第35話 補色
色を使って、絵をよく引き立たせる効果としては「補色」という関係を使うのが一番簡単な方法である。実際にこの関係を使って描かれている作品は、案外多く見られる。
「補色」とはある決まった二つの色を隣り合わせに使うことによって、相乗効果が起こり色を引き立たせることができるものである。その組み合わせとは、赤に対しては青緑、青ならば橙色(または黄色)、紫色ならば黄緑色といった具合だ。
また補色の関係は、混ぜてしまうと黒い色になり元の鮮やかな色を失うことも分かっている。
しかし何故、別の色を隣り合わせることによって、色を引き立たせることができるのだろうか。このことについて、1991年に心理学者のホッホバーグという人物がある実験をしている。
それは「自分の全視野を全く同一の色で満たすことができるだろうか」という、ソクラテスの弟子・プラトンの疑問を解決するための実験でのことである。
自分の全視野を全く同一の色で満たすために、ホッホバーグはピンポン玉を半分に切ったようなものを被験者の目に当てさせ、そこに一色だけの色をあてる。すると被験者は全員3分以内に、見ていた色が消えたと言ったのである。
つまり、色というのは一色だけをじっと見ているだけでは、認識できないものになり、色の意味をなさないものになってしまうというのだ。そのため、色を認識するのには他の色との差異が必要であることがいえる。
ホッホバーグの実験ではここまでで終わっていたようであるが、実はこの一色を見つめたあとには別のものが見える。
たとえば赤い紙をじっとみていたとしよう。赤い折り紙がある人は、実際にやってみるといいかもしれない。
暫く見つめてから、白い壁に視線を移すとなぜか緑色が見える。また逆も同じで緑色を先にじっと見つめた後に、同じように白い壁を見ると赤い色が見えるのだ。これは「心理補色」と言い、ある一色を見つめると、その後に残像として補色の色がみえるという現象がおこる。
それを考えると、補色の関係で色を使うと人の目にとっては、残像ででてくる心理補色を補い、さらに色を引き立てている色の組み合わせであるため、それを応用している絵画は必然的に見やすくなる。また、補色関係はどちらの色も引き立たせようとすると目がチカチカするハレーション現象を起こすが、どちらかの色を脇役にしておとなしくさせることで、人々の印象に残るものとなる。
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