クマさんと、シャルロッタの
今回狩ってきた魔獣なんだけど……ちょっと問題が起きたんですよね。
というのも……僕の狩ってきた量があまりにも多すぎて、さすがのピリでもすぐには調理出来そうにないらしいんです。
この流血狼は体内に毒素をもった部位があるそうで、
「誰でもこいつをさばけるわけじゃないのよ……さしあたってこの村でその作業をこなせるのは、アタシしかいないのよね……」
ピリは、そう言いながら苦笑していました。
冷暗所に保管出来ればいいのですが、それに適した場所とこの村の中にはピリの食堂の地下と、シャルロッタの邸宅の地下くらいしかないんだけど、その両方を会わせても保管出来る量はしれていて、今回狩ってきた魔獣の肉の10分の1くらいしか無理みたいで……
「このままここに野ざらしにしておいたらデパ菌の温床になりかねないのじゃ」
「デパ菌?」
「うむ、魔獣の腐った肉の中で繁殖するやっかいな菌なのじゃ。この菌が体内に入ると喉元に赤い斑点が出て高熱を発症してしまうのじゃ……最悪、そのまま死んでしまいかねぬ……」
シャルロッタの言葉を聞いた僕は、思わず目を丸くしてしまいました。
しまったな……最初にどれくらい保存出来るのか確認してから狩ってくるべきだった……かといって、もう肉はここにあるわけだし……今更どうしようもないというか……
「……せっかくクマ殿が狩ってきてくれた肉じゃが……処理出来ぬ肉は焼却処分するしか……」
シャルロッタが苦渋の表情でそう言っています。
確かにもったいないけど、他には手がみつからないし……
『ダーリンおはよ~』
そんな事を考えていると、そこにミリュウがやってきました。
すでに結構日が高くなっているものの、起きたばかりらしいミリュウは大あくびをしながら僕に抱きついてきます。
普通なら寝坊で怒らなきゃいけないのかもしれないのですが、ラミアのミリュウは変温動物のため朝が異常に弱いんです。
だから、あまりあれこれは言えません。
そんなミリュウは、僕が眼前の肉をの山を見つめているのに気が付くと、
『うわぁ、これ、ダーリンが狩って来たの!? すごいすごい!』
歓喜の声をあげたんだけど……いきなりクンクンと僕の体を匂い始めて、
『……ねぇダーリン……なんだか蜥蜴か蛇っぽい匂いがダーリンの体から漂ってくるのはどういうことなの?』
いきなりジト目でそんな事を言い出しました。
ギク
こ、これは間違いない……ちょっと前に、ドラコの顔を抱きしめていた時についた匂いのことに違いない……
僕は内心慌てふためきながらもどうにか平静を装っていました。
そして、改めてミリュウへと視線を向けると、
「い、い、い、いや、ほら、あの……蛇の魔獣がいたんだけどさ……い、い、い、いやぁ、あいつに巻き付かれてちょっと大変だったんだよ」
僕はそう言いながら、魔獣の山の中から伸びている蛇の魔獣の尻尾を指さしました。
あ、危なかった……偶然あそこにあの蛇の尻尾が見えなかったら、咄嗟に言い訳が出来たかどうか……
その尻尾のおかげでミリュウも
『なんだそうなの~。てっきりダーリンが深夜の狩りにかこつけて他の女と逢瀬してたのかと思っちゃったの』
そう言いながら笑顔で納得してくれたんですけど……なんというか、女の直感ってすごいですね……
『で、ダーリン、みんなして何、魔獣の前で突っ立ってるの?』
「あぁ、実はたくさん狩り過ぎちゃってさ……調理が間に合わないから、これはもう処分するしかないかなぁって話をしてたんだよ……」
僕がそう説明をすると、ミリュウは、
『ダーリン、要はこの肉が腐らなければいいの?』
そう言いながら、魔獣の肉の山の方へ向かって進んでいます。
「あぁ、そりゃそうなんだけど……」
『わかったの。ここはミリュウにお任せなの!』
ミリュウはそう言うと、一度大きく息を吸い込み……そして魔獣に向かって激しく息を吹きかけていきました。
その息は、すさまじい冷気をまとっていたのです。
周囲の水分を氷化させながらミリュウの吐いた息は魔獣の肉を覆っていき、あっという間にその肉全てを氷漬けにしてしまいました。
『これなら、このままにしておいても1週間は大丈夫なの』
ミリュウは腰に両手を当てながらドヤ顔をしています。
た、確かにこれはすごいや……
肉の表面は全て白くなっていて、完璧に凍っているのがわかります。
これならミリュウの言うように、この場にこのままにしておいても1週間くらい楽に持つでしょう。
凍っているから、腐る心配もないし異臭の心配もない。例のデパ菌のことも心配しなくてもすむわけだ。
「……ミリュウ、すごいのじゃ」
「えぇ……ホントに……」
完全に凍りづけになっている魔獣の山を見つめながら、シャルロッタとピリはあんぐりと口をあけていました。
その横では、ミミーも目を丸くしていて、
「く、クマさん……あなたそのラミアを使い魔にしているのですか?」
僕とミリュウ、そして肉の山を交互に見つめ続けています。
そんな中、ミリュウは僕の側へと近寄ってくると、
『ダーリン、ミリュウ、ダーリンのお役にたったの?』
そう言いながら、自らの顔を僕の顔の横へ近づけてきました。
そんなミリュウに僕は、
「うん……すごく役にたったよ。ありがとうミリュウ」
笑顔でそう言いました。
『きゃあ! ダーリンに褒められたの!』
ミリュウはそう言うと、僕に抱きついてきて、
『じゃあ、ご褒美もらうの』
「え!?」
唖然としている僕に向かって、真正面から顔を寄せて来て……って、え? これ、キスされちゃう流れ!?
