大学時代
入学式 ――学歌斉唱――
長い前フリを経て、ようやく本編となる大学時代です。
このエッセイの序盤で書いたように、小説の構想としては『物語のスタート地点は、大学入学のために、主人公が京都に到着した辺りから』なのですが、さすがにエッセイを「京都駅到着!」から始めたら遠回りなので……。
とりあえずは、入学式の話でしょうか。
他の大学の事情は知りませんが、私が進学した大学の場合。
大学サークルの話をする上で、入学式と健康診断は欠かせないイベントとなりました。
ビラ配りです。
各サークルが新入生に「こんなサークルがありますよ! 興味があれば是非きてください!」とビラを渡す。新入生側は「こんなサークルがあるのか」と知る機会になる。
そんなイベントです。
ちなみに、私としては「まず入学式があって、その二、三日後に健康診断」と記憶しており、この辺りの経験を組み込んだ短編小説を書く際は、いつもその順番にしているのですが……。
カクヨムで他の方々の作品を読んでいるうちに、「これは私と同じ大学をモデルにしているな?」とわかる小説に出くわしたことがあります。そこでは「先に健康診断、それから後日、入学式」となっていたのでした。
小説だからフェイクを入れた、という可能性もありますが。
もしかしたら、私の記憶違いだったのかもしれません。もう、かなり昔の話ですからね。
あるいは、時代が変わって、逆になったのかもしれません。
いずれにせよ、ちょっとハッキリしないので、このエッセイでは私の記憶通り入学式について先に書いておこうと思います。
先ほども述べたように、新歓イベント的には、入学式はビラ配りイベントとなるわけですが……。
合唱に対する想いのあった私には、別の意味がありました。
学歌斉唱です。
正直、これも少し記憶が曖昧です。
あらかじめ入学式の式典プログラムか何かが伝えられており、学歌斉唱があると知っていたのか。
あるいは、勝手に「あるに違いない」と決めつけていたのか。
どちらにせよ、私は「そういう時間がある」と思い込んでいたのでした。
一つ確実だったのは、事前に渡されていた資料――冊子やプリント――の中に、学歌の楽譜そのもの、あるいは楽譜の記載されたページが入っていたこと。
「ならば、入学式までに学歌を覚えておこう! なにしろ私は、大学に入ったら合唱を始めたい気持ちがあるのだから、これくらい歌えないでどうする!」
そう考えたわけです。
京都へ来る直前の私が「今さら新しく『合唱』を始めるのは、おそらく無理。大学デビューなんて、私には無縁な話」と思っていたこと
まるで『好きだった異性の写真や手紙などを、未練を断ち切るために捨てる』みたいに、楽譜も全て捨てたこと。
それらは、前回のエッセイで書きましたよね。それでも私は『未練』を断ち切れず、少なくとも入学式前日の時点では「合唱を始めたい」という気持ちが胸の中に残っていたのです。
この辺りの「おそらく無理だろうけれど、でも、出来ることならば」という矛盾を含んだ感情は、今現在で言うところの「受賞なんて夢のまた夢なのに、小説を投稿サイトのコンクールに応募する」というのと似ているかもしれません。
いや、たかが一つのサークルに入ることをコンテスト受賞と重ね合わせたら大袈裟なのでしょうが、それくらい当時の私は「新しいことを始める自信がない」という、引っ込み思案な人間だったわけです。
ともかく。
そんなわけで、大学の入学式前夜、私は学歌の楽譜とにらめっこしていたのでした。
といっても、初見視唱能力の低い私は、楽譜を見ただけでは音がイメージできません。電子ピアノ――いわゆるキーボード――のようなものを叩いて、実際に音を出さないと、歌を覚えられません。『音取り』と呼ばれる作業です。
でも大学入学のために引っ越したばかりで、当時はキーボードがありませんでした。代わりに使ったのが、パソコンです。今ほど便利なパソコンではありませんが、わざわざ実家から運んできた――東京から京都まで新幹線移動の際に抱えていた――PC-8801mkII SRです。それが早速、役に立ったのでした。
そういえば、今さら思い出したのですが、高校時代も私はキーボードを持っておらず、このパソコンで音取りしていた覚えがあります。
話を戻します。
そうやって、きちんと学歌を覚えた上で、入学式に臨んだのですが……。
学歌斉唱は、大学側が用意した演奏者が前で歌うだけ。新入生も一緒に歌って良い形だったと思いますが、私の周りで歌っている者は誰一人いませんでした。
当然ですよね。私だって前日の夜、必死に音取りしたくらいです。特に音楽に興味もない一般の新入生が、いきなり歌えるわけありません。
その状態で一人だけ歌って目立つ勇気は私にはなく、私も黙ったまま。前夜の音取りは無駄になったのでした。
ちなみに、この時の『大学側が用意した演奏者』というのは、この大学の合唱サークルの者たち。後に私もそちら側になって、今度こそ入学式で学歌を歌うことになるのでした。
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