Blue 青

第20話 青

 色の研究をしている人の中に、「世界で一番好まれる色」を調べている人たちがいる。調べている人は一人ではないので、それらのデータを見比べてみると、「青」は「好きな色」の上位3位までの間に必ず入っており、世界中で愛されている色なのが分かる。


 また「青」という色は心を落ち着かせる効果があることが、現代の色彩心理学で分かっている。それだけではない。子供の勉強部屋を青系統にすることで集中力が上がることや、中々寝付きにくい人が寝室を青系統にすると熟睡できるという結果が出ている。


 さらに、青色は犯罪抑制にも効果がある。

 とある犯罪の多い町で、街灯を青い色にしたことにより、犯罪が激減したという研究結果もある。理由は青い色が犯罪を犯す気持ちを抑制することや、はっきりと辺りを照らすことから、「誰かにみられているかもしれない」という感覚を人に持たせるからだ。それが、犯罪防止にも役立てられている。


 現代このようによい効果をもたらし、多くの人々に好まれている「青」だが、はじめ全く認識されない色であった。


 青という色は地球上に沢山あるようで、実は意外と手に入らない。空の青は「散乱」によるもので、海の青は「構造色」によって青く見えている。そのため私達は近くにある空気は透明で、青色どころか見ることすらできないし、海の水を手で掬ってもそれは青い色ではない。


 つまり、私達が色を手に入れるには「色素」という形で物質に付着しているそれを手にしなければいけないのである。


 しかし、古代の人々が青い色を手にするのことは、大変難しいことだった。


「そんなことはないだろう」と言う人もいるかもしれない。「大昔から日本人は「藍色」を使ってきた。あれは立派な『青』だ」と。


 確かに、日本やアジアには「藍」がある。そのため、「青」ではなかったかもしれないが「藍」という色は身近にあった。


 それは日本に、中国やインドから入ってきた「藍」によって、青系統の色を手にすることができたからである。藍は原産が中国南部、またはインドシナ半島とされており、日本は中国を経て飛鳥時代に伝わったため庶民が着る服として広まっていた。


 しかし、ヨーロッパに藍色が入ってくるのは、インドとの貿易が進んでからのことであり、それまでは「青」はもちろん「藍」すらも簡単には手に入らなかった。


 ちなみにエジプトの壁画では、青い色が使われているのを見ることができるが、それはエジプトに青い色をした砂があったためである。それはのちに「エジプトブルー」と呼ばれるようになる。


 そもそも古代ローマの時代、青い色を手にしていたのは蛮族であった。彼らは敵を威嚇するために全身に藍色の染料を塗っていたため、よい印象がもたれなかったという。そのため古代ローマでは青を認識しようという意識がなかった。つまり「青」という色は見えてはいても、認識自体は随分後であったとも言われている。


 しかし、冴えなかった青い色は、のちに王家の象徴の色として「ロイヤルブルー」と言われるようになったり、幸せを運ぶ「青い鳥」や平和の象徴としても使われるようになっていく。


 認識すらされなかった色は、どのようにして価値をあげていったのだろうか。



【補足】

*散乱について

 波動や高速度で走る粒子線などが物質にあたって、その運動方向を変えて各方面に散ること。(精選版 日本国語大辞典より)

 要約すると、空気中に含まれる気体の粒が反射されることによって青く見える。


*構造色について

 白色光による干渉において、強めに合う位置が波長によって異なるために干渉縞に生じる色。物質表面の微細構造により発現される色ということで、構造色ともいわれる。(旺文社 物理事典より)

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