2話 千切られた約束
序
◇名波雅紀 著『東北地方の霊能者』
世界各地にシャーマンと呼ばれる人々が存在していたことは、グローバル化が進んだ今日においてもはや周知の事実となっている。
我が国も多分に漏れず、シャーマン、いわゆる霊媒師と云われる人々が歴史の影に隠れて存在してきた。
我が国のシャーマンのなかで、もっとも有名なのが「オカミサン」と呼ばれる口寄せ巫女であろう。
現在では、テレビや雑誌などメディアの影響で、「イタコ」の名で広く知られている。
「オカミサン」あるいは「イタコ」は、死者を呼びその身に降ろす、口寄せと呼ばれる降霊術を使えると一般的には知られているだろう。
だが、その本質は、霊媒となり死者をその身に宿すことにはない。
彼ら彼女らの眼差しは、死者ではなくむしろ生者に向けられていた。……
◇東北学園大学 民俗学講座 ある日の講義より
はい、みなさんご機嫌よう。はじめまして。民俗学講座を担当する名波と云います。一年間よろしくお願いしますね。
どうです? たのしいたのしいオリエンテーションが終わって一週間ですが、もう大学には慣れましたか?
なつかしいですねぇオリエンテーション。わたしもついていったものですよ温泉にね。同じ部屋の学生たちと夜通し麻雀をしたもんです。日付が変わった頃に国士無双に降りこんじゃって……。
あっ、失礼。第一回めの講義から脱線してちゃ学生課に怒られちゃうな。聞かなかったことにしてくださいね。
えーと、それじゃ本日の講義は“東北地方の霊能者”について。レジュメにも書いておいたんですが、わたしの執筆したテキストちゃんと持ってますかね? 『拝み屋をたずねる』です。中古じゃなく新品で買ってくれてたらとてもありがたい。
えー、みなさん、ではテキスト5ページを開いて。
みなさんは“拝み屋”と云われる職業はご存知かな?
すごくおおざっぱに言ってしまえば、霊能者ということになりますね。彼らは読んで字の如く、神仏に拝むことを生業とする、そういったイメージで知られてますね。
ですが、世に知られるイメージとは違って、彼らの仕事は意外なほど広範なんです。
なんでもね、個々の拝み屋によっても“得意技”が異なるらしいんですよ。
占い、失せ物探し、死霊払い、生霊払い……。
なかでもわたしが懇意にさせて頂いてる拝み屋さんの得意分野はねぇ……。
あっ、いけないいけない。出席カード配るの忘れてました。えー、みなさん今から配りますんで後ろの人に回してくださいね…。
◇『少女たちの交換日記』
→ミキからユミちゃんへ
おはよー☆ 昨日はどう? そっちのクラスどうだった?
こっちはね、クラスのやつに貸したノート、返ってこないの。サイアクだよね。
どうしてもって言うから貸したのに……やっぱ貸さなきゃ良かったな~。
うちの学校、ホント最低なヤツばっかで困っちゃうよね。
早く中学卒業したいな。あと一年ちょっとって長いよね。耐えられるかな。
→ユミからミキへ
おはー。
こっちもいつもどおりだよ。人のことバカにするヒマあったら、もっと勉強しろっつーの。
でも困ったな……あいつらに会いたくないからって学校サボってたら、あたしも授業についていけなくなってきちゃった。
自習だけじゃキツいんだよね。あたし、あんまり頭良くないしさ。
なんか負けてるみたいで悔しい……。せめてミキと同じクラスだったら良かったのに。来年は同じクラスになれるといいね。中学最後の年に同じクラスなら、良い思い出が出来そう。
そいや、バレンタインの予定どうなった? 卓郎に渡すの?
→ミキからユミちゃんへ
バレンタイン→計画中だよー!
うちのクラスの男子なんてガキばっかだけど、卓郎は大丈夫だと思う。この前も優しくしてくれたし。
勇気出して渡してくるね! 玉砕したら慰めて~~。
わたし、くら~い青春送ってきたけど、うまくいったら青春を取り戻せそう!
→ユミからミキへ
応援してるね! どうなったかちゃんと結果教えてよ~!
→ユミちゃんへ
ごめん
愚痴っぽくなっちゃうし、ちょっと長くなるけど、聞いてほしくて。
顔みて直接言うのは辛くて。ごめんね、ユミちゃん。
わたしね、バレンタインのチョコ、卓郎に渡したんだ。
そしたら――
上からみんな覗いてて、ニヤニヤ笑ってあたしのこと見てた。
卓郎も、あたしを笑ってた。
それで……
あたしの挙げたチョコ、汚ぇって、男子同士でパスして、ゴミ箱に捨ててた。
なんで、
なんでこうなっちゃうんだろうね、わたし。
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