番外編:カクコン6を分析してみた。

(注意)本エピソードに出てくるデータは、全て2021年1月6日に取得されたものです。


 ――――――――――――――――


 一体、どんな顔をすればいいだろうか。いや、そんなことを考えても仕方がない。マスクをしているから、俺の表情なんて見えやしない。そんなことより――


 俺、草薙くさなぎタケルは思案していた。と再会したときどんな反応をされるだろうか、と。


 冷笑? 罵倒? それとも無視だろうか?


『カクヨム総合研究所』から足が遠のいて早1年が過ぎようとしている。俺はとある小説好きの富豪が設立した私設研究所の主任研究員マッドサイエンティストであるが、専任では無い。言うなれば、ボランティアみたいなものだ。


 2020年を襲ったコロナ渦。


 それは例外なく俺の身にも及んだ。

 混乱の真っ最中に転職をしなければならず、環境が激変。そんなこんなで、カクヨムどころじゃなくなってたのだ。ちなみに俺自身はコロナに感染してはいないが、住んでるところが住んでるところなので今後も気を付けなければならない。


 え? どこに住んでるのかって? それは秘密だ。


 ようやく色々落ち着いたのでカクヨム総合研究所に戻ることにした訳だが……はてさて、どうなることやら。俺は、恐る恐るドアを開けて研究室の中へと足を踏み入れた。


 その刹那――


「ターケルーっ!」


 彼女は、すでに俺の方に向かって突進を始めていた。マスクはしておらず、桃色の唇が暖房で温められたふんわりとした空気に直接晒されている。


「ケイコ!?」


 犬並みの嗅覚とコウモリ並の聴力で俺の存在に気がついたのは、研究助手アシスタントで幼馴染み幼馴染みであるとう景子けいこだ。


「とーーーーーーっても久しぶり!!」


 彼女は俺に飛びかかるようにして抱きついてきた。


「ちょっ!? いきなり何をするんだ? って言うか密だよ、密!」


 俺はケイコのことをいなそうとするも、彼女はそれよりも早く両腕を俺の背中に回してしまった。


「え? 何? 聞こえない」

「嘘つけ! くっつきすぎだよ。コロナに感染したらどうする!?」

「そんなこと言って。本当は嬉しいくせに」

「ちょ、おま、そんなことは――」

「……淋しかったんだよ?」


 先ほどまでの陽気な口調とはうって変わり、しおらしい声で彼女が呟いた。急な変わり身に俺はたじろいだ。


「……ごめん」

「うん。許してあげる」


 俺とケイコは見つめ合った。彼女の頬はうっすらと紅色に染まっている。俺も体のほてりを感じた。


 そして、2人はゆっくりと顔を近づけていき、互いの唇を――


 ■


「却下却下!!」


 ケイコは、右手に持った電子ペーパーの端末をわなわなと震わせながら、力一杯叫んだ。マスクを付けていないので、般若のような形相が丸見えである。


「なんなのこれ? どこぞの二流、いや、三流ラブコメかよ!?」

「結構真面目に書いたんだけどなぁ」


 タイトルに『番外編:カクコン6を分析してみた。』と書かれたカクヨムの小説編集ページを見ながら、俺はうなだれた。


「1年のブランクで耄碌もうろくしちゃったの? この作品のタイトルを思い出しなさいよね」

「もちろん覚えているぞ。『カクヨムユーザーの生態~111,402人分のデータを分析してみた』だ」

「そう! だから読者の皆さんは、こんな意味の分からないメロドラマじゃなくて、あなたの分析結果を知りたいと思って読みに来ているのよ? 分かってる!?」

「仰るとおりです」

「大体ね、1年も私のことをほったらかしておいて、冒頭の小説のように簡単に許されると思ってるの? 甘く見られたものだわ」

「ごめんなさい」

「ごめんで済んだら警察なんていらないって、偉い人に聞かなかった?」

「えぇっと――」

「口答え無用」

「はい」

「だけど、読者の皆さんにはちゃんと謝りなさい。多分許してくれないけど。それでも何もしないよりはましだわ。更新止まってごめんなさいって言いなさい。今、ここで土下座よ! さぁ!!」

「本当にすいませんでしたあああぁ!!!」


 俺は地面に頭をこすりつけるようにしてDO・GE・ZAした。



「さ、気を取り直して本題に入ることにしましょう。今回はカクコン6の分析だって?」

「その通りだ」

「確か、カクコン5の分析が途中だったわよね」

「ギクッ」

「まぁいいわ。それで、今回は何を教えてくれるの?」

「カクコン6が始まって1ヶ月が過ぎた。十分な時間も過ぎたということで、『小説投稿者数』、『反応者数』、そして『総ユニークユーザー数』を調べてみたぞ」

「小説投稿者数は分かるけど、総ユニークユーザー数ってのはなんだか面白そう。思っていたより本格的な分析のようね」

「順番に説明するぞ。小説投稿者数は、カクコン6と短編賞に応募したユーザーを重複せずカウントしている。つまり、1人で2作品以上応募していたとしても1人としてカウントされているぞ」

「なるほど。これは想定の範囲内ね」

「反応者数は、コンテストに参加している小説をフォローしたユーザー、エピソードに応援した(ハートを付けた)ユーザー、コメントしたユーザー、レビューを付けた(星を付けた)ユーザーを全て調べ上げ、重複しないユニークなユーザーをカウントした」

