第19話 二分された緑のイメージ  ~醜い色 編~

 しかし緑のイメージであった「愛と青春」は、次第に「醜い」ものになっていく。それは緑色の葉が、季節が経るにつれて色が変わっていくことから、次のような連想ができたからのようだ。


 葉の色が変わる→恋も移ろいやすい→いつまでも安定しない→賭け事→負ける→やつれた顔になる→血色が悪い(緑色の顔)


 こういうような具合である。物語などでで醜い人物が出てくると、その肌の色が緑色だったりするだろう。それは上記のようなことを含んでいる可能性がある。


 しかし私が見てきた絵画の中では、醜いものが出てくるものはなかったため紹介できない。その代わり、賭け事に関しては少し緑色が含まれて描かれている作品があったので取り上げようと思う。それは、カラヴァッチョ作の「トランプ詐欺師」である。


 作品の中には三人の人物が描かれているが、この中で羽のついた緑色の帽子を被り、黄色の縞模様の服(ベストだろうか)を着ている手前の若い青年がいる。実は彼は詐欺師だ。詐欺師は目の前に座る、黒い服を着ている青年に対していかさまを行おうとしており、この絵はまさにその瞬間を描いている。そして、この詐欺師の青年の袖口と帽子の色に注目して欲しいのだが、緑色だ。


 だが、それだけではカラヴァッジョが「緑」に対して「賭け事」のイメージを連想して使っていたとはいえない。それでも、カラヴァッジョがここに使う色に対して、何らかの拘りがあったのではないかと思われるものがここにはある。


 それは、詐欺師の青年が着ているベストと、黒い服を着た青年の後ろに控えている男の袖口が、黄色をベースにしたと黒の縞模様があるところに注目したい。


 縞模様というのは、ヨーロッパ文化の中で嫌われており、特に黄色と黒の縞模様の組み合わせは差別的に使われていた。それは私達の生活の中で踏み切りの色として使われるほど、目立つため、差別化された人々を一目見て見分けられるように着せていたといわれている。


 このことを踏まえて、「トランプ詐欺師」を見てみる。すると、いかさまをしようとしている青年に加え、黒い服を着た青年の後ろに控え、いかさまをしようとしている青年がそれをしやすいように、黒い服を着た青年の気を引いている。


 つまり、この二人は詐欺の仲間。そしてこの黄色と黒の縞模様が、黒い服を着た青年とは全く別の存在であることを強調している。詐欺師の青年の服に視線を戻すと、袖口は緑色。少し前に「緑」は「賭け事」を連想させるといったが、まさにそれを示している。


 色に込められた意味から絵画を紐解いてみると、描かれた時代背景が分からなくても、絵に込められたものが分かってくるような気がしないだろうか。


 さて、次は「青」である。


【絵画】

*「トランプ詐欺師」1598年 カラヴァッジョ


【画家】

*カラヴァッジョ(1573~1610年)

 16世紀に活躍したイタリア出身でバロック主義の画家。まるで本当にあった場面を見て描いたかのような写実的な描きかたをし、さらに明暗をはっきり分けることによって描いている場面をより劇的に表現している。しかしその強烈すぎた表現の仕方に品位がないと非難されることも多々あったという。そして彼は人生の中で様々な事件を起こし、投獄されたりもしている狂気的な人物だったようである。

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