クマさんと、ポリンカあくしでんと
元の世界にいた頃の僕は、姫騎士物語っていうスマホゲームにどっぷりはまっていただけでなく、アニメにも結構はまっていました。
基本的には、若い頃にテレビで見ていたガルンダムのファーストや日本サンライザー系の作品が好きでして、最近の作品に関しては話題になっている作品だけを、ちょっと見て、気に入った物だけシリーズ全部を見る程度だったのですが、その中でもどっぷりはまってしまったのがけもなーフレンズっていうアニメでした。
1クールですらリアルタイムで全部視聴することは希で、後にレンタルが出てから見ればいいやと思いながら結局視聴しないまま時が過ぎていく……そんなパターンがほとんどだった僕がリアルタイムで全話を視聴し、しかも再放送までばっちり視聴しブルーレイまですべて予約して購入したほどはまったんです。
このアニメを見た後、今更のようにはまったのが、アニマルトピアっていう少し古い海外3Dアニメでした。
登場人物が全部人型ケモナー動物のこの映画、主人公の兎の女の子がおまわりさんになって奮闘するお話なんだけど、けもなーフレンズからの流れでこの映画をレンタルで見た僕はあっという間にはまってしまいました。
………そんな僕の目の前で、今
2人のケモナー人兎(ワーラビット)さんが対峙しているんです……
かたや、リットの街のミミー商会の会長ミミー
かたや、ドンタコスゥコ商会の社員のポリンカ
僕がポリンカの手伝いをしているところに、
「ちょっとお邪魔しますわ」
そう言って駆け込んだきたミミー。
「はい、なんスか?」
それを笑顔で出迎えたポリンカ。
ドンタコスゥコ商会ニアノ村支店 ―開店準備中― の店内のど真ん中で相対峙した2人。
それを見た僕の脳内で、
カーン
って、試合開始のゴングがならされたような気がしました。
2人揃ってケモナーな兎さん……
その兎さんの真横に立っているという自分というシチュエーションに思わず鼻の下が伸びそうになっている僕なんだけど……っと、駄目だ駄目だ、これはそんな雰囲気じゃない。
ちなみに……
ミミーの方が背が高くて眼鏡っ娘なんだけど、ポリンカは小柄で、しかもかなり胸がおおき……げふんげふん……ポリンカの方がアニマルトピアの主人公に似ているというか、僕の趣向にドンピシャリだったりします。
一色触発ムードで対峙している2人。
その横で場違いにそんなことを考えていた僕。
「クマさん、悪いんですけど、ちょっと席を外してもらえますか? この方と2人きりでお話がありますの」
そういって眼鏡をクイッと持ち上げるミミー。
あ……これ、やばいやつだ……
生前、こんな修羅場を何度か経験したことがあります。
「ちょっと2人で話そうか」
と相手の担当さんに別室に連れていかれるわけなのですが……こういう時って十中八九、文句を羅列されるかネチネチ苦情を言われるか、罵詈雑言を浴びせられるか……だいたいそんなパターンだったんです……
確かに僕の方に落ち度があったケースが多かったのですが、中には明らかに向こうに落ち度があるのに「いつもお前は辛気くさい顔をしていて……」って全然無関係な話題で切れて、無理矢理こっちが悪いことにしてしまう担当さんも結構いたんです……
って、そんな苦い記憶を思い出して沈んでる場合じゃありません。
「……あ、あの……お邪魔はしませんので、僕もどどど同席ささささせてくくください」
思いっきり声を裏返らせながら懇願する僕。
「……私は2人きりで話をさせてほしいと……」
「そそそそこを曲げでおおおお願いします!じじじ邪魔はししししませんので……」
さらに、どもりまくりながら必死に懇願し続ける僕。
2人きりを主張するミミー。
必死に懇願する僕。
最後はミミーが折れる格好で、僕の同席を認めてくれました。
で、3人での話会いになったのですが……
ミミーの要件は予想通り
「ドンタコスゥコ商会の缶詰売買からの撤退」
だった。
僕が同席していたもんだから言葉遣いこそ柔らかだったものの、
「……この村とは私達の方が先に契約をしていたのよ。察しなさい」
終始そんな感じの主張を続けていったミミー。
これに対しポリンカは、
「独占契約をしてなかったっスよね? なら自由競争でいいんじゃないっすか?」
そう言って一歩も引かなかった。
見た感じかなり若いポリンカなんだけど、ドンタコスゥコがこの村担当として残していっただけはあるなぁ、と、その対応を見つめながら思わず感心してしまいました。
ポリンカくらいの年齢の頃の僕なんて、ただひたすらへこへこ頭を下げながら言われるがままに営業回りをするのがやっとだったもんな……
完全に主張が平行線で、互いに一歩も引かなかったわけだけど、
