武力全振り皇女が拗ねるので、最強魔術師は爪を隠す。
国丸一色
01:《狂飆》のゼファー
「魔術師ゼファー。貴様にはマギウスの魔術学院へ入学してもらう」
オルデラ大陸に数多ある国家の中、最大の版図を持つヴェルメア帝国。その帝都ヴェルマーズに聳え立つ宮城、その謁見の間にて。
他国の追随を許さぬ圧倒的な国力と兵の練度を誇る軍国ヴェルメア。
その大国を統べる王の中の王、ヴェルメア皇帝アルフレドの御前に
「陛下、マギウスの魔術学院へ……入学と申されましたか?」
「左様だ」
思わず顔を上げ、ゼファーは己が主君へと問うた。本当にそれがこの自分に対しての命令であるのか、と言外の疑問を含みながら。
マギウスの魔術学院といえば、オルデラ大陸最古かつ最高峰の魔術師養成機関である。帝国の魔術師たるゼファーに皇帝が斯様な命を下すのは、彼の実力を評価し信頼しているともとれるが、しかし――。
「――お言葉ながら陛下、私は帝国が誇りし最強の魔術師たる《
ゼファーは帝国の魔術師の中でも上澄みの上澄み、最強の帝国魔術師六人衆、《魔導六煌》の一人に数えられる魔術師である。その力は一人で千人の帝国兵に匹敵するとすら謳われている。
当然魔術学院で学ぶような魔術は全て使えるし、何なら学院で教鞭を執ることすら可能なほどの実力を備えているのだ。
そのように高い実力を持つゼファーにとり、皇帝アルフレドの命は己の実力を疑問視するかのような響きを持って捉えられた。到底許容できるものではない。
「貴様の憤りは理解できる。だが余は貴様の力が足らぬ故に魔術学院に向かえと申しているのではない」
「と、申されますと……」
「貴様が余の信頼する《魔導六煌》たちの中でもっとも年若だからだ」
「私が……もっとも年若だから、ですか?」
皇帝アルフレドの語る通り、ゼファーは《魔導六煌》の中で最年少、齢十六の少年である。青みがかって見える黒髪をばらばらに切り揃え、その下に気品を併せ持つ精悍な顔を持ったゼファーは、この若さにして皇帝の信を得ていた。
「時にゼファーよ。我が不肖の娘、アリステラを存じておるか」
「無論でございます」
獅子を思わせる赤毛の髭を擦りながら語る皇帝アルフレドの問いに、ゼファーは再び頭を垂れ答えた。
「第三皇女アリステラ殿下は聡明かつ勇敢。槍を携え剣を振るうて魔物や蛮族どもを蹴散らすこと数知れず。我らヴェルメア帝国臣民において、殿下を存じぬ者はおりますまい」
第三皇女アリステラはゼファーと同じく齢十六。普通ならば宮殿で教養を身に着け、社交界での立ち回りを覚えているような年齢であるにもかかわらず、剣と槍を持って兵士たちに交じって戦場に立つことで有名な武闘派皇女であった。
皇妃ウィスタリアは頑として反対したらしいのだが(当たり前である)、ヴェルメア帝国が武力をもってオルデラ大陸にその版図を広げてきた歴史をよく知る皇帝アルフレドは、第三皇女アリステラが戦場に立つことを認めたのだという。
「聡明かつ勇敢……聞こえはいいが。あやつは蛮勇で有名なものと思っておったわ」
「……そのように語る不届き者もおりましょう」
「不届き者どころか、あの馬鹿娘をよく見ている者の言葉だと思うぞ」
第三皇女アリステラ殿下に対し、皇帝陛下は何か思うところがあるのか。
ゼファーは少し疑問に思ったものの、当然それを表立って聞くことはできなかった。むしろ、この第三皇女アリステラの存在が先ほどの自分への命とどのように関係しているのか。そちらに頭を巡らせるほうがゼファーにとっては大事であった。
「……アリステラはマギウス魔術学院への入学を希望している」
「……え?」
「剣を振って満足しておれば良いものを……」
苦虫を噛み潰したかのような顔で語る皇帝アルフレド。
ゼファーの脳内では、点と点が繋がろうとしていた。
マギウスはヴェルメア帝国の東、オルデラ大陸東端に存在する都市国家である。
魔術都市を標榜するマギウスに存在する魔術学院は大陸から幅広く魔術師の才を持ち合わせる若人を募っているため、様々な国、土地から人が集まるという。
マギウスは魔術の力をもってどの国家にも属さず中立を保つ都市であり、魔術学院に入学した以上そこに貴賤貧富の別はない。現在進行形で対立中の国家出身の者も顔を突き合わせるような場所だ。
ともすれば、禍根が元で刃傷沙汰が起きてしまうかもしれない。
「陛下、第三皇女殿下が魔術学院へ入学する故、私を護衛に任じられるということにございますか?」
「理解が早くて助かる。貴様には魔術学院にてアリステラの護衛を頼みたい。故に、魔術学院へ入学しろと申した」
ゼファーの推察に対し、皇帝アルフレドが大きく頷く。
あらゆる国から人が集まるマギウスに、侵略国家たるヴェルメアの皇族を送り込むのだから、当然護衛についても相応の実力を持ったものを選定しなければならない。
そこで《魔導六煌》の一、《
「……大役、身に余る光栄にございます」
「あの馬鹿娘にはまだ様々な使い出がある。マギウスなどで死なれては困るから貴様をつけるのだ」
「……」
娘の行く末を思う父ではなく、娘をすら道具として扱おうとする王としての言葉を独り言ちる皇帝アルフレドに、ゼファーは返す言葉を持たなかった。
アリステラの希望は酌むが、その希望を酌むのは今後の己の策謀に利用しやすいがため、ということなのか。
「……それでは陛下、マギウスへの出立の準備がございます故」
「うむ。アリステラを頼むぞゼファー。手段は選ばぬ、好きにせよ」
「はっ、命に代えてもお守りいたします」
一瞬だけ娘を心配する表情を見せた皇帝アルフレド。その表情の変化にやはり父なのだな、と思いつつ、ゼファーは謁見の間を辞した。
「よお、ゼファー。面白い命令を受けたみたいだな、ちょっと面貸しなよ」
「げっ……アリアンロッド……」
そして、宮城の廊下で同僚、同じく《魔導六煌》が一人、《
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