第26話 無原罪の御宿り-2

 しかしベラスケスが描いた「無原罪の御宿り」見てみると、エル・グレコが描いているものよりも、中にきている赤い服の色がはっきりとした赤ではなくなっている。そして次に描かれるスルバランの作品は、柔らかい色の赤系統となり、ついに1661年に描かれたスルバランの『無原罪の御宿り』で、マリアの服は白へと変化する。


 ここで少し、スルバランについて説明しておく。


 彼は修道会の命ずるままに描く職人気質の画家だったようで、「修道士たちの画家」とあだ名をつけられるほど、真面目にその要望に答えていたようである。そこで私が思ったことは、彼が修道会が思っているような絵を描こうとするならば、独断の判断で聖母マリアに白い服を着せないのではないだろうか、ということである。


 15世紀ころまでは、聖母マリアの服の色はまだしっかりとは確立されていなかったように感じるが、それ以降は彼女の衣装は赤い服に青いマントというのが基本的なスタイルでそれを曲げようとはしないだろう。しかし、ここで彼女がきている服が白になっているということは、修道会の要望自体がマリアの服を「白」にして欲しいというものだったのではないだろうか。


 後のスペインの画家、フランシスコ・パチェコ著作「絵画術」の中で、「無原罪の御宿り」を描く際の図像表現を書き記しており、その中で「聖母は12、3歳の少女で、白い着物の上に青いマントを着け、手を胸にあてて祈っている。月は下向きの三日月とする」と記されていたようである。


 このなかで下弦の月を用いるのは、どうやら古くから「純粋」を表す古くからの象徴のようで、マリアにその純粋さや、清らかさを出させたいということからその図像表現が固定されたように感じる。そしてそのときに「白い着物」をマリアがいつも着ている「赤い着物」に変えなかったのは、やはり「白」という色が「純粋」「無垢」「清らか」というものをイメージさせるものだったから、といえるのではないだろうか。

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