「ととととにかくですね、ここここのドンタコスゥコ商会との契約はニアノ村の判断として締結させてもらったんです。これ以上はポリンカにではなくてですね、ぼぼぼ僕達ニアノ村の方に異議申し立てをしていただけたら助かるなぁ……なんて」
僕が、おもいっきり声を裏返らせながらも、繰り返しそう主張し、繰り返し頭を下げ続けた結果。
「……ニアノ村の役場の人にそこまで言われたら、これ以上言えないじゃない」
ミミーは、不服そうな表情をその顔に浮かべながらも、
「……仕方ないわね……今回はこっちが引きますわ」
そう言って、どうにかここで引き下がってくれたんです。
「……よよよよかったぁ」
ミミーが去った店内で、僕は思いっきり安堵の息を吐き出しました。
いや、もう、ほんと……僕の事をミミーが睨み付けてきた時は、この時間が永遠に続くんじゃないかって思ったりしたのですが……どどどどうにか、ミミーが引き下がってくれたことで、僕はもう、そのままその場にへたり込みそうになっていたんです。
「……クマ氏、お礼を言うっス。助かったっス」
そんな僕に、ポリンカが笑顔で話しかけてきました。
「お礼だなんて……僕なんかいなくても、ポリンカ1人でなんとか出来たんじゃないかな、あんなに堂々としてたんだし」
「……そう見えたっスか?」
そう言うと、ポリンカは僕の手を自分の胸に引っ張った。
左胸、その下にある心臓が早鐘のようにドックンドックンしているのが服の上からでもはっきりとわかりました。
僕の手を握っているポリンカの両手も、小刻みに震えまくっています。
……そうか……落ち着いて見えたけど、実はポリンカもすっごく緊張してたのか……
その事を理解した僕。
「……少しでも役にたてたのかな?」
「はいっス、すっごく……」
苦笑する僕に、笑顔を返してくれるポリンカ。
「うおっほん」
ここで、店内に咳払いが響きました。
そちらへ視線を向けると……そこにはシャルロッタの姿があったんです。
「……ミミーとポリンカが一触触発じゃとの知らせがあって、慌てて駆けつけて来たのじゃが……」
「あ、はい。クマ氏のおかげで無事に解決したっス」
シャルロッタの言葉に笑顔で答えるポリンカ。
その言葉を聞いたシャルロッタ……なんだけど、なぜだろう……なんかすごく怒った表情をしているような……
「……騒動が防止出来たのは理解したのじゃが……クマ殿のその右手はどういう意味なのじゃ? 全く理解出来ぬのじゃが?」
「「右手?」」
シャルロッタの言葉に、同時に疑問形で返答する僕とポリンカ。
で
2人して僕の右手を確認しました。
僕の右手は、ポリンカに引っ張られて、彼女の左胸の上に……
……え? おっぱい?
「うわああああああああああ!?」
「うひゃあああああああっス!?」
シャルロッタの言葉の意味を、ここでようやく理解した僕とポリンカは、互いにすっとんきょうな声をあげながら大慌てで後方に飛び退いていきました。
2人揃ってゆでだこのように真っ赤になっています。
僕もポリンカも、ミミーを引き下がらせることが出来たことで安堵しまくってたんでしょうね……
結果的に、自分のおっぱいに僕の手を引っ張ったポリンカ。
結果的に、ポリンカのおっぱいを触っていた僕。
……うん、そりゃシャルロッタに怒られても仕方ないよね……
* * *
その夜……僕は週に1度の夜の狩りを行っていた。
『クマさん、今日はちょっとブルーですね~?』
「あはは、ご、ごめんねドラコさん」
魔獣を魔法で呼び寄せているドラコさんに、僕は苦笑しながら頭をさげました。
あの後……僕はひたすら謝罪しながら頭を下げ続けました。
元の世界でも、会社でヘマをした時にもよくこうやって謝罪することが多かったのですが……
『お前、誤ったら許されると思ってないか? 誠意がこもってないんだって』
なんて言って怒鳴られたことも多かったなぁ……
ポリンカも一緒になって事情説明と謝罪をしてくれたおかげで
「……ま、まぁ、事情はわかったのじゃ」
シャルロッタもどうにか引き下がってくれたんだけど……うん、あれは我ながら大失態だったというか……
『まぁまぁ~、シャルロッタさんも許してくださったんですし~、今は狩りに集中しましょう~』
「そ、そうだね」
ドラコさんの言葉を受けて、僕はバスターソードを改めて構えていった。
『……ところでクマさん~』
「な、何?ドラコさん?」
『うふふ~……私のおっぱいも揉んでおきますか~?』
「は?」
楽しそうに、そう告げてきたドラコさん。
その言葉に、僕は目を丸くして固まってしまいました。
場を和まそうとしてくれたんだと思いますけど、今日はもう勘弁してください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます