第22話 フェルメール・ブルー

 西洋絵画の中で最も青を上手く使った人物はヨハネス・フェルメールだろう。彼はラピスラズリを原料とするウルトラマリンブルーを多用したことで有名であるが、ラピスラズリは大変高価な鉱石であるため、借金を抱えていたと言われている。


 しかし借金をしてまでも、フェルメールが追い求めた青は大変美しく、他の鉱石からは手に入れることのできない青だった。


 そのウルトラマリンブルーをふんだんに使った作品として、「青衣の女」と「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの娘)」がある。


「青衣の女」は、フェルメールの妻であるカタリーナをモデルにしたといわれ、その女性が部屋に光が差し込んでいる方向を向き、手紙を読んでいる。その女性の後ろには世界地図が掛けられ、椅子とテーブルが置かれているというシンプルな構造をしている。また構造だけではなく、色の配色も青系統に茶系の色、白というシンプルなものだ。しかしこの簡素さがウルトラマリンブルーを引き立たせている。そして、この青い色が、手紙を読んでいる静かな雰囲気を醸し出しており、見ている者にも静かな時間を感じさせる。


「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの娘)」は「北欧のモナリザ」と言われるほどの傑作である。ただ、この少女が誰なのかということが分からず、「フェルメールの娘のひとりをモデルにした」といわれたり、「フェルメールの理想とした人物を描いた」とも言われている。


 そしてこの作品は現代では大変人気のある作品のひとつであるが、1882年のオークションで出された際は1ポンド以下で売却されたという。フェルメールが借金をしてまでラピスラズリを購入し、その美しいウルトラマリンを引き出した作品であるにも関わらず、なんともひどい価値のつけようだ。


 実はラピスラズリからウルトラマリンという色を引き出すのは、大変難しいのだという。


 現代では絵を描くとき、必ずどこかのお店に行って色ができている絵の具や色鉛筆を買うだろう。相当の拘りのある人、もしくは画家でなければ自分で作ったりはしないだろう。


 しかし、当時は画家自身が原料を手に入れ、絵の具を作り調合したりしていた。もちろん、画材屋はあったと思うが、そのお店においてある絵の具(油絵の具)が良質なものとは限らなかったのである。 


 そもそもラピスラズリで作られた絵の具が画材屋に売っていたかも分からないし、きちんとした手法を知っていなければ美しい青は透明感を失い、白っぽい青になってしまう。そのため、この美しい青い色をラピスラズリから取り出すことができたフェルメールはよほど神経を研ぎ澄ませて色を作っていたと思われる。


 そして、その青い色をしっかりと印象に残すように背景は余計な色は出さず黒一色で染め上げ、襟元の真っ白い一筋の線が黄色と青だけのなかにしっかりとした位置づけができたことで、青により一層目がいく。


 当時はあまり価値が出なかった作品かもしれないが、世界中で「青」が好まれている今は、特に多くの人に愛されている作品ではないだろうか。


 それでは次に「白」について見てみよう。


【絵画】

*「青衣の女」(1662~65年頃) フェルメール


*「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの娘)」(1665~66年頃)フェルメール

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