第2話封印の歌の呪い

 七月二十九日、五日前に夏休みを迎えた千草全治は田舎の叔父さんの実家に来ていた。

「全治君、宿題もいいけど外で遊ばないか?新しいラジコン見せてあげるよ!」

 叔父は今は亡き全治の実の父とは違い、遊び人タイプの人だ。去年三十歳を迎えたのに今だ独身、趣味のラジコン集めに夢中の若いおっさんである。

「そうだね、後で見せてもらうよ。」

 全治はそう言って宿題に戻った、そして区切りがいい所で叔父の所へ向かった。

「叔父さん、ラジコン見せて。」

「悪いけど、頼みがある。」

「どうしたの?」

「君に見せたい飛行機があるんだけど、コントローラーの電池を切らしてしまった。電池を買ってきてくれないか?」

「いいよ。」

「ありがとう!単三のアルカリ乾電池だ、よろしくな。はい、お金。」

 全治は叔父さんから千円札を受け取ると、コンビニに向かった。向かう途中にある溜池の横を通ると、奇妙な歌が聞こえた。

「ぺったこぺったらーぺっこっこー。ぺったこぺったらーぺっこっこー。」

 全治は「誰が歌っているのだろう?」と気にしながらも溜池を通り過ぎ、コンビニで単三アルカリ乾電池を購入した。そして元来た道を歩いていると、全治と同い年の少年二人が妖怪に襲われていた。

「今、俺の歌を歌ったなあー!」

「ヒッーー、ごめんなさい!!」

「真似をしておいて、ただではすまんぞ!!」

 全治は二人を助けようとした時、ゼウスの声がした。

「全治、そなたには私と同じ力が少しながらある。雷を思い浮かべれば、狙った方向に発射できる。」

「わかった、やってみるよ。」

 全治は妖怪に向かって手の平を向けた、すると雷が妖怪に落ちた。

「ぎゃあああああああああ!」

「本当に出た・・。」

 全治は少し驚いた、そして全治以上に驚いている二人の少年に言った。

「ここは任せて、早く逃げて。」

「あ・・・あ・・ありがとう!」

 二人の少年は駆け出していった、それから少しして妖怪がボロボロの体で起き上がった。

「お前・・・・何者だ・・・。」

「千草全治、君は誰?」

「俺は皿小僧だ・・・お前、妖怪か?」

「人間だよ。」

「嘘をつくな!!どうして雷が放てる。」

「僕はゼウスという神様から力をもらった、だから雷を放てる。」

 皿小僧は「意味が分からん」と舌打ちすると、全治に質問した。

「どうして俺の邪魔をした?」

「あの少年達を助けるため、じゃあどうして君は少年達を襲っていたの?」

「俺の歌を真似したからよ、近頃の子供は言い伝えを理解しねえ・・。」

「どうして歌を真似されたくないの?」

「はあ!?そんなの嫌に決まっているだろう!」

「どうして嫌なの?」

「この歌は、言うなれば俺自身だ。俺の魂が込められているんだ、そんな歌を真似されたら、俺自信が軽く見られている気がして我慢ならないんだ!!」

「じゃあ君は歌でもあるんだ、どうして姿があるの?」

「うっ!!それは・・・。」

「違うの?じゃあどうして、自分と歌は同じだって思うの?」

「うるせえ!」

 皿小僧は付き合いきれなくなった。

「とにかくもう帰ってくれ・・・。」

 皿小僧は全治に「帰れ」の手ぶりをした。すると全治の手元に、いつの間にかゼウスの魔導書を握られていた。

「あれっ?叔父さんの実家に置いたはず・・。」

「なんだ、その本は?」

 皿小僧はゼウスの魔導書をまじまじと見た。

「ん?ページが光っている・・・、ここを開けということか。」

 全治は魔導書の光ページを開いた、すると本の中から小さなオルゴールが現れた。

「何だそれは!?」

 皿小僧が驚く中、全治は魔導書の文を読んだ。

「封殺のオルゴール・このオルゴールは歌やリズムをその内に封印する、封印された歌やリズムはこの世に生きる者全てが、歌ったり奏でることが出来ない。」

 それを聞いた皿小僧は、全治に言った。

「そのオルゴールとやらを使わせろ。」

「いいけどどうするの?」

「俺の歌を封印するんだ。そうすれば真似されることは無い。」

「・・・・本当にいいの?この世に生きる者全員、歌えなくなるんだよ?」

「いいの!さっさと使わせろ!」

 とにかくせがむ皿小僧、全治はオルゴールの蓋を開けた。

「ここに向かって歌えばいいって。」

「よおし、ぺったこぺったらぺっこっこー、ぺったこぺったらぺっこっこー。」

 皿小僧の歌がオルゴールに吸い込まれていき、そしてオルゴールの蓋が閉じた。これで封印完了だ。

「これで君の歌は、誰も歌えなくなった・・・。」

「そうかそうか、本当にありがとう。」

 皿小僧はこれまでとは態度を逆転させ、満面の笑みを浮かべた。そして全治は皿小僧と別れて、叔父さんの実家に帰っていった。



 その日の深夜、皿小僧はふと歌おうとしたが・・・。

「あれ?なんだっけあの歌・・・。」

 いつもの歌のリズムと歌詞が、口から出てこない。

「おかしいなあ、何で思い出せないんだ!?」

 皿小僧は困惑しパニックになった、そしてふと全治の言葉を思い出してハッと気づいた。


  『この世に生きる者全員、歌えなくなるんだよ?』

 

 皿小僧は池の真ん中で発狂した。


 翌日午前十時頃、全治は散歩で眷属のホワイトを連れてあの池の横を通っていた。

「ここが全治の言う、皿小僧を見た池ですか。綺麗ですね。」

「ああ、昨日叔父さんに聞いてみたけど皿小僧がこの池にいることは、昔から言われていたようだ。だったらどうして今の人は信じないのだろう?」

 全治が疑問に思っていると、皿小僧が激昂の顔で全治の前に現れた。

「おい!俺の歌を返せ!!」

「ん?君の歌はオルゴールに封印したはずだよ。」

「だ・か・ら!オルゴールから俺の歌を返せと言っているの!!」

「なるほど、でもどうして歌を返してほしいの?」

「最初は真似されずにすむと思っていたけど、まさか俺まで歌えなくなるなんて思ってもみなかったんだ・・・。」

 皿小僧は悲しげに項垂れた。

「魔導書の言葉が分からなかったのか・・・、それならしょうがない。歌を取り戻せるか見てみるよ。」

 と全治が魔導書を取りに行こうとした時、すでに魔導書は全治の手に握られていた。

「何だか都合がいいな・・。」

 と思いながら全治は魔導書を読んだ。

「あった、封印を解くにはオルゴールを鳴らすこと。」

「それで戻るのか、早くオルゴールを鳴らせ!」

「ただし封印したものには封印の代償として、歌の呪いや怨念により千回歌いながら踊り狂わなければならない。」

「せ・・千回も歌いながら踊り狂う!!」

 皿小僧は唖然とした。

「歌を取り戻すにはそうするしかない、どうする?」

「・・・わかった、俺は俺の魂を取り戻す!!」

 皿小僧は覚悟を決めた。

「じゃあ、オルゴールを出すよ。」

 全治は魔導書からオルゴールを出した、そしてオルゴールのハンドルを回した。

「ぺったこぺったらぺっこっこー、ぺったこぺったらぺっこっこー。」

 封印されていたメロディーがオルゴールから流れた。すると皿小僧はいつものように歌いだした。

「ぺったこぺったらぺっこっこー・ぺったこぺったらぺっこっこー」

 そして復唱しながら操られているかのように踊りだした。

「何だか変な踊り。」

 ホワイトが笑い出した、すると皿小僧は道を横切って踊りながら進みだした。全治とホワイトが後をつけると、皿小僧は車道に躍り出た。すぐ近くに軽自動車が迫っている。

「危ない!!」

 全治が叫んだ時、皿小僧は轢かれて姿が消えていた。

 

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