しゃ、シャルロッタさん!?

 その日の夜のことでした。


 アジョイは、すっかり仲良しになったミリュウと一緒に寝ることになりました。

 シャルロッタの邸宅の1室を間借りしているミリュウ。

 そのベッドの中で横になっているミリュウなのですが、そんなミリュウにアジョイは笑顔で抱きついていました。

 人間ではない2人ですけど、そんな2人が仲良くしている様子を見ていると、なんだか僕までほっこりしてしまいます。


「2人ともおやすみ。何かあったら僕の部屋に来るんだよ」

「うん! わかった!」

『ダーリンお休みなの!』


 僕の言葉に、笑顔を返してくれる2人。

 そんな2人に手を振りながら、僕は自分の部屋へと戻りました。


 一息ついて、ベッドに腰をおろしていたのですが、


「クマ殿、今大丈夫かの?」


 部屋のドアの向こうから、シャルロッタの声が聞こえてきました。


 ……あれ?


 そんなシャルロッタの様子に、僕はどこか違和感を感じました。

 

 いつもでしたら、ノックしないで部屋に入ってくるシャルロッタです。

 ここはシャルロッタの邸宅ですし、それはそれで仕方ないと思っていたのですが、今夜のシャルロッタは、何故かドアの向こうで立ち止まっていたんです。


「どうぞ、入っても大丈夫だよ」


 僕がそう言うと、シャルロッタはドアを開けてゆっくりと室内に入ってきました。

 いつもの甲冑姿じゃなく、裾が足元まで伸びているワンピース姿のシャルロッタなんだけど、その姿がとっても新鮮で、思わずドキッとしてしまいました。

 そんな僕の前で、少しうつむいていたシャルロッタなのですが、しばらくすると、僕へ視線を向けてきました。


「う、うむ……ひ、昼間のドンタコスゥコ商会との打ち合わせのことで少し相談をさせてもらおうと思っての……」

 そう言っているシャルロッタなんだけど……僕は彼女の顔面に釘付けになってしまいまいた。


 うつむいていたので気がつかなかったのですが、シャルロッタは黒縁の眼鏡をかけていたんです。

 しかもよく見ると……その耳元に、兎耳のようなカチューシャみたいな物まで装着しているではありませんか……


 ……こここ、これは、その……あれなのだろうか……ぼぼぼ僕が昼間

『ミミーの兎耳と眼鏡姿にちょっと惹かれちゃって……』

 とか、そんな事を言ったもんだから、それに嫉妬したシャルロッタが……って、いやいやいや、そんな馬鹿な話があるわけがない……で、ででででも、じゃあ、今のシャルロッタの姿をどう説明すればいいんだ?


 バクバクしまくっている心臓の鼓動を感じている僕。

 間違いなく、顔も真っ赤になっているはずです。

 ドギマギしてしまって、言葉を発することも出来ません。


 そんな僕の前で、シャルロッタは、


「あの条件で、ドンタコスゥコ商会とミミー商会をじゃな……」


 そんな感じで、話を進めていたのですが……気のせいでしょうか、シャルロッタの頬も赤くなっていて、どこか恥ずかしそうに体をくねらせているような気がしないでもありません。

 話をしながら、時折、上目遣いで僕へ視線を向けてくるのですが……その視線が、どこか僕の様子をうかがっているように見えなくもないわけでして……それは、あれでしょうか……僕がシャルロッタの姿を見てどんな反応をしているのか確かめているように見えなくもないのですが……


 シャルロッタの話はそんなに大したことではなかったといいますか、ドンタコスゥコ商会とミミー商会との間に取り交わした契約の再確認的な内容だったので、そんなに重要な内容ではなかった……と、思うのですが……この時の僕はといいますと、シャルロッタの兎耳眼鏡姿に完全に心を奪われてしまっていまして、話の内容をほとんど覚えていませんでした。


 ……あぁ、こんなに可愛いシャルロッタを抱きしめることが出来たら、どんなに幸せだろう……


 話があらかた終わったあたりで、そんな事を考えていた僕なのですが……それと同時に、


「それで、今後は……って……」


 シャルロッタがいきなり無言になってしまいました。

 うつむいたまま、顔をあげようともしません。

 ベッドに座っている僕の真正面に立って話をしていたシャルロッタなのですが、しばらくの間無言で向き合っている僕とシャルロッタ。


「……あ、あの……シャルロッタ?」


 おずおずと声をかけると、シャルロッタはビクッと体を震えさせたのですが……次の瞬間。


 ギュ


 シャルロッタが、僕に抱きついてきたんです。


「……え?」


 いきなりの出来事に、呆気にとられてしまう僕。

 そんな僕の胸に飛び込んできたシャルロッタは、僕を抱きしめ続けています。

 顔を僕の胸に埋めているため、表情まではわからないのですが……その耳が真っ赤になっているのは確認出来ました。

 シャルロッタ自身の体もすごく熱くなっているのが伝わってきます。


 しばらくの間、部屋の中で抱き合っていた僕とシャルロッタ。


 抱きついて来た時と同様に、いきなり僕から離れたシャルロッタ。


「あ、あの……こ、これで少しは幸せな気持ちになってもらえたかの?」

「え?」


 シャルロッタの言葉に、目を丸くしてしまう僕。


 ……あの、ひょ、ひょっとして僕ってば、さっきの、

『あぁ、こんなに可愛いシャルロッタを抱きしめることが出来たら、どんなに幸せだろう』

 って思っていたのを、口に出してしまっていたのでしょうか……


 ピリの時といい、どうしてこう僕ってば迂闊というか、なんというか……


 そんな事を考えている僕の前で、


「あの……どうじゃった?」


 無言のままの僕を前にして、不安そうな声で再度聞いてくるシャルロッタ。

 そんな彼女の前で、僕はベッドからすっくと立ち上がり、その場でビシッと気をつけをしました。


「ははは、はいぃ! すっごく幸せな気持ちになれましたぁ!」


 思わず、大きな声を出してしまった僕だったのですが……そんな僕の様子を見つめていたシャルロッタは、


「……よかったのじゃ……そう言ってもらえて、妾もすごく嬉しいのじゃ」


 両手で顔を押さえながらそう言うと、逃げるようにして部屋を後にしていきました。


 でも……指の隙間から見えたシャルロッタの顔は、真っ赤になっていたのですが、それ以上にすごく嬉しそうな笑顔になっていたんです。


 ……やっぱり……思った事をきちんと言葉にして伝えると、喜んでもらえるんだな……


 そんな事を考えながら、シャルロッタの感触を思い出していた僕……なのですが……シャルロッタの胸の感触を思い出しているうちに、下半身の一部がすっごく元気になってしまって、しばらくの間、寝付けなかったのはある意味仕方がなかったと思うんです……

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