこりと笑う。


 直接見ることはできなかったからこそ、フィオはわざわざ絵として残してくれた。フィーベルだって、できれば直接二人の晴れ姿を見たかった。でも現実的にそれは難しかった。ファイの気持ちも分かる。だからこうして絵で姿を見ることができてとても嬉しい。

 

 途端にフィオの顔が明るくなる。


「ほら。私達の娘がこう言っているのよ?」

「……フィーベルが、そう言うなら……」


 ベルガモットは渋々納得する。元々絵にされるのは拒んでいたようだが、フィーベルの名前を出されたら黙ったらしい。強面だと言われているが、娘にはだいぶ甘い。


 と、二人の絵の隣に、別の絵が飾られているのが目に入った。


「ファイ陛下もご結婚なさったんですね」


 現国王であるファイも、タキシード姿だ。その隣には、綺麗なブロンズの髪を持つ女性の姿があった。桃色のたれ目が愛らしい印象を受けながらも、大人びているようにも見える。歳はファイより少し上らしい。


「元々婚約はしていたんだけど、私のことを気遣って、なかなか結婚していなかったの。彼女の名前はフランソア。今はこの国の王妃ね。後で挨拶する?」

「はい」


 三人は自然と横になり、そのまま手を繋ぐ。

 他愛もない話が始まり、穏やか時間が過ぎていく。




 フィーベルはフリーティング王国で暮らすことを決めた。期間は特に決めていない。最初は迷っていた。迷っていたからシェラルドに相談し、クライヴにも相談した。母に手紙を送り、素直に迷っていることを伝えた。すると母は、すんなりと受け入れてくれた。同時に、わがままを言ってしまってごめんなさい、と手紙に書いてくれた。


 その後、シェラルドの両親に挨拶する機会を得た。「親子」というものに、羨ましさや、思い出を作りたいという願いが溢れた。シェラルドは行ってこい、と、背中を押してくれた。


 母に再度、やっぱりしばらく一緒に暮らしたいと手紙を贈れば、喜んで、と一言返ってきた。クライヴからも行っておいで、と優しい言葉をかけてもらい、行くことが決定した。


 出発する日が決まってからは、皆とできるだけ話したり、会う時間を作った。シェラルドともたくさん一緒にいた。しばらく離れても寂しくないよう、できるだけ二人でいられる時間を確保してくれた。


『フリーティング王国にいる間、こっちのことは気にしなくていい。俺のことも』

『え! シェラルド様のことを忘れたりなんかしませんよ』


 すると苦笑される。


『そういうことじゃない。家族の時間を大切にしてほしいんだ』

『シェラルド様……』


 フィーベルは思わず口にしていた。


『好きです』

『急にどうした』

『急じゃないです。前よりもっと、好きになってます。惚れ直してます。……んぐっ』


 急に強く抱きしめられてしまう。

 シェラルドは小声で呟く。


『それは俺の台詞だ』

『私は普段と何も変わらないですよ?』

『前よりさらに可愛いこと言うようになった』


 思わずきょとんとしてしまう。

 だがフィーベルはふふ、と笑みをこぼす。


『きっと、シェラルド様と一緒だからです』

『そういうとこだぞ』

『え?』


 シェラルドの姉からもらった指輪も、ネックレスにして首元にある。今も赤く光り輝き、最愛の婚約者が想ってくれていることが伝わる。今、自分の左手にプロポーズ時にもらった指輪があるが、どちらもフィーベルにとって大切な宝物だ。


 フリーティング王国に来てすぐ、両親から結婚式を挙げた話を聞いたわけだが、以前よりもすんなり話せるようになった。前はあんなにも緊張していたのに、お母様、お父様、と呼べた。手も繋いだ。二人共嬉しそうにしてくれた。着実に少しずつ、今まで得られなかった、親子の時間を育んでいった。




 それから一ヶ月経った頃。


「フィーベル様、お客様です」


 世話係であるアンジュに呼ばれ、客間に向かう。フィーベルはフリーティング王国にいる間、王族としての立ち振る舞いをすることになり、今日はシンプルなドレスを身に付けている。王族としての礼儀作法を教えてもらったり、国の勉強もさせてもらっている。勉強自体は好きなこともあり、今のところ順調だ。


 向かった先には知っている人物。

 フィーベルは笑みがこぼれる。


「ユナさん」

「フィーベル様。お久しぶりです」


 アルトダストの第一王女、、ユナだった。


 今日も長く美しい赤い髪を揺らしながら、落ち着いた色合いのドレスを身に着けている。側近時代の方が長いといえど、姿勢が綺麗であり、女神のように麗しい。アルトダストでは正式に王族として認められ、国民へのお披露目もあったようだ。国のために尽くしたユナを、国民はすぐに受け入れた。もうすぐユギニスの戴冠式も行われるようだ。


 彼女と会うのは本当に久しぶりだ。お互いドレス姿、姫と呼ばれる立場で会うのは初めてだったりする。にしてもユナの立ち振る舞いは自然で姫そのものだ。もはや側近時代があったことの方が嘘のように思えてしまう。フィーベルは感心した。


「さすがユナさん。ドレスも着こなしていますね」


 フィーベルはここに来てからドレスを毎日着るようになったが、何日経っても慣れない。魔法兵の制服は動きやすさ重視。ドレスはあまりに窮屈で、たまにでいいと思ってしまった。それを毎日着こなしながらも優雅に小走りする母を見てはすごい、と素直に尊敬していたりする。


 すると苦笑されてしまう。


「そう見せているだけで、内心いつも緊張しています」

「え。全くそう見えないです」

「顔にあまり出ないだけです」

「あの、敬語はなくて大丈夫ですよ。私の方が年下ですし」


 ユナのことは、本人からも、フィオからも聞いている。母と共にずっと守ろうとしてくれたことも知っている。だからか、なんとなく、フィーベルにとってお姉さんのような存在になっているのだ。


 だからもっと、仲良くなりたいと思っていた。ユナはどこか、フィーベルとフィオに対して、恭しい態度で接することが多かったから。


 相手は少しだけぎこちなくなる。


「王族の振る舞い方はかなり身につきましたが、口調だけはまだ慣れないのです。どうにも固くなってしまって」

「私の前では大丈夫ですよ」

「あまり、女性らしくありません」

「気にしません」

「…………」

「あ。無理にとは言わないので……」


 本当に気にしないからそう言ったが、逆に気を遣わせてしまったかもしれない。フィーベルは慌ててフォローするが、ユナがふっと小さく微笑む。


「本当に、いいか?」

「! はい」

「ほら。この格好ではかなり浮いてしまう」


 ユナはドレスの裾を少しだけ持ち上げる素振りを見せた。確かにフリルや刺繍のある今のドレス姿では、少しだけ違和感はあるかもしれない。だが側近姿のユナを思い出せば、とても自然だった。


 フィーベルはにこやかに笑う。


「ユナさんだなって、感じます。たくさん苦労をされてきたからこそ今のユナさんがあるんです。私はそんなユナさんとお話できることが嬉しいんですよ」

「……本当に、優しい。フィーベルはフィオ様とよく似ている」

「そうですか? あ、母にもお会いしますか?」


 せっかく来てくれたのだから、きっとフィオにも会いたいだろう。すると首を振られる。


「フィーベルが帰国している間、何度も会っている。今日はいいんだ。フィーベルに会いたかったから」

「お会いできて嬉しいです」

「ああ私も。…………実は、話を聞いてほしくて」

「話、ですか?」

「……………………」


 急に黙ってしまった。


 ユナはなぜか、少しだけ複雑そうな表情になる。それからも何か言いたげにしながらも口を閉じ、しばらく静かな時間が流れる。彼女にしては珍しく百面相になっていた。フィーベルは戸惑いつつも、ゆっくり相手の言葉を待つ。


 その間に椅子に座らせ、アンジュにお菓子と紅茶を出してもらう。ユナは紅茶を飲んだことで、少し落ち着いたようだ。


「その……フィーベルから見て、クライヴ殿下はどんな方だ?」

「クライヴ殿下ですか?」

「ああ。……私より、よく知っているだろう」

「とても優しくて素敵な方ですよ。シェラルド様に出会えたのも、クライヴ殿下のおかげです」

「…………そうか」


 若干機嫌が悪くなった。

 シェラルドの名前が出たからかもしれない。


 今のユナはフィーベルが誰と結ばれようが気にしていないようだが、それでもシェラルドのことをあまりよく思っていないようだ。それはシェラルド自身に対して、というよりは、大切なフィーベルが人の物になる、というのが少し許せないらしい。これは前にフィオがこっそり教えてくれた。


「その……クライヴ殿下が優しくて素敵な人であることは、なんとなく分かっているつもりだ」


 文通をしているうちに気遣いが見えたり、知りたい情報を教えてくれたりと、ユナもクライヴの人となりが見えたらしい。もう何通もやり取りを交わしているようだが、好印象のようだ。それはとても喜ばしい。


