Black 黒

第28話 黒

 人々にとって「黒」は、「闇」の象徴であり「光」の象徴である「白」と対に位置してきた。そのためこの二つの色は、常に相反する意味を持ったものとして、時代をともに歩んできたのである。


 古代、「黒」という色は「死」に直結する色であった。


 それは明かりがなかった時代、辺りが闇に包まれれば何が近くにいるか分からない。時には動物に襲われ、時には前の道が見えず足を滑らせ崖から落ちたり、森では道に彷徨って二度と出て来れなくなったということもあった。そのため、闇というのは「死」を呼び寄せるものというイメージが根付き、人々は「闇」を、そしてその色である「黒」を恐れた。


 一方で、古代エジプトでは「生命」や「再生」の色として黒を認識しており、死者を導くアヌビスという神は黒で表している。また黒の強さを逆手にとり、魔除けとして使っていたこともあるようである。また、ときに敵に追われて逃げ込んだ洞窟が暗く「黒」だったことから、その懐に飛び込んだ者を庇護する力もあると考えられていたようである。


 またキリスト教では、「黒」を罪を悔い改め再生する色として、修道士たちが身に纏っていた。そのため、絵画の中でも修道士たちは黒い服を着ている。


 しかし文化や宗教が違えば、黒も白と同じような特性を持っていることもあった。白は「何色にも染まらない」が、黒は「何色にも染められない」ことから、仏教のなかでは「仏教に帰依した揺るがない証」として、信仰の深さの色と位置づけられているのだ。


 だが「白」の項目でも述べたように、特に西洋では黒にまつわる話の多くは不吉なものが多い。悪魔や魔女の色で、その魔女が使う力が黒魔術といった。ゴヤ作の「魔女の夜宴(魔女の集会)」でも、中央に居る悪魔の化身とされる牡山羊が黒で描かれている。


 ここに集まっている女性達は皆魔女であるが、手には赤子を抱えている。これは牡山羊の姿をした悪魔に捧げる生贄なのだ。しかし女が手にしている子供は痩せ細り、衰弱している。また、左側に描かれているものを見れば、その子がこの先どうなるのか分かるだろう。そのえげつなさを強調するかのように、空は闇に覆われ、闇にかすれた月がぼんやり浮かんでいる。


 このように黒は不吉な色として語られてきたのだ。

 しかし一方で、あることをきっかけで人々は黒い服を身にまとうようになる。


【絵画】

*「魔女の夜宴(魔女の集会)」(1797-98年) ゴヤ

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