第3話 純粋な弟とひねくれた私
「お姉さま!ぼくあっちに行きたい!」
急に私の膝から飛び降りた彼は私の手を掴みいきなり走り出そうとした。
またか。と思う。
彼は時々こういうことをするのだ。
とても気まぐれで、それこそ無邪気に周りを振り回す。
私が距離をおこうとしているのにうまくいかないのも彼のその性質のせいであると思っている。
人を巻き込むのがとても上手な弟は人に囲まれている人間だ。
しかし貴族の令嬢として走るのはいかがなものか。
彼を叱れない私は一生懸命私を引っ張る彼にゆっくりとついていくだけに留める。
彼は少し不満そうな顔をしているが文句を言わない。私はそのまま彼のいい子な性質に甘えそれに気付かないふりをした。
グイグイ私を掴んで走り回り振り回す。
あっちと言うにはいささか範囲が広いんじゃないかと思う位置にある春の花が綺麗に咲いている庭園まで引っ張ってこられた。室内から外に出るのに“あっち”なのか。範囲広すぎないだろうか。
子供の価値観と言葉選びに私は子供時代を二度も繰り返しているにも関わらず飽きずに何度も驚かされる。それがまた魅力と言われればそうかもしれないが。
はてさて、どういう因果か、前世で私との婚約を破棄し、ヒロインの手を取り、私を処刑した彼は今では私の可愛い可愛い弟である。
彼の姉として生まれ変わった私に彼はたいそう懐いているのが現状である。
だがしかし、ひょこひょことカルガモの様に私を追いかけてくる彼との接し方が未だに分からない。
今年で私は10歳、彼は7歳になるわけだから、彼とは7年も姉弟をしているのに未だに分からないのだ。
だから私は彼の言うことをなんでも肯定して彼のいうことを聞いてしまうのかもしれない。
そして彼にとって優しく都合のいい私に彼は懐いたのかもしれない。
こんな小さい子に対して酷いと思うが、私はどうしても彼の前世を知っているため近づきたくない。
彼が私を慕うのは、ただの好意だ、姉に対する家族に対する優しさだと分かっている。
しかし彼のそんな優しささえ素直に受け取れない。
私が逃げても避けても、素直で優しい彼には、私の汚い心の内など分からないようである。そのためか、無邪気で純粋で天真爛漫な彼に、今日も私はどことなく後ろめたい気持ちで一歩引いたように接することになるのだ。
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