「……か、数え上げたの? 全部?」

「うむ。造作も無いことだ」

「相変わらずスケールがやばい。ブランクで腕が衰えたんじゃないかって思ってたけど、ますますスケールアップしてる……。

 確認なんだけど、私が複数の作品に星やコメントをしたとするよね。ハートだってエピソードごとに付けちゃうけど、その場合はどうなるの?」

「全てケイコちゃんがやったことだと識別できるので、1人としてカウントされているぞ」

「おぉ、それはすごい」

「なお、pv数はユニークユーザーを識別することができないので、今回の検証からは除外している」

「単に数字が増えるだけだもんね」

「最後に総ユニークユーザーだが、小説投稿者と反応者の重複しないユーザー数をカウントしたものだ」

「つまり、このコンテストに関わっている全てのユーザー数ということかしら」

「その通りだ! それでは、お待ちかねのデータを見てみよう」


 ――――――――――――――――

 統計情報(カクコン6 & 短編賞)

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 小説投稿者数:5,771人

 反応者数:176,569人

 総ユニークユーザー数:178,867人

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「約18万人!? この作品のタイトルにある『111,402人』を大きく上回っているわね」

「そうなんだよ。そろそろ看板をすげ替えないといけないな」

「どうしてこんなにユーザー数が膨れ上がったの?」

「一年近く時間が経ったこともあるけど、データの収集法方が根本的に違うからさ」

「どういうこと?」

「この作品を書くためにデータを集めたときは、小説の新着ページから収集した小説の作者と、ユーザープロフィールのページから見ることが出来るフォロー・フォロワー関係からユーザーを辿っていったんだ」

「確かに、本作のプロローグにもそんなことが書いてあったわね」


『第1話 プロローグ(※必ずお読みください)』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894358323/episodes/1177354054894359406


「今回の分析では、カクコンに参加している全ての小説からデータを収集したぞ」

「具体的には何を集めたのかしら」

「トップページはもちろん、アクセス数、フォロワーのリスト、果ては小説の本文まで。小説のトップページからアクセスできるだ」

「えぇ……」

「だから、いつ、どこで、誰が応援したのかももちろん分かる」

「あのー……」

「ん? なんだい? ケイコちゃん」

「とっても個人情報な気がするんですが」

「アクティビティログという意味ではそうかも知れない。ただ、誰でもアクセスして閲覧可能だからねぇ」

「なんか釈然としないわ。と言う訳で、『この人の行動履歴を教えて』なんてことは絶対に聞かないでね! ケイコとの約束よ? お願いねっ」

「ちなみに、その情報を使ってカクコン6のランキング速報を更新中だぞ」

「って、お前が堂々と使ってるんかーい!!」

「いや、じゃないと2020年12月1日時点における星の推定値が――」

「問答無用っ!!!」

「ふぎゃぁ!!?」


 ――――――――――――――――

 本家ではないけど情報特盛りな第6回カクヨムWeb小説コンテスト速報

 https://kakuyomu.jp/works/1177354055253900094

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「今日はこれで終わり?」

「いや、流石にこれだけだと情報が少なすぎるので、もう少し踏み込んでみよう」

「ふむ」

「ケイコちゃんは『読み専』だから小説は書いてないよね」

「えぇ、そうね。それがどうしたの?」

「つまり、この中からコンテスト限定の『読み専』を抽出できるはずだ」

「なるほど。小説の応募はしてないけど、他人の小説を読みに行ってる人は当然いるわ」

「と言うことで、さっきのユーザーを『小説投稿のみ』、『投稿かつ反応』、そして『反応のみ』の3グループに分けてみた。その結果がこれだ」


 ――――――――――――――――

 統計情報(カクコン6)

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 小説投稿のみ:2,298人

 投稿かつ反応:3,473人

 反応のみ:173,096人

 ――――――――――――――――


「小説を投稿した人数が5,771人だから、およそ4割の人たちは他の小説に何の反応も示していないのね」

「相互評価を嫌っている人もいるからな」

「確かに。そして、反応のみが17万人! これは凄い数ね」

「あぁ。この作品のデータを完全に書き換えなければならないレベルだ。

 ただ、この17万人の中には、コンテストに応募していないだけで小説を書いている人はいっぱい含まれているだろう。今回はそこまでチェックしていない。あくまでコンテスト限定の『読み専』だ」

「いずれにせよ、潜在的な読者は沢山いるってことは分かったわね。朗報よ!」



「今回の分析はどうだったかな?」

「何というか、最早どうやって調べたのというレベルね」

「データを集めるのには6時間くらいかかるけど、ユーザーの数え上げは案外あっさり終わって5分くらいだった。まぁ、アルゴリズムの並列化とか工夫してるからなんだけど」

「その辺のことはさっぱり分からないけど、全然なんとかなる範囲ってことは分かったわ」

「実は、カクヨム小説に関する面白いデータがたくさん手に入ったので、新作を準備中だ」

「え?」

「今、カクヨムには何作品くらい小説が投稿されてると思う?」

「さぁ、想像もつかないわね――いや、ちょっと待って。確かどこかの研究ノートに、16万作品って書いてあったような気がするわ」

「よく覚えてたね。でも、それは約1年前の話だ。その情報はすでに陳腐化している」

「なんですって!?」

「と言う訳で、草薙 健(タケル)先生の次回作にご期待下さい!」

「なんか打ち切りエンドっぽい紹介がとても嫌なんですけどーっ!!」



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 今日の研究ノートまとめ

 ――――――――――――――――

 ・カクコン6に関わっているユーザー数を調査

 ・約18万人が何らかのアクションを起こしていることが判明

 ・最早この作品のタイトルは過去のものとなった

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