小学校の合唱クラブ(後編)
さて、前回述べたように、もはやコンクール強豪校ではなくなった合唱クラブ。
それでも、基本的なシステムは以前と変わらず引き継がれていました。
朝練の存在です。
毎日、朝早くから登校して、音楽室へ。そこでコンクールのために、必死になって練習する。
これが、合唱クラブの基本でした。
今わざわざ『コンクールのために』と書いたように、コンクール用の練習は、全て朝練で行われます。一週間に一度の、本来のクラブ活動の時間である月曜の午後は、基礎的な練習をしたり、コンクールとは無関係な簡単な歌を歌ったり、というだけ。
ハッキリと別れていました。
せっかく練習に使える時間があるのだから、『本来のクラブ活動の時間である月曜の午後』も、コンクール用に使えばいいのに……。
子供心に、そんなことも思いましたが。
学校のカリキュラムとしてのクラブ活動の時間は、クラブ活動を楽しむためのもの。いわば、エンジョイ勢のための時間。これに対して、非正規の朝練はコンクール向けなので、ガチ勢の時間。そんな住み分けをしていたのでしょう。
もちろん、もともとコンクール強豪校だったクラブですから、原則としてエンジョイ勢なんていないわけですが……。
ごく稀に、朝練から脱落してしまう部員もいたのです。
小学生が毎朝、早くから学校に通うためには、本人の強い意志と家族の協力が不可欠ですからね。
そして。
かくいう私が、その『ごく稀』の一人、朝練に行かなくなる部員になってしまったのです!
小学生の頃の私は、どちらかといえば勉強ができる子だったのですが、これは別に私自身の頭が良かったからではありません。親に「勉強しろ」と言われて、逆らえずに勉強していたからに過ぎません。
中学は私立の進学校へ行く、というのも早い段階から言われており、ちょうど進学塾へ通い始めたのも四年生の時でした。
そんな家庭環境だったので、
「朝練なんて受験勉強の邪魔だからダメ」
と申し渡されてしまったのですね。
せっかく入った合唱クラブです。朝練に行かないのはクラブを辞めるようなもの、というのは感じていたので、とても残念な話だったのですが……。
親を説得しようとするどころか、自分の気持ちを正直に述べることもなかったと思います。
「合唱、続けたかったなあ……」
と思いながらも、私は諦めて辞めることになりました。
朝練に行かないのはクラブを辞めるようなもの、と書きましたが。
小学校のクラブ活動なので、途中で転部というのはありません。一応、月曜の午後には、合唱クラブに通い続けました。もう自分は部員ではない、という感覚を持ちながら。
なお、私の小学校では、クラブ活動は学年が変わる度に新しく決め直す形だったのですが、合唱クラブだけは四年生で入ったら五年生も六年生も続ける、というのが慣例でした。これも、合唱クラブの特別待遇の一つだったかもしれません。
当然、四年生の途中で『辞めた』扱いの私は、五年生になって続けるはずもなく、違うクラブを――何か適当に遊ぶところを――選ぶ形になりました。
……と、こうして「朝練を辞めることになった事件」を書いていると。
また『響け! ユーフォニアム』を思い出してしまいます。
主人公は吹奏楽を続けている設定でしたが、代わりに主人公の姉が「親の言う通りに勉強を優先させて、楽器を辞めたけれど、本当は続けたかった!」と爆発するシーンがありましたよね。
こういうのって、物語の定番パターンの一つなのでしょう。『響け! ユーフォニアム』では、メインである吹奏楽部のキャラではなく、主人公の姉という少しサブの位置に「音楽を続けたかったけど辞めた」というキャラを配置した上で、その一件に対する主人公の思いを活かして、「メインキャラがコンクールに参加できなくなるかもしれない」というピンチを解決させるのに関わらせていました。
楽器を使った部活ものだと、他の競技以上に「続けている」ことが主人公の上手さの説得力に繋がるので、難しいのでしょうが……。作劇上は「一度は辞めた」というキャラ設定を主人公に割り振るのも、その後の成長を描くためには面白いのかな、と思います。別に「親に言われて」みたいな形ではなくても。
例えばスポ根漫画でいうと、『ちはやふる』にも「主人公が競技カルタをとれなくなる」という場面がありますよね。クライマックス前に大きな挫折を持ってくることで、後々のカタルシスに繋げるみたいな感じで。よりにもよってアニメ三期は、その『挫折』の辺りで終わっているので、アニメ四期が待ち望まれるところですが。
いや『響け! ユーフォニアム』にしろ『ちはやふる』にしろ、運動という意味でのスポーツではないからスポ根の例に挙げるのは微妙かもしれませんが……。
まあスポ根ではなくロボアニメでも、主人公が逃げ出すシーン――例えばガンダム第17話の「アムロ脱走」とかエヴァンゲリオン第4話「雨、逃げ出した後」とかエウレカセブン第21話「ランナウェイ」とか――が定番だったのは、やはり「成長を描くために一度は大きな挫折を経験させる」というのが、作劇上の基本パターンなのでしょう。
……と、かなり話が脱線しましたが。
そうした物語の主人公たちに重ね合わせたくなるほど、私は小学生時代に、いったん合唱から離れてしまったのでした。
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