クマさんと、ドラコセンチメンタル
気が付いたら、東の空が白み始めていました。
あまり意識してなかったんだけど、この世界も東からお日様が昇ってくるんだなぁ、と、妙なことに感心していた僕。
そんな僕の後方には、すごい数の魔獣の死骸が山積みになっていました。
これ、全部僕が一晩で狩った魔獣なんです。
ドラコさんがせっせと集めてくれて、それを僕が狩りまくったわけですが、その魔獣の内訳は、
7割が流血狼
2割がその他の大型の魔獣
残り1割が小型の魔獣
そんな感じになっていました。
『この一帯は流血狼の群生地になっているみたいですね~、まさかこんなに集まってくるとは思いませんでした~』
魔獣の死骸を山の上を見つめながら、ドラコさんは感心しきりといった具合の声をあげていました。
ドラコさんが言うように、僕もまさかこんなに流血狼が集まってくるとは思っていませんでした。
神の耳魔法を広範囲に展開してみてわかったのですが、この一帯にはまだまだかなりの数の流血狼の群れが棲息しているみたいなんです。
きっちり、ニアノ村の周囲だけは避けているもんですから、なんだか少し笑えてしまいました。
この分だと、ドラコさんの魔法で流血狼達をここに呼び寄せて狩りまくったとしても、2,3年はどうにかなるんじゃないかなって思えるといいますか、それぐらい大量の群れが、あちこちに点在していたんです。
しかもそれはあくまでも今の状況だけで判断した場合です。
流血狼の群れなんだし、繁殖もするだろうからその数は時間が経てばさらに増えるわけですし……この分だと、結構な期間、流血狼には困らないんじゃないかなって思えます。
「うん……これはいい感じだね」
僕はそう言いながらドラコさんを見上げました。
『はい~、当分なんとかなりそうですね~クマさんのお役に立てて私もうれしいです~』
そんな僕に、ドラコさんは嬉しそうな声でそう言いました。
声といっても、僕の脳内に魔法で直接話しかけていますので、周囲には聞こえていないそうなんですけどね。
……ただ……なんだろう、気のせいか、ドラコさんの声に、どこか寂しそうな雰囲気が漂っていたような気が……
「……ドラコさん?」
僕がその顔を見上げていると、ドラコさんは無言のまま僕を見つめ返してきました。
『私~……なんでドラゴンなんでしょうね~……』
「え?」
『だって~……せめてミリュウさんのようなラミアでしたら~、サイズが同じくらいなので~クマさんに抱きつくことも出来るじゃないですか~……人種族でしたら、ピリさんみたいにお料理を作ってあげることが出来ますし~、シャルロッタさんみたいに可愛かったら~、もっとクマさんに喜んでもらえたと思うんですよ~……』
そう言うと、ドラコさんは一度大きく息を吐き、
『私……どうしてドラゴンなんでしょうね~……』
再びそう言いながら、その首を軽く横に倒していった。
あぁ……そうなのか……
前にも感じたドラコさんが寂しそうだった理由って、そういうことだったのか……
ずっと一人ぼっちで、山の中で暮らしていたドラコさん。
ドラゴンだけに、誰ともまともに話をしてもらえなくて、ずっとずっとひとりぼっちだったドラコさん。
そんな時に、偶然魔法で話が出来る僕と出会って、友達になれた。
ドラコさんは、そのことが嬉しくて仕方なかったんだ。
だからなんだろう……もっと僕と仲良くなりたい……僕の周りにいる他の女性達と同じように僕と接したい……そう思ってくれているのかもしれない……
……我ながらちょっとこれは自意識過剰も甚だしいと思ってしまったわけなんだけど……
そんな事を考えていると、ドラコさんは大きな首を左右に振りました。
『あはは~、ごめんなさい。変なこといっちゃいましたね私~。さ、夜が明ける前にこの魔獣を村の近くまで運んじゃいましょう~』
そう言うと、ドラコさんは魔獣の山に向かって右手を一振りしました。
すると、森の中から蔦が伸びてきて魔獣を縛り上げていきます。
あっという間に縛り上げられた巨大な魔獣の塊を、ドラコさんはひょいといった感じで軽々と持ち上げました。
その光景を見つめていた僕は、