「だがその……なんというか」


 少し言葉が濁った。


「……手紙の言葉だけ見ると、その、見るに耐えないというか」

「見るに耐えない言葉使ってるんですか!?」

「ちがっ、いや違ってもないが、声が大きい……」

「す、すみませんつい……」


 フィーベルは慌てて自分の口に両手を持っていく。


 クライヴの人柄的にあり得ないワードが出てきて驚いてしまった。クライヴがユナに好意を寄せていること、二人が文通をしていることは、フィーベルも知っている。ユナがクライヴに良い印象を持ってくれているのはいいのだが、先程の発言に、少しそわそわしてしまう。


 ユナはどう言えばいいのか分からないのか、また黙ってしまう。しばらくしてからすっと、持ってきていた小ぶりの鞄から手紙を何通か取り出す。


「……これを読んでどう思うか、客観的に教えてほしい」

「えっ。私信ですよね。さすがにそれは……」

「秘密の話をしているわけじゃない。ただの世間話だ。それにクライヴ殿下も、フィーベルなら見ても許してくれると思う」

「そ、そうでしょうか」

「私が許可する。私が許可したらクライヴ殿下も文句はないだろう」


 押し付けるように手紙を渡されてしまう。そう言われては何も言えない。フィーベルは恐る恐る、一通の手紙を開いた。




『親愛なるユナ殿へ


元気にしてるかな。会いたい。話したい。君に触れたい。前に、髪に触れたことがあったよね。本当に綺麗で美しい髪だった。手触りもよくて、少し触れただけで僕は幸せな気持ちになれた。でもやっぱりまずは抱きしめたいな。それからじっくり君の顔を眺めて、唇に触れたい。思えば二人きりになったことってそうないよね。どうだろう。一度二人で話さない? まだ早いか。こんな手紙を送っている時点で、もしかしたら君は引いているかもしれないよね。ごめん。マサキからはやめなさいって言われてる。毎回そんな言葉書くなと言われてる。人の手紙勝手に読まないでほしいよね。君ももしかしたらそう思ってる? でもさ、ずっと好きだったんだ。好きで、君が幸せならそれでいいと思っていた。手助けができたらいいと思っていた。でも君に出会えて、助けてもらえて、抱きしめることができて、キスができて、それだけでもう有頂天になっている。男って案外単純なんだよ。もしこの手紙で君の気持ちを害してしまったなら、正直に言ってほしい。君に嫌われるのはかなり堪える。嫌われたくはないんだ。できれば、好きになってほしい。今更だけど、君に好かれるにはどうしたらいいんだろう。君からもらった最初の手紙に『真面目に僕のことを考える』って文があったよね。あの手紙、もちろん他のもだけど、大事に取ってるよ。あの手紙で、もしかして僕にも可能性はあるのかなって、期待してしまってる。もちろん何があっても、君への気持ちは変わらない。大好きだよ。愛してる。必要なことは何度かの文通で話してしまっているから、今回は僕の話ばかりになったね。思ったこと全て書いてしまった。引いていない? 嫌われていない? 僕は君が愛おしくて、大事で、幸せにしたい。それだけは忘れないで。フィーベルは近々、フリーティング王国で暮らすようになる。彼女のこと、頼むね。


クライヴ』




「………………」


 なんという熱烈な恋文ラブレターなのだろう。


 フィーベルは静かになってしまう。なんというか、あまり見たことがないクライヴの内面を知ってしまったというか。聞けば、他の手紙も似たような内容らしい。この手紙ではフィーベルのことも少しだけ書いてくれているが、たったの一文。それ以外は全てユナのことだ。


 ちらっとユナに顔を動かせば、彼女は少しだけ難しい表情になりながらこちらをじっと見つめてる。これは感想を待っているやつだ。


「その……思ったより長文ですね」

「それだけか」

「…………とても、愛が深いなぁと」

「フィーベル。私に対してそんなに言葉を選ぶ必要はない」


(そんなこと言われても……)


 なんと言えばユナは納得してくれるのだろう。割と素直な感想は述べたつもりなのだが。ユナは顔を下に向け、もごもごし始める。


「……客観的に見れば、少し、内容が重く感じるような気がする」

「! ユナさん、でもそれは」

「分かってる。分かってるつもりなんだ……だが……」


 フィーベルは焦った。


 もしかしてユナは、クライヴのことを嫌いになってしまったんだろうか。慌てて言葉を遮ろうとするが、ユナの言葉の方が早かった。


「それでも嬉しいと、思ってしまう私は変なんだろうか……」

「…………え?」


 よくよく見れば、ユナの顔が真っ赤になっている。目も潤み、迷いながらも真剣に考えようとしている、一人の乙女がそこにいた。


 ユナは両手で顔を覆う。


「最初は、最初は見るのも耐えられないくらい恥ずかしかった。でも何度も手紙をもらって、変わらない気持ちでいてくれるのを知って……。最初は心臓が痛くなって、途中で見るのをやめたことがある。だけど今は、心臓が痛くなるよりも、どこか、温かいものに包まれるような感覚に変わった」


