全能少年「末路を見届ける者」

読天文之

第1話嫉妬と過去

 ゼウスの魔導書を拾い神の子となった千草全治、そんな彼も小学二年生になり一か月と少しが経った。

「全治、おはよう!」

「おはよう。」

 全治は北野剛四郎から声をかけられた、二年生になってクラスは違ったが親友という関係は変わらなかった。

「そういえば俺のクラスの高須黒之の事なんだけど、アイツめちゃくちゃ女子から人気あるんだぜ。」

「そうなんだ、どうして何だろう?」

「成績良くて運動もできてあの見た目だからな。」

 高須黒之はクロノスにより末裔としての力を授かり、去年の学芸会では全治をその力で殺そうとした。一命はとりとめた全治だったが、以来高須の事を気にするようになった。

「そういえばもうすぐ授業参観なんだけど、千草はどうするんだよ?」

「爺ちゃんと婆ちゃんが来てくれる。」

「そうか。よかったな、爺ちゃんと婆ちゃんがいて。」

 そして二人はそれぞれの教室へと入っていった。


 そして朝の会、担任の神林は授業参観について説明した。

「一週間後の授業参観では、家族との日常についての授業を行う。なので必ず父母どちらか一人には来てもらう、もし来られない場合は授業前までに私に報告するように。」

「すみません、質問してもいいですか?」

 神林は少しイラッとした顔をすると、全治の質問に答えた。

「僕には両親がいません、どうしたらいいですか?」

「両親がいない?ふざけているのか!!」

 神林は怒鳴りだした、しかし全治は動じない。

「ふざけていません、本当に両親がいません。」

「あの!!千草くんは、三歳の時に両親を亡くしているんです!」

 同じクラスになった川原朱音が、神林に言った。他のみんなも川原に同調した。

「んん・・・。だったら、他に家族はいないのか?」

「爺ちゃんと婆ちゃんがいます。」

「だったらそれでいい!必ず来てもらうように言うんだぞ。」

 全治は納得して席に座った。そして放課後、川原が全治に話しかけた。

「全治くん、最近辛くない?」

「僕は大丈夫だよ、さっきはありがとう。」

「いいのよ、それにしても先生はどうして全治君にだけ厳しくするんだろう?」

 それは全治も薄々感じていた、例えばテストで他の生徒が百点を取ると褒めるのに、全治が百点を取ると褒めるどころか舌打ちをして機嫌が悪くなる。宿題も全治だけ他のより多めに出し、全治を無理矢理クラス委員に任命した。後は先程のように、全治と話す時は高圧的な口調になり怒鳴るのだ。

「先生は全治が気に入らないのかな?」

「聞いてみたいけど、あれじゃあ教えてくれないよ。」

 全治はため息をついた。


 そして授業参観前日、全治に予想外の事が起きた。

「全治、明日の授業参観・・・。行けなくなってしまったわ。」

 祖母の口から告げられた。

「どうして?」

「私の友人が亡くなってしまったの、それで友人の葬儀の招待状が昨日届いたんだよ・・。」

「そうか・・、どうしても行けないの?」

「うん、ごめんなさい・・・。」

「わかった、それでいいよ。」

 全治は気にしていないようで、学校に向かった。途中で全治の眷属のホワイト(白い子熊)が、話しかけた。

「全治はどうするの?あの嫌な先生が何て言うか・・・。」

「大丈夫。」

 そして全治は学校に着くと、真っ先に職員室に向かい神林に話しかけた。

「あの、明日の授業参観の事ですが。」

「ああ、もしかして爺ちゃんと婆ちゃんが来れなくなったか?」

「うん、友達の葬式に行かなきゃいけなくなった。」

「それなら仕方ない、お前は明日の授業参観に出るな。」

 神林は冷たく言った、全治が質問する。

「どうして授業参観に出られないの?」

「親が出られなきゃ意味が無いだろ!そんなことも分からないのか!」

 やはり怒鳴る神林。

「・・・じゃあ、僕はどうすればいいの?」

「自習するがいい、この孤児め。」

 神林は若干顔をニヤリとした、でも全治は特に何もなく教室に向かって行った。


 そして授業参観当日、二時間目の授業の開始を多くの保護者が待っていた。そして礼を終えると、神林は全治を名指しした。

「分かっているな?」

「はい。」

 全治は算数の教科書とノートと筆記用具を持って、教室を出ようとした。

「先生!どうして全治が教室を出なきゃならないんですか!?」

 北野が怒鳴った。

「北野か、全治は保護者が出席出来なくなったから、教室を出るのだ。」

「本当か、全治?」

「うん、爺ちゃんと婆ちゃんに急な用事が出来たようなんだ。」

「全治、俺が代わりになってやる!」

 北野の父が全治に言った。

「父ちゃん、ナイス!」

「困るんだよ・・・、規律を壊す綺麗事は。」

「参観とはいえ、授業は授業だ!全治君にもさせるべきだ!」

「じゃあ、剛四郎が抜けろ。」

 神林がとんでもない事を言った。

「なっ、テメェ!」

「いいよ、北野さん。授業の邪魔したくないし、かばってくれてありがとう。」

「全治・・・。」

「理解がいいな、では多目的室へ行くがいい。私が来るまで、自習してるように。」

 全治は多目的室へ向かった。


 全治は教科書の問題をノートに写しながら解いていた、ホワイトが全治に話しかけた。

「全治!神林にここまで酷く扱われて悔しくないの?」

「悔しいというか、質問したいことが多いかな。」

「全治はやっぱり質問したいのですね・・。」

 机の近くでホワイトが呆れていた。そして授業終了十五分前、突然多目的室の戸が勢いよく開いて校長先生が現れた。

「千草君、ここで何をしているんだ?」

 校長先生は怒鳴るよりも驚いた声をしていた。

「神林先生にここで自習していろと言われました。」

「今日は授業参観だろ、何があったんだ?」

「保護者が来れなくなったから、授業参観に参加するなと言われました。」

「それはけしからん!今から教室に戻ろう!!」

「あの、授業参観が終わったら来るので待っていたほうがいいですよ。」

「そうか、それじゃあ神林が来るまで私が勉強を見てあげよう。」

 校長先生は全治の言う通りにした、そしてチャイムが鳴ると待っていたかのように戸の前で仁王立ちした

「全治!もど・・・。」

 戸を開けた神林は仁王立ちの校長先生に顔面蒼白となった、そして神林と全治は校長室に連れて行かれた。そして校長先生に尋問された神林は、全治に鬼気迫る顔をして言った。

「どうして校長を入れたんだ!!」

「だって入ってきたから。」

「お前、頭いいんだから真面目を上手く使い分けろよ!!生徒なんだから、担任の立場を考えろよ!!」

「神林、自分が何を言っているのか分かっているのか!!」

 校長が神林に激怒した。

「ねえ、どうしていつも僕に怒鳴るの?」

 全治はついに神林に質問した。

「っ・・・・、気に入らないんだよ!!俺がお前ぐらいの時は死にもの狂いで勉強していたのに、勉強しなくても成績がいい才能のあるお前が・・・羨ましかったんだーーーっ!!」

 神林は泣き出した。

「ねえ、先生は子供なの?」

「違う、俺は大人だ!」

「じゃあどうして、子供の時の先生と今の僕を比べるの?」

 神林は何も言えずに、泣き崩れるだけだった。




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