子供の頃

小学校の合唱クラブ(前編)

   

 いつから歌うことを好きだったのか、自分でもハッキリとは覚えていないのですが。

 おそらく小学校で、最初の担任の先生の影響もあったのだと思います。

 私の小学校は、2年ごとにクラス替えがあって、その際に担任の先生も変更となるシステム。だから一年生と二年生の時は同じ先生だったのですが……。

 この先生が、歌好きだったみたいです。


 小学校に入った時、学校側から色々と与えられた――買わされた――勉強道具一式の中に、文庫本くらいの厚さの本が一冊ありました。愛唱歌集みたいなものです。

 まあ『文庫本くらいの厚さ』といっても、使われている紙そのものは文庫本より厚紙でしたから、ページ数としては、それほどでもなかったはずですが。

 それでも、かなりの曲数が収録されていました。

 そんな『愛唱歌集』ですが、別に音楽の教材というわけではなく、音楽の時間には使われなかった気がします。最初の数ページには校歌とか、運動会の応援歌とかも載っていたので、そこだけはイベントの際などに開かれるとしても、肝心の本編には目を通すことなく終わってしまうのが普通だったのでしょう。


 ところが、私のクラスの担任の先生は、この歌集をフル活用していました。時間が余ると「みんなで何か一曲歌おうか」と言い出すことがありましたし、また毎日の帰りの会では、一日一曲、生徒に選ばせてみんなで歌う、という決まりでした。

 三年になって担任が変わると、もうこの歌集を使う時間はなくなったので、これはその先生の個人的な方針だったのでしょう。


 そう、三年になったら、通常の音楽の時間以外で『歌』と接する機会はなくなりました。ある意味、歌との接点が復活するのは、四年生に上がった時。

 四年生になると、クラブ活動が始まるからです。

 私の小学校は公立――東京の区立――だったので、特別なカリキュラムではなかったはずですが……。

 クラブ活動は四年生以上で、月曜の午後の時間が割り当てられていました。それが原則なのに、なぜかサッカークラブと合唱クラブにだけは朝練がある、という噂でした。

 いやサッカーの方は『なぜか』なのですが、合唱の方は、全校生徒がその理由を薄々察していたかもしれません。私の小学校の合唱クラブは、コンクールで優秀な成績を収めることの多い、いわゆる強豪校だったからです。

 合唱クラブがコンクールで賞を取った記念に、全校生徒が体育館に集められて、その演奏を聴かされる……。そんな出来事が度々あったので、「うちは合唱の強豪校!」というのは、小学校全体の周知の事実だったわけです。


 合唱クラブの顧問は、音楽を担当している先生でした。でも私は、その先生に教わった記憶はありませんから、おそらく低学年のうちは、音楽の時間も担任の先生が教えていたのでしょう。専門の先生が音楽の時間を受け持つのは高学年のみ、というシステムで。

 なお、この顧問の先生。児童合唱の世界では、かなり名の通った先生だったようです。

 後々、大学生になった私が楽譜屋で、ノスタルジックな想いから児童合唱の楽譜を何冊か手にとってみたら、そのうちの一冊の背表紙に『この顧問の先生』の名前が記載されていました。さすがに作曲者ではなく編集者でしたが、それでも凄いですよねえ?


 合唱コンクールの強豪校。顧問は、その世界では有名な先生。

 そう書いてしまうと「おやおや、漫画やアニメのような展開になってきたぞ」と思う方々もおられるかもしれませんが。

 現実は、そんなに甘くありません。それに関しては次回ということで、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。

   

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