28 回答を待つ

 帰宅後、僕は常に手元にスマホを置いて過ごした。いつ先輩からの回答があってもいいように、夕食の時も、風呂に入る時も、そばに置いていた。


 幸い、まだ着信はない。


 風呂場から自室に戻ると、妹に貸していたはずの『無理きわ』の攻略ノートが机の上に置かれていた。勝手に侵入したようだ。


 よく見ると、ノートにはピンク色の付箋紙が貼られていた。妹の文字で、『やっぱり無理』と書いてあった。


 見切りをつけたらしい。賢明な判断だ。


 僕はそのノートを机の引き出しにしまうと、ベッドの上に座り、またスマホが鳴るのをじっと待った。第四和室にいる時と、感覚が似ていた。


 午前0時を過ぎたら僕の勝ちだから、本来なら電話が鳴らないのを願うべきかもしれないけれど、それはないだろうと確信していた。あの九先輩が、回答をむざむざ放棄するなんてことは、考えられないからだ。


 ところが午後11時を過ぎても、スマホは沈黙したままだった。


 さすがに落ち着かなくて、本を読んだり、狭い部屋を歩き回ったりした。それでも二、三分後にはすぐスマホを手に取ってしまう。結局、ゲームでもして気を紛らわせようと思い、『無理きわ』をプレイした。


 決断は功を奏した。ゲーム相手にイライラしていたら、だいぶ時間が経っていた。


 『無理きわ』を強制終了し、改めてスマホに表示されている時刻を確認する。


 午後11時50分。


 あと10分だ。


 そこから先は、なんとなく正座して待った。


 静かだ。聞こえるのは、僕の鼓動と呼吸の音だけ。


 仮にこのまま、先輩が彼女になったらどうなるんだろう? と想像してみた。


 よく考えてみれば……ナゾ解き勝負の結果で恋人になったところで、先輩は幸せなのだろうか。もしも罰ゲーム感覚でいやいや付き合うとしたら、その先に待ってる未来は何だろうか。


 いや、今さらか。それが嫌だったら、そもそも勝負に乗らないはずだ。つまり最悪の場合でも、僕が相手ならば付き合ってもいいと、彼女はそう思ってくれているんじゃないだろうか。


 やめよう。そんなことは考えなくていい。


 時刻は午後11時59分を回った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る