クマさんと、ポリンカスマイリング
この夜は、シャルロッタのおかげですごくいい夢を見ることが出来ました。
うさ耳バニー姿のシャルロッタに囲まれている夢なんて……思い出しただけでもう……
微妙に前屈姿勢になりながら食堂へ移動していった僕。
「クマ殿、どうかしたのかの?」
あまりに不自然だったのか、シャルロッタにまで心配されてしまい、ごまかすのが大変でした。
* * *
この日のお昼に、ドンタコスゥコ商会へ最初の荷物を引き渡しました。
ピリがすごく頑張ってくれたおかげで、かなり多くの缶詰を買い取ってもらうことが出来たんです。
それを持ってドンタコスゥコは一度、彼女達の本店がある辺境都市ナカンコンベへ戻ることになりました。
その出発前、
「ちょっとお邪魔しますねぇ」
ニアノ村の役場を兼ねているシャルロッタの邸宅にドンタコスゥコがやってきました。
僕は、ちょうど裏庭でミリュウとアジョイと一緒に遊んでいたところだったのですが、
「クマ、ドンタコスゥコ来たよ!」
ドンタコスゥコの来訪に最初に気が付いたアジョイが駆けていきました。
アジョイは、ドンタコスゥコが持って来てくれた薬のおかげで足の大怪我が早く治ったもんですから、ドンタコスゥコの事をすごく気に入っていまして、その姿を見るなり、
「ドンタコスゥコいらっしゃい!」
満面の笑みで抱きついていました。
「あはは、熱烈歓迎感謝感激ですねぇ」
アジョイに抱きつかれて、ドンタコスゥコも嬉しそうです。
そんなドンタコスゥコと一緒に執務室で作業をしているシャルロッタの元へと移動していきました。
シャルロッタをドンタコスゥコは、
「実はですねぇ、この村にドンタコスゥコ商会の支店を作らせてもらいたいと思っているのですが、そのご許可頂けないかと思ってお邪魔したんですねぇ」
「支店をじゃと!?」
ドンタコスゥコの言葉に、シャルロッタが目を丸くしていました。
「そ、それはニアノ村としては非常にありがたいことなのじゃが……妾達の村は人口が少ないし、ドンタコスゥコ商会にしてみればあまり旨みはないのではないかの?」
「あぁ、それでしたらご安心願いたいのですねぇ」
シャルロッタの言葉を受けて、ドンタコスゥコは説明をしてくれました。
なんでも、ドンタコスゥコがこの村に店を構えるのは、ドンタコスゥコ商会の中継点としてということらしいんです。
「こちらの村の周囲にはですねぇ、結構たくさんの街や村が点在しているんですよねぇ。そういった街や村へ移動販売に行く、その中継点となる倉庫を兼ねた店舗をこの村に作らせてほしいというわけなんですねぇ、それに、この村の皆さんにはとても仲良くしていただけましたしねぇ、そんな皆さんとのご縁も大事にさせて頂きたいのですよねぇ」
にっこり笑みを浮かべるドンタコスゥコ。
これを受けてシャルロッタも、
「ドンタコスゥコ商会にとってもメリットがあるのであれば、喜んでこのお話を受けさせてもらうのじゃ。のう、クマ殿」
満面の笑顔でそう返答していました。
「えぇ、僕もいいお話だと思います」
僕も笑顔で頷きました。
* * *
これは後でシャルロッタから教えてもらったのですが……
このニアノ村にも、昔はそれなりの数のお店があったそうなんです。
ただ、この村はちょっと森の奥にあるのと、その周囲に凶暴な魔獣がたくさん住み着いていたため、多くの村人が余所の街や村へと移住してしまい、今のよう小規模な村になってしまったそうなんです。
で、その村の人口が減っていくにつれて村内で営業していたお店もなくなっていってしまい……
「村人が必要な物を妾が聞いておいての、月に1度リットの村まで買い出しに行っておったのじゃ」
そういえば、前回山賊討伐の助っ人としてリットの街へ出向いた際に、シャルロッタがやけにあれこれ買い物をしているな、と、思ったんだけど、あれはこのためだったのか、と、今更のように納得しました。
シャルロッタは、邸宅の近くにある一件の空き家へドンタコスゥコを案内しました。
「ここはの、以前雑貨屋じゃったのじゃが店主が引っ越してしまって今は空き店舗になっておるのじゃ。よかったらここを使ってはいかがかの?」
「ほうほう、これはありがたいですねぇ……多少傷んではおりますけど、二階建てで全体的に広め、さらに裏に倉庫や荷馬車発着場、地下にも貯蔵倉庫がありますからねぇ」
ドンタコスゥコも、ここをすっかり気に入ったみたいで、部下のみんなを連れて来て、早速この建物の改装を始めていました。
この建物は、空き屋のためシャルロッタがニアノ村として管理していたそうなんです。
シャルロッタは、
「せっかくお店を構えてくれるのじゃ。無償で提供させてもらうのじゃ」
そう言ったんだけど、
「お気持ちは大変ありがたいのですがねぇ、無償はこちらからお断りさせていただきますねぇ」
ドンタコスゥコは笑顔でそう言った。
「我々に無償提供してしまうとですねぇ、他の店がこちらの村に進出したいと申し出て来た際に同じように無償で建物を提供しないといけなくなりますからねぇ」
そのため、ドンタコスゥコは、村との間に賃貸契約を結ばせてほしいと申し出てくれたんです。
