『続 うさぎさんとかめさん』 後編

 『わかりました。あなたの、ご要望をお伺いいします。どうすれば、良いのでしょうか?』


 月のかめさんが尋ねました。


              🐢


 ちょうど、そのころ、月のうさぎさんは、やっと、都の上にやってきました。


 『あらら、あかあかと、松明が燃えている。なにごとかしら。』


 うさぎさんは、高度を下げてゆきました。



         🐰



 『ここに、おおきな岩があります。』


 彼女が申します通り、巨大な岩が、地面に転がっております。


 『なぜここに、このような岩があるのか? ここの人々は、知りません。じつは、これは、一種のスイッチなのです。月影一族が、50000年ほど前に設置したものです。もともと、この大地に、水を引き込むための、巨大な運河を開け閉めするスイッチなのです。月影一族は、5000年に一度、この地で儀式を行っております。偉大なる太陽に捧げる儀式です。その時は、このあたりを水浸しにする必要があります。この岩は、自動的に少しずつ回転します。こんど、この鼻先が西を向いた時に、このあたりは、また水没します。そこで、さあ、この岩に、あなたのモニュメントを刻みなさい。お得意でしょう?』


 『そおりゃあもう。すぐにできます。むつかしいことは、わかんないけど。では、やります。』


 かめさんは、ゴーグルから光線を放ち、たちどころに岩を削って行きます。


 はやい、はやい!


 『よろしい。その調子です。私どもは、祈りを捧げ続けます。この岩が西を向いたら、洪水になるという伝承は、語り継いでゆかれるでしょう。・・・おや?』



 『おーい。かめさん、なにしてるの~~~?』


 空から、うさぎさんが降りて来ました。


 『あららら、なんと、うさぎさん、どこにいたの?』


 『イズモという場所だよ。レガシーを作ったんだ。さあ、月に帰ろう。おや。あなたは・・・うあ?! 月影の長ではありませんか!』


 『さようでございます。ただし、元、長ですが。姫様、お久しゅうございます。』


 『ひ? ひめさ・・・・ま? って、うさぎさんのこと?』


 かめさんが、びくっりしたように言いました。


 上側は、もうかなり奇麗に削って、ちょっと底の方を削りかけておりましたが、そこで止まりました。


 『そなた、知らずに、いっしょにいたのか?この方は、月帝さまの、姫君様であらせられる。かぐやさま、じゃ・・・たしょう、いや、かなり、じゃじゃうまさまですが。』


 『こらあ、カメさんに知られたら、もう、遊べない。』


 『姫様、そろそろ、大人しく、なされませ。でないと、月から、この地に追放されますよ。』


 『またあ。それより、あなたは、帰らないの?』


 『いまさら、帰れませぬ。私は、自らを追放処分としたのですから。もう、長い年月この国におりました。いろいろな、名も使いました。ヒミカ、アマテラス、ハゴロモ・・・・まあ、その都度ですが。すでに、月影ではありませぬ。』


 『またあ、大人は、そういう理不尽なことを言うから、嫌いだ。』


 『理不尽なのが、大人の世界。民の為には、平気でうそが言えねば、まつりごとはなりたちません。時には、残酷なこともしなければ。』


 『いやですわ。さあ、かめさん、競争ですよ。帰りましょう。』


 月のうさぎさんは、かめさんの手を、ひっぱりました。


 『あああ、まだ、未完成ですよお。』


 『そこまで、できてりゃ、もう大丈夫。後世に残るわ。さあ!』


 『あああ、うさぎさん。まって・・・・・、あははは。じゃあ、さようならあ!』


 かめさんは、うさぎさんの後を、高速で追いかけました。


 『まあまあ、あれでは、そう先ではなく、また、ここに、流されてくるでしょう。都は、移っているでしょうが。』


 ひとびとは、たった一晩で、すこし、にやっとしてるような、不思議な彫刻が、あの大岩に彫ってあるのに、仰天しました。


 かめさんにしては、目の位置がおかしい・・・とかは、言った人もありましたが。


 また、うさぎさんのお話は、かなり変わった形ですが、神話として、長く残りました。



 スイッチは・・・・気が付かないくらいに、だんだん西に向いて、動いておりました。


 今もです。


 

 とってつけたんだべな。




  🐇***************🐢********  おしまい



 どっちが勝ったかは、記録がございません。













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『小さなお話し』 その36 やましん(テンパー) @yamashin-2

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