第36話 赤と緑の補色関係

 今度は、18世紀に活躍した画家、フラゴナールの「ブランコ(ぶらんこの絶好のチャンス)」という作品を見てみよう。


 この作品は元々、フラゴナールに依頼された作品ではなく、ドワイヤンという画家に依頼されたものであった。依頼したのはサン=ジュリマン男爵という人物で、ドワイヤンの友人であったようであるが、何らかの事情で彼からフナゴナールがこの作品を手がけることになった。


 この作品の題名にあるように若い女性が、下にいる男性を誘うかのようにブランコに乗っている。また下で女性を見ている男性は何をしているのかというと、彼女のスカートの中を覗こうとしているのだ。何と破廉恥な。まあ、それは置いておいて。


 この場面は誰が見ても、男性がブランコに乗っている若い女性に好意を抱いていると思うだろう。しかし若い女性のブランコを操っている後ろに男性がいるのである。実は彼は彼女の夫。つまりここで、三角関係が発生しているのだ。


 しかし、男性が脱いだ帽子と、若い女性がはいている靴が脱げそうになっている状態から、この作品のテーマが「自由恋愛」であることが伺える。それは、性に関して、道徳や宗教的教義から開放されたことを意味している。


 また「緑」の節で述べたことを思い出すと、後ろの背景にある森のようなものは五月祭を想起させ、この場所が恋に発展するであろう、男性と女性の出会いの場になっているとも、いえるのではないだろうか。


 さて補色の関係についてであるが、見ての通りこの絵の色の構成は大きく二つに分けられる。


 一つは後ろの背景になっている緑色の木々と、もう一つは若い女性が着ている着ている薄ピンクの服である。一見これのどこが補色関係なのかと思うが、私はこの背景の緑色とピンクのドレスが補色関係ではないかと思っている。


 確かにフナゴナールがそのようなことを考えて色を配色したわけではないかもしれないし、緑の補色である赤はないと思われるかもしれない。しかし、緑色の背景を見た後には人の目に心理補色が残っているはずである。その効果により、若い女性が着ている淡い色のピンクのドレスは実際よりも鮮やかに見える。


 もちろんこの効果は脇役的な存在であるが、当時よりこの色彩の配し方が美しいといわれ、版画で出回った絵に多少の効果を与えていたのではないかと思う。



【絵画】

*「ブランコ(ぶらんこの絶好のチャンス)」1767年頃 ジャン・オノレ・フラゴナール


【画家】

*ジャン・オノレ・フラゴナール(1732-1806)

 18世紀のロココ美術盛期から末期を代表する、フランス出身の画家。

 歴史画、神話画、宗教画、肖像画、風俗画、風景が、寓意画など様々なジャンルを手掛けるが、その中でも不道徳さの中にある甘美さや官能さを表現する作品から、彼の天賦の才が示されている。

 

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