第2話
「おお、これならあの雲にも届くかもしれないぞ」
と思って矢の飛んでいったほうをじっと見ていると、突然、空の高みからキーンという音がしました。
音のするほうへ走っていくと、矢が勢いよく地面めがけて落ちてくるところでした。そして、矢は大地に突き刺さりました。私はがっかりしました。
「やはり、私は伝説の英雄には程遠い。どんなにがんばって強い力で引いても、弓の強さが私の力を引き戻してしまうのだ。だから、空に放った矢も、こうして地面に落ちてきてしまった。しかしこの弓さえ引けるようになれば、空に届く矢を放てるようになるかもしれない」
とも思うのでした。
私は何日も弓の鍛錬を続けました。
しかし、弓は相変わらず強くて自分の力に抵抗するし、放った矢は地上に落ちてくるのでした。矢が落ちてくる音は聞こえて おりましたが、私はその矢を拾いにいきませんでした。天に届かなかった矢を、もう一度使うのが何だかおもしろくない気がしたからです。
鍛錬を続けて幾日たったでしょうか。ある日、大雨が降りました。
そのうち雷は鳴る、雹も降る、たいへんな天気となりました。私は鍛錬の途中でありましたが、あまりの雨に、木の下に入って雨をしのぎました。
はじめのうちは、木の葉が雨を防いでいてくれました。けれども雨脚が次第に激しくなるにつれて、木の下にいても雨粒が体に当たるようになりました。
でも、私は鍛錬で汗をかいていたし、雨に打たれてなんだか自分が洗われるような気がしていました。
すると、 ものすごい音をたてて、雷がすぐそばの大木に落ちたのです。私はびっくりして、目をつぶって身を小さくしました。
「木が倒れてきたらあぶないぞ」
と思いましたが、大木は倒れる様子もありません。
「他のところに落ちたのだろうか」
と不思議に思いながら目を開けて立ち上がると、大木のすぐそばに、大きくてたくましく、立派な人が恐ろしい顔をして立っていました。
その人はゆっくり近づいてくると、
「呼んだのはおまえか」
といいました。そして、
「おまえはなぜ、そんなにも雨を降らせたいのだ」
と怒ったようにいうのです。
さらに、
「見れば、お前は農民でもないではないか。狩りをする者が雨を降らせては、かえって仕事もできなかろうに。なぜだ」
といいました。
私は訳がわからず、
「あなた様はどなたですか」
と聞くと、その立派な人は、
「私が誰だかわからないとは、いったいおまえはどういう了見をしているのだ。私こそ、雲の上に住み雷をつかさどる雷神である」
とこたえました。
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