「よいしょ、っと!」
かけ声とともにジャンプすると、ドラコさんの肩のあたりへと着地しました。
『クマさん? 大丈夫ですよ~、魔獣は私が運びますから~、クマさんは先に村に戻っていてくださいな~』
首ごと横を向いてしまうと首が僕に当たってしまうと思ったのか、ドラコさんは左の瞳だけで僕を見つめています。
僕は、そんなドラコさんの瞳を見つめながら……
う~ん……いいのかな……僕みたいなおじさんがこんなことしちゃって……
そんな事を考えながらも、最終的には決心した僕は……そっとドラコさんの横顔に抱きついていきました。
『く、くまさんんんんんんん!? はわわわわわわわわわわわわ!?』
その途端に、ドラコさんはパニクったような声をあげていきました。
僕は、そんなドラコさんの顔に抱きついたまま、その頬のあたりを軽く撫でていきました。
「ドラコさん……あの、僕って恋愛経験もほとんどなくて、そのせいもあってうまく言えないんだけどさ……君は僕の大事な友達だよ。それは間違いないからさ……確かに、ミリュウやピリやシャルロッタと同じような事は出来ないかもしれないけど……こんなことで良ければいつでもしてあげるから……って、あはは、ごめん、むしろ迷惑だよね、相手がこんなおじさんじゃ、さ……あは、あはは……」
気の利いた言葉を口にしていたつもりだったんだけど……駄目だなぁ……僕ってばこういう時に、女の子に気の利いた言葉をかけたことなんて一度もないもんだから、結局、最後は言葉を発している自分まで恥ずかしくなってきちゃって、思いっきり笑ってごまかそうとしちゃったわけなんだけど……
そんな僕に、ドラコさんは自らの頬をそっと寄せてきました。
『クマさん……本当にありがとうございます~……』
そう言うと、ドラコさんはゆっくり目を閉じました。
僕とドラコさんは、昇り始めた朝日に照らされながら、しばらくそのままの姿勢でいたんです。
◇◇
「な、なんじゃこれは!?」
朝になり、僕に呼ばれて村の外へとやってきたシャルロッタは、思いっきり目を見開いていた。
そんなシャルロッタの前には、僕とドラコさんが一晩かけて狩りまくった魔獣が置かれていました。
「こ、これをクマ殿が?……たった一人で?……しかも、一晩で?」
「うん、まぁそう言うことになるかな」
シャルロッタの言葉に、僕は苦笑しながらこたえました。
ドラコさんのことは内緒なわけだし、しかもここにはリットの街のミミーもいるしね。
なので、ドラコさんには申し訳ないけど、ここは僕が頑張ったってことにさせてもらった次第なんです。
シャルロッタの後方で、この魔獣の山を見上げていたミミーも
「すごい……これだけ狩れるのであれば、私達もたくさん仕入れることが出来そうですね……街に戻ったら早速販売戦略を見直さないと」
そう言いながら、あれこれ考えを巡らせているようでした。
ピリにいたっては、
「クマ様任せて下さいな! このピリがこの魔獣達をみんな美味しく調理しちゃいますからね!」
そう言いながら、今にも魔獣の山に飛びかかっていきそうな勢いでした。
……ちなみに、ミリュウはまだ寝ています。
ラミアは蛇なわけで、は虫類なわけです。
変温動物なので、寝起きはなかなか体温があがらないもんだから、いつもなかなか目覚めないんですよね。
僕が持ち帰った魔獣の山を前にして、みんなが歓声をあげていました。
「じゃ、早速村の中に持っていくね」
僕はそう言うと、巨大な魔獣の山を持ち上げました。
ドラゴンのドラコさんが両手で抱えてちょうどいいくらいの大きさの魔獣の束を、僕が軽々と持ち上げたもんだから、ミミーは思いっきり目を丸くしていました。
「ちょ!? その力って……いや、ホントにクマ様って、すごい……凄すぎます……」
目を丸くし続けているミミーや、
「ふふん、どうじゃ? クマ殿のすごさを思い知ったであろう?」
ドヤ顔で、僕を見つめているシャルロッタ達を引き連れながら、僕は村の中へと入っていきました。
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