第11話 中世ヨーロッパ-2
14世紀イタリアで活躍した画家に、ジョットという画家がいる。
彼はゴシック派の画家なのだが、その作品の中にキリストを裏切るユダを、黄色い衣服で表した「ユダの裏切り」というものがある。
この絵は、新約聖書に書かれている「ユダの裏切り」の記述を元に描かれたものだ。
内容は日々ユダヤの民に影響を与えているイエスを、ユダが逮捕しようと考える所から始まる。それを実行するにあたり、ユダは銀貨30枚を条件に司祭と密約を交わす。そして、ゲッセマネ(オリーブの麓)というところで祈りを終えたイエスと対面し、挨拶の接吻を交わすというものである。
だが、この接吻がユダと司祭との間で決められた合図で、それを見た周囲の者たちが中央にいるイエスに刃物や槍、松明を向ける。そのユダが裏切った瞬間を、ジョットは描いているのだ。
ここで、よく見てほしいのが中央にいるイエスとユダである。新約聖書の内容が示すように、接吻をしているのがユダである。そして彼が着ている服の色はどうだろう。それは先程述べたように、黄色で描いていることが分かる。
そしてさらに注目したいのが、イエスの背後にある後光だ。これは光沢のある「金色」で塗られている。つまりジョットは、「金色」と「黄色」をはっきりと区別して色を使っていた、ということがここから分かる。
そして背景を暗い青で染め上げた絵の中で、イエスの後光とユダが着ている黄色の服が浮き出て見える。まるで、この二つを浮き立たせることで、違いをはっきり見せ付けているようだ。
実は同じ主題で、ジョットと同じように、ユダが着ている服を黄色で描いている画家がいる。
それが17世紀に活躍した、バロック主義のヴァン・ダイクの作品である。
この作品のタイトルは「キリストの逮捕」といい、描かれている内容は先程のジョットと同じものである。
ただ、中世を過ぎると絵画の中で明るい黄色は、光沢のある「金色」や「光」を表すようになっていくため、彼の作品の中で着ているユダの服は、少し暗い印象で汚らしさがある黄色で描かれている。
14世紀から300年を経た後も、このようにユダを黄色で描くというところから黄色に対する差別意識を感じる。それでも中世から20世紀の中で黄色は、宗教画や風景画などの中でよく「黄金」や「光」を表すのに使うようになるが、肖像画や実際にある場面を描いたようなところでは、黄色の服を着ているのは子供や大道芸人、酒飲み、娼婦、ユダヤ人が多いと感じる。
全てに当てはまるわけではないが、そういった傾向があるように思われる。
【絵画】
*「ユダの裏切り」1304~1306年 ジョット
*「キリスト捕縛」1621年頃 ヴァン・ダイク
【画家】
*ジョット
14世紀に活躍したイタリア人の画家。後のルネサンス時代で活躍する画家に、影響を与えたと言われている。
*ヴァン・ダイク
フランドル出身で、1599年に裕福な商人の息子として生まれる。17世紀に活躍したバロック主義の画家で、イギリスをはじめ西欧各国の肖像画に多大な影響を与えた。英国のチャールズ1世の宮廷画家になったこともある。
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