シャルロッタも、ドンタコスゥコの言葉に納得し、早速ドンタコスゥコ商会と賃貸契約を結んでいました。
ドンタコスゥコ達は、この建物を1日がかりでそれなりの状態に仕上げていきました。
もちろん、僕も微力ながらお手伝いさせてもらったんです。
そして、店員の1人をここの担当として置いていくことになりました。
「ドンタコスゥコ商会ニアノ村支店の責任者に抜擢されましたポリンカっす!よろしくっす!」
小柄な女の子がシャルロッタの元へ挨拶に来たんだけど……
ポリンカって……人兎(ワーラビット)族の女の子でした。
え~、この人兎というのはですね、ケモナーさんと言えばわかりやすいでしょうか。
見た目が兎な感じで全身に兎の体毛が生えているんですよ。
これが兎人(ラビットピープル)さんだと、見た目は人間そのもので兎の耳と尻尾がついているって感じになるわけなんです。
……で
このポリンカ……マジでその容姿が破壊力半端ないんです。
元の世界で僕がすっごくはまってた兎がおまわりさんになって奮闘するアニメ映画があったんですけど……あの映画の主人公が目の前に立っているといいますか……
なんかもう、僕のケモナーの好みど真ん中といった感じといいますか……
「……クマ殿」
「あ、は、はい!?」
その時の僕がどれだけ取り乱していたかといいますと、察したシャルロッタが僕の脇腹をつねってくるくらいでしたからね……
ま、まぁ、そんなわけで……ニアノ村に新たにドンタコスゥコ商会のお店が出来て、新たな住人としてポリンカが加わることになりました。
* * *
ドンタコスゥコ達を見送った後、
「そこの人、すいませんけど、お店の開店準備を手伝ってほしいっす」
ポリンカはそう言って僕の手を引っ張りました。
「え? な、なんで僕?」
「体が大きくてよく働いてくれそうっす」
そんな感じで、連行されていった僕なのですが……ポリンカはとにかくキビキビしていて、常に元気いっぱいで、僕にあれこれ指示を出しまくりました。
「それはそっちっす」
「それはあっちっす」
休む間もなく僕に指示を与え続けて、同時に自分もあれこれ動き続けています。
結局その日の僕は、ドンタコスゥコ達を見送って以降、かなり遅い時間まで開店準備の手伝いをさせられました。
「クマ氏、非常に助かったっす。クマ氏は働き者っすね」
ポリンカの私室としてしつらえた2階の1室。
ポリンカは笑顔でそう言いながら、僕に食事を振る舞ってくれました。
……もっとも、食事といっても缶詰や保存食ばかりでポリンカが料理してくれたわけじゃないんだけどね。
缶詰はピリが作ったものじゃなくて、ドンタコスゥコ商会が扱っている物でした。
それを食べた僕は、ピリがいかにすごいのかということを改めて実感しました。
この缶詰、まずいというほどではないのですが……あんまり満足出来ないといいますか……
(あぁそうか……ピリの缶詰が美味しすぎるから満足出来ないんだ……)
そのことに思いあたった次第です。
「コンビニおもてなしの缶詰があったらよかったっスけど、生憎品切れだったっス。今日のところはこれで勘弁っす」
そう言って頭を下げたポリンカなんだけど……え? コンビニ? ……こっちの世界にもコンビニがあるの? ……機会があったら一回覗いてみたい気がしないでもないな……
その後、出された物はすべて頂いたんだけど……
(部屋に戻ったら、ピリの缶詰を食べよう)
そう、心に誓った僕でした。
「クマ氏は働き者なので大好きっす、よかったらこれからもお店を手伝ってほしいっす」
別れ際、笑顔のポリンカに、僕は、
「あ、はい……ぼぼぼ僕なんかよかったら……」
笑顔でそう返答しました。
……ただ、性癖ど真ん中なポリンカの笑顔を前にして、鼻の下が相当伸びていたのは言うまでもなく……
「じゃ、じゃあ、また明日手伝いにくるね」
そう言ってお店を後にしたのですが、だらけきっている表情を見られたくなくて思わずうつむいていた次第です。
……その直後
「……クマ殿、ずいぶん鼻の下がのびておいでのようじゃの」
店のすぐ外に、シャルロッタがいたのですが……シャルロッタは腕組みしたままジト目で僕を見つめていたんです。
「いぃ!? しゃ、シャルロッタ!?」
突然のシャルロッタの出現に、思わず飛び上がってしまった僕。
シャルロッタは、そんな僕の腕を掴むと、
「……ドンタコスゥコ商会の手伝いをしてくれるのはありがたいのじゃが……その……あ、あんまり心配させるでないというかそのごにょごにょ……」
なんか、そんな事を言ったんだけど、シャルロッタが途中から思いっきり口ごもってしまったせいで『ありがたいのじゃが』以降がほとんど聞き取れませんでした。
「え? シャルロッタ、今、なんて言った?」
「……な、なでもないのじゃ」
僕の問いかけにそう答えると、シャルロッタは僕の腕をさらに引っ張りながら、早足に移動しはじめました。
このまま、僕はシャルロッタと一緒に家に戻っていったのですが、この日のシャルロッタは終始ご機嫌斜めでした。
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