第11話 いろ色

「花ちゃん、青ちゃん、早くつい……」急いで手招きする。


 今、室内は日当たりが悪かった。照して、廊下を紫灰色に染めた。多分、厚い雲が太陽を遮っているせいだろう、と思う。


「どうしたの?……」青はついてくる。


「ドアが開いた……あそこ、私たちは誰も来なかったでしょう」私は立ち止まった。


 ここは静かに、多分、一枚の木の葉が落ちて地面にさえ聞こえている。しかし、まず聞こえるのは、呼気の声がした。そして、ドキドキ。


「うん!」青はうなずく。


 花もうなずく。


 私は拳を握りしめる。


「だからおかしいでしょう……とにかくアキちゃんについていきましょう。」唾を飲み込む。

 ……


「ああ、ここにも何もないなぁ……て」教室からアキが少しがっかりしたような声が聞こえてきた。


 私たちは近づいていき、次第に音量が大きくなっていく。



「ドーン!」音がする。私はあわてて足を止めた。


 私たちは壁に凭れて隠れていた……声を出す勇気がない。


「おい、おい……そこ、だめ、うん……」アキの震える声。


 陽が沈むとき、陽が差し込んで……ディンダール効果により、空気中にいくつかの赤い光路が見えた。


 ほこりが空中にちらちらと舞っていた。決まった軌跡もなく、上下していた。


「助けて!助けて!ヴ、ノッ……」


 私は思わず、一歩踏み出した。


 私ー……


 それでも立ち止まる……


 ……


 だってっ……


 胸の前で両手を……


 ……


 私は……


 突然物音がした。


「来た、見ろ!」


 青が飛び込んできて……一面の黒ずんだ残影を残す。


「青ぢゃん……、ちょっと……」


 思わず両手を差し出す。それでも足を止めた。


 花が私の衣服のすそを引っ張った。

 ……


「あっ、お前はあの……魔族!」青の声。


「ウーム、魔族じゃないって!マレイ魔霊です!」


「アキちゃん、怖くないで、わたしは来ちゃった……」青の声。


「ウーム、お前らこの前はひどいわ……」ちょっと悔しいような口調だった。「くすぐるなんて!くそ精霊っ!」憎々しげに言う。


 しばらく間を置いた。

「でも……うまいもの……」そっと言う。


 そういえば……


「ウェイ……まあ、いいか……」青の声。「……ノコー、大丈夫だよ、入って……」


 教室に入ってみると……何の光もない。ここは薄暗かった。


「ヒルヤちゃん?」ちょっと驚きました。うん……でも、私は考えるべきだったんだでしょう……


 目の前に精霊が横たわっていて、彼女の上に、魔族が座っていて……何か、見覚えのある画面だった。


「まぁ、まぁ」青はため息をついた。「そういうことだ」


「でも……青っ……」私は両手を握りしめた。


「はーっ……確かに……とても、無謀だろう……だって……」青は自分の頭を撫でた。


「うん……だから、何してるの、ヒルヤちゃん?」私は尋ねてみた。


「ウム、精霊……くすぐるなんて!」ヒルヤちゃんは拳を握る。


「うん……」ちょっと疑問です。


「だから……」魔族はうつむいた。「ワタシは泣かないよ……」何かを我慢しているようだった。


「うん?どうして急に……」


 教室の外は赤い夕日だった。外から光が入ってきて、私たちの影を投影する。


 教室内は暗い紺色で、魔族や精霊は暗所にいて、目は飛び込んでくる光を反射している。


「ヴーッ……アナヤルル様、ワタシをいらないー……」震えながら、魔族は顔を覆った。



「あいつバカはまた何をしたの?」地面に横になっている精霊が言う。「それに、あたしに鼻水をつけるなよ……」


「ううん、違う、鼻水じゃない……憎い精霊っ……」

 精霊の耳に手を伸ばす。


「ううん……そ、そこに触らないでっ……」アキはちょっと震えながら言った。


「だからさあー……」ヒルヤは声を詰まらせた。


「うん……どういうことなのか……?」私はなんとかして彼女を慰めた。


「ウッム、別に……」彼女は顔を私に向けた。

「……せ、せっかく……逃げ出した……」


「て、だからお前、いつあたしから離れるつもりなのー……」アキはちょっと仕方がない……

「まあ、我慢して……」青の声にはちょっと困ったようなものがあった。


「ウーム、ワタシはアナヤルル様に捨てられた、それだけではない……ウッム、ここに逃げてきた……」


「うん……?何か言いたいことがあれば言いなさいよ」


「て、あのバカ勇者っ……」


「アキー」花は相変わらず語気を持たない。


「アキちゃん、もう……」私は言い淀んだ。


「ううん……だって……」彼女はまだ言いたいことがあるようだ。

「でも、本当に、信じていっ……」


「まあ、いいかな……ほどほどに……」青はため息をついた。


「ヴーン……ご、ごめんっ」アキちゃんは私たちの視線を避けた。


「ウム……」ヒルヤは仕方がないように、うつむいて床を見ていた。

「ひ、ひとつお願い、あるんです……」ゆっくりと言った。


「うん……どうしたの?」私は彼女の目が見えない。


「お前ら、ワタシを、引き取ってくっ、ください……」ヒルヤとぎれとぎれに言った。

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