(それって……)


「でもその、手紙を勝手に見たユギニス殿……兄上は、かなり引いてな……。砂糖の塊を投げつけられたような気分だと」


 確かになかなか破壊力はある。


 普段のクライヴは、もっとスマートで紳士だ。

 誰に対しても余裕がある。


 アルトダストに来てユナに接するときもそうだったと思う。だがこの手紙だと、少しだけ不器用さというか、焦っているような気すらした。ユナのために一定の距離感を保ちたいと思いながら、本当は近付きたい気持ちがしっかり見えてくる。恋焦がれているのが伝わってくる。


 一見するとびっくりしてしまう内容かもしれない。だがユナにとっては、嬉しいと思えた。それは、今までクライヴがしてくれたことと、それだけ想ってくれてる、という事実に、ユナの心が動いているのだろう。


「あの、ユナさんはクライヴ殿下のこと……」

「わ、分からない。大体私は、人を好きになったことがない。だから分からないんだ。身近に兄と妹はいるが、言うのは気恥ずかしいし、仲間たちも家族のようなものだから、言いづらい。だからフィーベルに聞いて欲しかった」


 ユナは落ち着かない様子でいる。


 いつもきりっとしていてかっこいいのだが、今は慌てふためいている。その姿は、本当に可愛らしい女性の一人だ。顔を赤くさせて、どうしようと、迷って考えている様子。


 フィーベルは思わずにやけてしまう。


「そのお姿をそのままクライヴ殿下にお見せしても大丈夫な気がします」

「!? なぜ」

「クライヴ殿下はそのままのユナさんをそのまま受け入れて下さると思います」

「む、無理だ。会えない。会いたくない」

「会いたくない!?」

「あ、いや……。今会っても、何を言えばいいのか分からない……」


 少しだけ項垂れてしまった。


(もうそれはなんというか、そういうことなんじゃないでしょうか……)


 なんて野暮なことは言えない。

 フィーベルも似た経験をしたことがある。


「……本当は、会って話した方がいいと思っている。文だけでは見えないところもあるだろうから。だが、今の私は、彼に会ったところで、きっと何も話せない。多分、無意識にずっと無視をしてしまう気がする」

「そんなことは……」

「大体今までも冷たい態度を取っていたのに、一体どんな態度で接したらいいのか……」


 クライヴはどんな態度であろうとユナのことを大事に思うだろう。だがユナは、どう接していいのか分からなくなっている。今更態度を変えるのも、なんだか居心地が悪いだろう。どうしたものかと、フィーベルも少し迷ってしまう。


「! そうだ。フィーベル、よかったら一緒にいてくれないか」

「はい?」

「クライヴ殿下と話すとき、一緒にいてほしい」

「一緒にですか? 私も?」

「ああ。それならまだ、話せる気がする」

「それは……でも、お二人でじっくり話したいこともあるのでは」

「一緒じゃないと無理だ。一緒にいてほしい」

「で、でも……」


 クライヴ的には邪魔にならないだろうか。

 それを少し心配してしまう。


 むしろ先にクライヴに相談したい。だが今のユナの状態を言うのは気が引ける。どうすれば双方にとっていいのだろうと、フィーベルはとにかく考え続けた。


「あの……お話中、大丈夫でしょうか?」


 いつの間にかそっとアンジュが近付いてきていた。

 客人がいるときはいつも席を外してくれるのだが。


「どうしたんですか?」

「魔法具の『伝書鳩』で急ぎの手紙が届いたのです。フィーベル様宛です」

「どなたからですか?」

「クライヴ殿下です」

「「クライヴ殿下っ!?」」


 二人は同時に立ち上がってしまう。


 話の話題になっていた人物だけに、フィーベルとユナは同時に叫んでしまう。二人はちらっと顔を見合わせた。フィーベルはそっと、中身を読む。


「え!?」

「ど、どうした。なんて書いてある」

「最後。最後見てください」


 手紙にはこう書かれていた。


『急だけど明日、そちらに行くね』


「明日っ!?」


 ユナは驚きのあまり、一歩後ろに引いてしまった。

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