笑顔は商売の手段として効果的か?
あの愚か者共の記憶によると、一番手軽に公衆電波を利用出来るのはバーガーショップとやらだ。
この国の基本的な金銭基準である一トルあれば、食事が出来るらしい。
本来俺は金銭を持っていなかったのだが、さっきの愚か者共の持っていた分を手に入れているので、取引可能となっている。
そう考えると、あの連中も役に立っているな。
格上げしてエサと呼ぼう。
しかしなんだな、金属よりも紙のほうが高価とは、人間というものは俺とはだいぶ価値観が違う。
「ええっと、ああ、ここだな」
連中の記憶と照合して、バーガーショップを訪れる。
しかしまぁごちゃごちゃとした装飾だ。
意外と嫌いじゃない。
基本的に派手な色彩が好きなのだ。
そういう意味ではあのエサ連中の着ていた服は俺の好みとは合わなかった。
白とか黒とか銀色ばっかりで、いろどりが少ないのだ。
金属を多数使用しているのだけはなかなかいい好みだと認めてやってもいいが。
「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりでしょうか?」
「一トルバーガーをくれ」
「ご一緒にドリンクとポテトもいかがですか?」
ん? なんでこっちが言ったもの以上を買わせようとするんだ?
なるほど、要するに商品を販売することで金銭を取得して、たまった金銭で別の欲しいものを手に入れるという仕組みなんだな。
だから出来るだけ引き換える金銭が多いほうがいいから、客に余分に金銭を使わせたいのだ。
人間社会ではこうやって常に駆け引きを学んでいるということか。
つまり金銭を多く持っている者がより強いということでもある。
紙のほうが価値が高いのは、貧弱な人間が、より多く金銭を持ち歩けるようにという工夫なのかもしれない。
人間は単純な力だと、同じ程度の体格の生き物のなかでは弱いほうだ。
そのため、罠や道具を使って駆け引きを行うことで勝利を狙う。
その力を衰えさせないために、金銭という仕組みがあるのだな。
ということは、ここで追加で何かを買うということは、敗北を意味する。
「いらん」
「ありがとうございます。それでは一トルバーガーひとつ! 店内でお召し上がりですか?」
「ああ」
「少々お待ちください!」
俺はポケットに突っ込んだくしゃくしゃの一トル紙幣を手渡した。
相手は嫌な顔ひとつせずにそれを受け取ってきれいに伸ばして専用のレジという金銭の収集機に収める。
その後の動きも見事なものだった。
奥のほうから転がり出た紙包みをさっとトレーに乗せると、引き換えに渡された番号で俺を呼び出す。
「一トルバーガーひとつ、お待たせしました!」
「待たせてはいないだろう」
俺の言葉ににこっと笑顔を向ける。
笑顔を見せることによって相手の感情を操作して売り上げにつなげるという策略らしい。
人間社会もなかなか楽しいな。
俺はバーガーひとつをトレーに乗せて、適当な席を探す。
エサにした連中はいつも二、三人でつるんでいたので、テーブル席に座っていたが、ひとりでテーブル席に座るのはあまり好ましくないようだ。
それにカウンターを利用すると、スマホの充電も出来るらしい。
一トルの価値を考えると、対価に対してのサービスがやや過剰に思える。
これは、あの売り子のおすすめ通り、ドリンクやポテトを追加購入してやってもよかったか。
どうも取引に釣り合いが取れていないのは今一つ落ち着かない。
多くの席にはすでに人間が座っていたが、幸い、隅のほうの狭いカウンター席が空いていた。
俺はそこに腰を落ち着けると、スマホを取り出し、充電しながら検索を開始した。
まず調べるべきは、光の使者だな。
しかし光の使者で検索すると、何やら偽物の神をあがめる危険なテロ集団とか、ファンタジーという、架空の物語、ゲームという遊技に登場するキャラクターなどが引っかかるばかりだ。
しかも光の使者そのものではなく、「光の使徒」や「光の勇者」などと微妙に違う。
「そうだ!」
そう言えば、
ふむ、そっち方向で検索してみるか。
亜人排斥運動で検索すると、「近年稀にみるテロリズム!」「虐殺者!」「大勢の子どもが犠牲に!」などという文字が並んでいた。
そのなかで一番上位に出ていた記事を読んでみる。
「なになに、亜人が混じることによって人類は堕落したと唱える、亜人排斥主義者たちの集団は、真なる光の使途と名乗り、亜人種を差別用語である魔族と呼び、亜人種が多く在籍する学校や、施設を狙ったテロを実行した。度重なる凄惨なテロに、穏健派として知られている我が国のプレジデントが、激しい怒りをあらわにし、彼等を必ず壊滅させると宣言する事態となった……なるほど」
人間は几帳面な種族なので、時間を正確に計測することにこだわりを持っている。
そのため、物事がどのくらい前に発生したのかという記録を重んじていた。
この記事にも、きちんと日付が示されている。
「ええっと、約十年前……か。かなり最近の話だな」
神と名乗る奴が俺に光の使者の話をしに来たのはまぁだいたいだが、百年ほど前だと思う。
俺は人間ほど細かく時間を計測しないので、少しはズレがあると思うが、二百年は経ってないだろう。
ましてや、十年以下ということはない。
少なくとも、俺が独り立ちするまでに十年ぐらいはかかったし、適当な寝床を見つけるのにその倍以上の時間がかかった。
その後はうとうとしながら過ごしたので、よくわからないが、まぁ百年と思っておいていいはずだ。
つまり何が言いたいかというと、あの神が関与しているとすると、最近すぎるのだ。
「いや、案外、おかしな話ではないかもな」
あの神は、世界を放置している間に淀みが溜まって、秩序が崩壊しかねないほどになり、慌ててそれを解消するために、淀みの化身である俺を光の使者とやらを使って排除しようとしていた。
つまり取り返しのつかなくなる寸前まで放っておく性質であると推測することが出来る。
「もしかしたら、俺が待ちくたびれてさんざん神に文句を言っていた頃に慌てて動き出したのかもしれん」
そうすると、計算上は合う。
ふむ、もう少し調べてみるか。
すると、テロの組織が子ども達をさらって、自分たちの戦士として育てていたという記事を発見した。
発見された子ども達のうち、身許が判明しなかった者は、当時の神殿長が正しい道へ導くために引き取った、とある。
そう言えば
まずはそっちに当たってみるか。
世界の秩序のためにラスボスを引き受けたけど、いつまで待っても討伐に来ないので迎えに来てみた 蒼衣 翼 @himuka
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