第5話 権力者の色-2

「皇帝の座に就くナポレオン1世」では、ナポレオンが微動だにせず、見ている者へ視線を向けて座っている。この姿は、皇帝についた彼の絶対的な勝利と権力を静かに見せつけているようだ。


 その勝利と権力を示すものとして、黄金の冠がナポレオンの頭に載っている。これは、栄光と勝利を象徴する月桂樹の葉を模して作られたものだ。さらに、彼は黄金で作られた玉座に座って右手に杖を手にし、その反対には足で支えるように、もう一本の杖を手にしている。


 右手の杖は「世界」を意味する黄金の球体で、ナポレオン・ボナパルトが王であることを象徴している。また反対側にある杖は指の形をしているが、それは「祝福」を示しているのだ。


 さて、今度は彼の纏っている赤い衣服に目を向けてみよう。


 先ほどスカーレットについて述べたが、彼の纏う赤い衣服は「権力」の象徴。毛足の長い豪華な服は、最高権力者の威厳を示している。「ラスコーの壁画」で使われている赤と比べてみると分かるが、とても鮮やかで美しく、品格があることが分かるであろう。


 また、フランソワ・ジェラール作の「戴冠式の正装の皇帝ナポレオン」も、赤い服を纏っているので、良かったら見て欲しい。


 さらに、17世紀のスペイン出身の宮廷画家、ベラスケスが描いた「教皇イノケンティウス10世」も、着ている服が赤い色だ。教皇が赤い服を身に纏うようになったことについて、徳井淑子氏が次のように書き記している。



 枢機卿すうききょうが赤い衣を身に着けるようになったのは、1294年にボニファチオ8世が就任した翌年のことである。当初は貝紫による紫に定められていたようであるが、パウロ2世(1464~1471年)の時代に公式にスカーレットに取って代わられる。

 (徳井淑子「色で読む中世ヨーロッパ」より)



 これを読む限り、「赤」が権力者の色となったのは、ナポレオンの時代よりも随分昔であることが伺える。13世紀から権力者の色となった「赤」は、ナポレオンの時代までその地位を守り続けていた。


 しかし、前述したように「赤」も当時でさえ何種類もあり、身分の低いものが身に着けるものもあった。そのためベラスケス自身も、背景に使われている赤や、教皇の纏う法衣に使用される「赤」には細心の注意を払っており、上品にそして権力者が身に着けるのに相応しいような色に仕上げている。




【絵画】

*「戴冠式の正装の皇帝ナポレオン」1805年頃 フランソワ・ジェラール


*「教皇イノケンティウス10世」1650年 ティエゴ・ベラスケス


【画家】

*フランソワ・ジェラール(1770~1837年)

 18世紀新古典主義で活躍したフランス出身の画家。

 1770年委生まれ、幼少期はローマで育つ。12歳になると、出生地であるパリに戻り絵画を学ぶ。1800年以降にナポレオン・ボナパルトの肖像画の注文を受けることになり、彼は画家としての確固たる地位を確立する。また、フランス国王のルイ18世からは男爵の地位を授かる。高い教養を身につけ、権力者との交流が深かった彼は、若い芸術家たちの協力も行ったと言われている。


*ティエゴ・ベラスケス(1599~1660年)

 17世紀に活躍した、スペイン出身のバロック主義の絵を描く宮廷画家。

 職業柄国王一家をはじめ、多くの宮廷人や知識人の肖像画を残している。

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