第7話 聖母マリアが纏う色-2

 聖母マリアの纏うマントの色を赤にしている絵画には、ヤン・ファン・アイクが描いた「宰相ニコラ・ロランの聖母子(オータンの聖母子)」と「ヴァン・デル・パーレの聖母子」がある。


「宰相ニコラ・ロラン聖母子」に描かれている聖母マリアは、幼いイエスを抱いて穏やかな表情でいる。このときの彼女は、天使に神の意志を告げられ、その事実を受け入れようとしているところだ。


 この絵をぱっとみた瞬間に、私たちの目に何が最初に入るだろうか。もしかしたら遠くに見える白っぽい風景かもしれない。しかし人物であれば、赤い服を着たマリアを見てしまう人がほとんどではないだろうか。


 同じくヤン・ファン・アイクが描いた「ヴァン・デル・パーレの聖母子」を見てもそうであるが、中央にマリアが座っていることに加え、赤い服が目立っている。

 もし、これが普段通りに青いマントであったならば、ここまで目立たなかったかもしれない。


 また、カルロ・クリヴェッリの「ろうそくの聖母(玉座の聖母子)」も、マリアが赤いドレスを着ている。


 この絵は、聖母マリアが豪華な椅子にイエスを抱いて座っている絵である。「ろうそくの聖母」といわれる所以は、彼女の膝の上に座っているイエスの手に、ろうそくが握られているからだ。


 彼の手にろうそくが握られている理由までは分からなかったが、ここではマリアの赤いドレス同様に「炎」を連想させる絵だからだと推察する。


 誰が書いた本であったのか忘れてしまったのだが、「聖母マリアが着る赤い衣、そして外に青いマントを纏った姿は、まるで内ではマグマが燃え、外を空の青と海で覆っている地球のようである」と書いてあった。もちろん、当時の人々は地球の内側にマグマがあることなど知らなかったと思うが、「火」というのは人間が生きる上で重要なエネルギーであり、時代を遡れば遡るほどその重要性は今よりも高かった。


 そのため、「炎」→「生きていくために必要」→「生命(生きる力)」という連想があり、このように聖母マリアは赤色の衣服をまとっていたのではないかと想像する。


 次は「黄」について話していこう。



【絵画】

*「宰相ニコラ・ロランの聖母子(オータンの聖母子)」1435年頃 ヤン・ファン・アイク


*「ヴァン・デル・パーレの聖母子」1434~36年頃 ヤン・ファン・アイク


*「ろうそくの聖母(玉座の聖母子)」1492年頃 カルロ・クリヴェッリ


【画家】

*ヤン・ファン・アイク

 1390年にネーデルランド(現在のオランダ)で生まれ、その地で活躍した画家であり、初期ネーデルランド絵画を確立した人。「神の手をもつ男」と言われたほど、傑出した技巧を持っていた。


*カルロ・クレヴェッリ(1430~1495年)

 15世紀のヴェネツィアで活躍した画家の中で、最も特異で独創的な存在の初期ルネサンス・イタリア出身の画家。


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