第3話

 私は、あまりのことにしばらく口がきけませんでした。

 しかし、勇気をふるい、おそるおそる、もう一度その立派な人に聞いてみました。


 「なぜ雷神様がここにおられるのですか」


 すると雷神は、顔を真っ赤にして恐ろしい形相になり、


 「おまえが呼んだからに決まっておるだろう」


 といいます。私はあわてて、


 「いいえ、私は雷神様をお呼びしたことなどありません」


 とこたえました。すると、雷神はさらに虎か龍のように恐ろしい顔をして


 「ではなぜ、あれほどの矢を天に向かって打ち込んだのだ」


 と叫びました。 


 私は腰が抜けるほど驚いて


 「あの矢は天に届いているはずがありません。全部落ちてきたのです」


 と雷神に向かって懸命に説明しました。


 「なんだと」


 雷神は大きな目をぎょろぎょろさせて、私の顔をじっと見つめました。しばらく黙って、何か考えているようでもありました。

 私は恐ろしさで体が硬くなったよう になり、身動きすることもできませんでした。

 すると、雷神は「ほう」といって、大きくひとつ息をしました。そして、今度はあきれたように、


 「天はおまえに矢を返していたのだ。おまえの矢は大地のもので作られていたであろう。だから大地に返したのだぞ」


 と、ため息まじりにいいました。


 「おまえは、幾日も幾日も天の雲に矢を放っていたではないか。私は雲の上から矢を受け取って地上に投げ返していたのだぞ。今年は特に日照りの年でもなし、おかしなことだと思ったが、あんまり矢が届くのでこうして雨を降らせ、雨乞いの訳を聞きに参ったのだ」


 といって、雷神はもう一度静かに私を見つめました。私は思わず、


 「弓の鍛錬をしていたのです。天に届くような矢を放ちたくて強い弓と弦を使い、確かに雲をめがけて矢を放ちました。でも、まさか矢が雷神様のところに行っていたとは知らなかったのです」


 といいました。

 

 雷神は、やれやれというように天を見上げると、


 「それではこの雨もそろそろおしまいにするとしよう。ちょうど雷を落とすにはよい季節であったことでもあるし、まあいいだろう」


 といいました。そして、


 「私はもう天にもどらねばならないが、その前におまえの弓を見せてくれ」


と大きな手を差し出しました。私がひとつの弓を渡すと


 「もうひとつ持っておるな」


 というので、私は鍛錬の弓と狩りの弓の両方を渡しました。

 雷神は、鍛錬に使う強い弓の弦を軽々と引くと


「これはよい弓だ。しかしお前には少し弦の張りが強かろう。しかし、これで鍛錬したらどんな弓の腕もあがるだろう」


 といいました。

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