「ちょっとまつのじゃ!!」
僕とマジでキスする5ミリ手前まで迫っていたミリュウの髪の毛を、駆け寄ってきたシャルロッタが強引に引っ張りました。
『むぎゅう!?』
そのせいで、目を閉じてキス顔をしていたミリュウの顔が、真後ろに激しくひっぱられていきました。
「大方、肉を凍らせたご褒美をねだっておるのじゃろうが、ご褒美としての接吻なぞ、妾が認めぬのじゃ!」
シャルロッタはそう言いながらミリュウの髪の毛を引っ張っていきます。
『むにゅ~~~~ダーリン、きっす~~~~~』
そんなシャルロッタに負けじと、ミリュウも必死になって手を伸ばしているんだけど……こ、こういうときは、どうしたらいいんだろう……
彼女いない歴=年齢の僕は、そんな今まで体験したことがないシチュエーションを前にして苦笑するのがせいいっぱいだった。
* * *
「これなら心置きなく調理に専念出来るわね! まかせてクマ様!」
肉を氷漬けに出来たことを受けて、ピリが張り切って調理を開始していきました。
必要な分量の肉を、のこぎりのような道具で切り刻んでいき、その肉を持って食堂の方へ向かって駆けていったピリ。
これだけの肉があれば、ミミーと契約している缶詰を作成した上に、食堂で振る舞うことも出来るとのことだったので、僕も安堵しました。
せっかくニアノ村の新名物になってくれそうな流血狼の肉だしね、それを村のみんなが味わえないというのはちょっとあれかなと思っていたわけですので。
ミリュウはといいますと、冷気を発したことで体内の魔力をかなり消耗してしまったらしくて、
『うにゅう……少し寝てくるの』
そう言って、自分の部屋として使用しているシャルロッタの邸宅内にある応接室へと戻って行きました。
どうにか肉のことが一段落したみたいだし……僕も一度自室に戻りました。
一晩中狩りをしていたもんだから、一睡もしていない僕。
肉の事が無事解決したことで、なんだか急に眠気が襲ってきていたんです。
部屋に戻った僕は、まず体を拭いてからベッドに横になろうと思ったんだけど……
「……だめだ……猛烈に眠たい……」
結局、そのままベッドに横になってしまいました。
すごい能力を手に入れたとはいえ、一晩中頑張っていればやっぱり疲れるわけで……僕はそのまま深い眠りに落ちていっ
「……クマ殿?」
あれ?
気のせいかな? ……部屋の戸が開いて、シャルロッタの声が聞こえたような気が……
起き上がろうとした僕なんだけど、すでに体中が熟睡モードに突入していたもんだから、指一本動かすことが出来なませんでした。
「……寝てしまったのかの?……無理もないのじゃ。村のために一晩中頑張ってくれたんじゃものな……」
そんな言葉とともに、気のせいか僕の鼻にすごくいい匂いが漂ってきた……
さらに、顔の上に髪の毛のようなものがかかってきた気がしないでもない。
「クマ殿……いつもありがとうなのじゃ」
ちゅ
……ちゅ?
……何? 今のちゅって?
なんか、唇にすごく柔らかいものが当たった気がするんだけど……
「……でもな……クマ殿は皆に優しすぎるのじゃ……妾だって……」
ちゅ……ちうううううううううううううう
んんん!?
な、何これ!?
くくく、唇を吸われてるの? 僕?
え? え? え?
ちゅぱ……
「……まったく、人の気も知らずに……のんきに寝ておるなんて……」
そんな声の後……ほどなくして、部屋の戸が閉まる音がした。
その音を聞きながら僕は……僕は……自分の唇になまめかしく残っているシャルロッタの唇の余韻に浸りながら、心地よい眠りに……
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