人間らしい姿を探れ!

 さて、俺の服装が人間社会に沿ったものではないということはわかったが、他人を観察してみても何が違うのかよくわからない。

 似たようなもんだと思うんだけどな。

 そうだ、素材をチェックしてみよう。

 ふむふむ。

 動物の皮を着ている人間は多いが、植物の葉っぱを身に着けている人間は少ない……というよりもいない。

 なるほど、葉っぱが問題か。


「おい、てめえ」


 ということは、とりあえず葉っぱの部分を脱いだほうがいいか?

 しかし下半身に何も着けてないと、それはそれで目立つような気もする。

 

「おいっ! シカトしてんじゃねーよ!」

「ん?」


 急に人間の男から肩を叩かれて振り返る。

 咄嗟に噛みつこうかと思ったが、もしかすると光の使者かもしれないし、うかつなことは出来ない。


 さっきの三人よりも若い個体が三人。

 どうやら人間は三人ぐらいで群れるのが好きなようだ。

 道行く集団を観察した感じでも一人から三人連れが多いように思える。

 実に興味深い。

 

 おっと、そういえば、この人間が俺に用事があるんだったな。

 何やら苛立ちを感じる。

 今度は俺自身に向けられたものだ。


「悪かった。俺のことだとは思わなかったんだ。もしかして君達のうちの誰かが光の使者なのか?」


 そうだとするとラッキーだ。

 やっと面倒事から解放される。


「あ? 何言ってんだこいつ?」


 一人が俺の言ったことを理解出来なかったという表明をした。

 ん? 人間の言葉への理解は完璧だと思っていたが、まだ少し祖語があるのかな?

 これは早急に人間に関する詳しい知識が必要だな。


 すると、この群れのリーダーらしき個体が、相互理解に失敗した仲間をなだめるような仕草をした。


「ああ、光の使者だろ? 知っているぜ」


 おお、すごいぞ。

 早々に手がかりがつかめそうだ。

 まったりとした洞窟ライフを諦めた甲斐があった。

 やはり待つよりも、自分から行動したほうが物事は順調に行くな。


「助かる。教えてくれ」

「ああいいぜ。こっちだ」


 男達はニコニコと笑いながら案内してくれる。

 笑顔というのは一般的には挑戦を示すものだが、人間にとっては友好を示すものだと精霊は言っていた。

 つまりこの男達は俺に対して友好にふるまっている訳で、決して捕まえて食おうとしているのではない。

 ちょっと誤解をしそうになった。危ないな。


 人間の作るユニークな形の巣の、細い隙間のほうへと進む。

 なるほど。俺は人間が多い大きな隙間を探していたが、重要なものはだいたい奥のほうにあるのは常識だ。

 隙間の奥をもっと確認するべきだった。


「兄貴、こいつぼこっちまうんでしょう?」

「あの恰好を見ろ。光のなんちゃらとか言って、ちょっと頭のネジが緩い野郎のようだ。それによく見ればかなり顔もいい。女ならもっとよかったんだが、世の中にはああいうのがたまらなく好きな奴がいてな。ほら、あの気取り屋の金持ち野郎、あいつ、家無しのガキの見目のいいのを女はもちろん男もかっさらって、毎晩お楽しみだって話だ。最後にはやりすぎていつも壊しちまうってことだが、まぁ俺らには関係ねえしな」


 少し離れたところで小声で会話をしているのが聞こえる。

 ところどころ理解不能な言葉が出て来た。

 やはり言語理解が完全ではないようだ。

 身内の話をしているので小さな声なのだろうか?

 それにしては意識は俺に向いたままのようだが。


「さ、この家だ。入って入って」


 招かれた場所は入り口がいびつに歪んでいて、扉の役割を果たしていない。

 この家の主は管理を怠っているようだ。

 俺は嫌な予感がした。

 片付けや管理が出来ない神のいい加減な仕事のせいで、迷惑をこうむっているからな。


「失礼する」


 他人の巣に入るときには挨拶をするのが基本。

 これは俺達ドラゴンでも同じだ。


「これはこれはご丁寧に」


 背後で一人が扉を閉める。

 だが、留め具の片方が壊れているので、あまり意味はない。

 とは言え、開けたら閉めるのは大切だ。

 

「へっへ、ノコノコついて来やがって、間抜け野郎! お前がこれからどうなるか教えてやろうか? 俺達の憂さ晴らしのために傷が残らない程度に殴られた後、変態野郎に売られて玩具にされるのさ。そんなイカレた恰好をしているような奴には、変態野郎の相手がお似合いだからな! 俺達は金が儲かる、お前はお楽しみだ。いい話だろうが」


 三人はゲラゲラと笑う。


「光の使者は?」

「ひかりのししゃだってよ!」

「そりゃあなんだ? 神殿の神官さまが唱える経典かなんかに載ってるのかよ!」


 そしてまた笑い出す。

 よほど楽しいことがあったのだろう。

 いや、これは生き物の本能としての挑戦の笑いか。

 彼等は野性的な人間のようだ。

 人間は個体差が大きくて意外性がある。


「つまり光の使者とは関係ないと思っていいんだな?」

「ったりめえだろ! 自分の置かれた状況を理解出来ねえ間抜け野郎が!」

「わかった。それでは君達には俺のために役立ってもらおう」

「は?」


 俺はすぐさまリーダーの男を食べた・・・

 群れのリーダーを最初につぶすのは常識だ。


「ひいっ! なんだこいつ! アニキをどうしたんだ! アニキッ! アニキッ!」


 ごくん。

 

「う、うわあああああっ! た、助けてくれ! 死神グリム・リーパーが、死神グリム・リーパーが出たっ!」


 逃げるならさっさと逃げ出せばよかったものを。

 彼等を野性的と思ったが、そういう部分の野生は失われてしまっているのか。


「……不味い」


 あの味もそっけもない神よりは遥かにマシだが、臭くてふにゃふにゃで気持ち悪い。

 やはり生物は食料として好ましくないな。

 唯一植物は悪くないが。

 特に甘味やすっぱ味のある果物や、硬い木の実などは独特の味わいがあって好きだ。

 だがなんと言っても一番は、鉱物だな。

 なかでも人間が加工した宝石は歯ごたえもいいし、味もいい。

 そこに魔力を込めた魔石というのは格別だ。

 せっかく人間の世界に来たのだから、そういうグルメな食べ物も楽しみたいものだ。


 おっと、ふむふむ。

 知識の吸収も終わったな。

 そうそう、服は彼等の着ていたものでサイズの合いそうなものをいただくか。

 獲物は隅々まで利用するのが礼儀というものだ。

 とは言え、出来れば人間を食うのは最後にしたいものである。

 なんでこいつらこんなに臭いんだ? 変な化合物……ああ、クスリと言うのか。そのクスリが脳を変質させていて、情報の摂取も微妙な感じだ。

 特に感情部分の記憶は混沌として話にならない。

 自分の頭のなかすら片付けられないとは、見下げ果てた連中だ。


「ん? お、これはいいな」


 リーダーの男が持っていたスマホという道具は、さきほどの施設……マッポのヤサというらしいが、そこにあったパソコンという道具の簡略版のようだ。

 収納されているアプリは、連絡用のものとゲームぐらいで、あまり活用出来てないようだが、これを使って調べものなども簡単に出来そうだ。


 俺はとりあえず、一般的な人間の恰好となったので、安心して人の多い場所に出ることにする。

 食った奴等の知識では、大量の情報を仕入れるには、公衆電波を使わないとスマホが使えなくなる、とある。

 公衆電波が使える場所に行って、さっそく欲しい情報を探ってみよう。

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