第4話 到着

どのくらい寝たのだろう。

先程眠りに落ちたのは18時ごろ。

その時点でも空は暗くなりつつあったが、今は真っ暗。


慌てて携帯を見る。

何件かの通知。その中には着信もあった。


着信は、旦那から。

通知の中にも『無事?何もないよね?』などの言葉の数々。

ないはずの良心が痛む。でも、もう引き返せない。

この行動を起こした時から、私の中の良心はないのだから。


そして

『おっけー。無理せず、ゆっくりね。』

彼からの通知。傷んだ心が瞬時に和らぐ。

その通知後にすぐ来ていた文章、それも見る。

『・・・でも。できれば早く会いたいなぁ。』


どくん。


と、鼓動が動く。

あぁ、ダメだ。嬉しい。


ぼーっとしていた脳は覚醒し、すぐにでも行こうと私を急かす。

でも冷静に。

ぶるぶると頭を振り、水分を一口。それで、ちょうどなくなった。


そのごみを捨てに行きつつ周りを見渡す。

近くに壊れた自販機があったため、そこから1本水分を拝借。


車に戻った私は呼吸を整え、連絡を入れる。

『ごめん、タイマーにも気づかないほど熟睡してた(笑)』

それと同時に時刻を確認する。

―――――21時。


3時間も寝てしまっていたのか。

後悔にさいなまれたその瞬間。


Trrrrrrrrr


突然のコール音。反射的に出てしまった。


「はいっ」


その後しまった…と顔をゆがませる。

旦那だった場合、なんと言おうか。


『おはよ?』


聞こえてきた声は笑いを含んだ、優しい声。

彼だった。


「び…っくりした…」


安堵。ただそれだけだった。


『よかった。全然連絡ないから…』


寂しそうな声。心配してくれていたのだろうか。

それだけで、幸せな気分になる。

その気持ちを抑えつつ、エンジンをかける。

心配してくれているのなら、早くいかなくては。


「うん、ごめん」


アクセルを少し強く踏み、発進する。

注意深く周りを見て。

ただ、耳は彼の声に傾けながら。


『いや。心配しただけ。無理は、しちゃだめだよ』


「ありがと。あと少し、だから。」


優しさ、心配、安堵。いろんな意味を含んだ言葉。

私の事を思ってなげてきてくれる、言葉。

それがとっても嬉しかった。


『…ま、こっちにきたら無理はさせるけど、ね?』


背筋がぞわっとする。

不意打ちはやめていただきたい。


「…なっ……」


体温が上がり、頬が火照るのが分かる。

寝起きにこの刺激は強すぎるのだ。

慌てて窓を開けて、体温を下げる。


「そーゆーのやめて…」


『だって、朝まで離さないよって言ったじゃん』


通話口の向こう側で不敵な笑みを浮かべているのだろう。

そんなことは容易に想像できる。

人をいじめにかかるときは普段より声が低くなり、

人の反応をうかがうような口ぶりで楽しげにしゃべるから。


『あぁ…今からだと、朝までじゃ短いか…』


「え?!や、そんなことないと思うんだけど!」


『ん?』


「…え…」


窓が開いているのに体温は今も、現在進行形で上昇中。

このままいったら頭が沸騰するんじゃないだろうか。


『訂正。この世界が滅ぶまで、絶対に離さない』


「……っ…う…うん…」


急に真面目になる。コロコロ変わる声。

毎回魅了される。だから、離れられない。


あと少し。

この世界が終わるときには、彼の傍で。

彼に抱かれて、共に逝こう。




地球が滅ぶまで あと 27時間。



つい1時間ほど前に通話は切った。

こちらの電池が少なくなってきたから。

充電をしつつ、残りの1時間は走ってきたが…


合間を見て返信を返していたが30分ほど前から、返信が、ない。


起きてくれていたから、眠くなってしまったのだろうか。

もしかしたら寝てしまっているのかもしれない。

ざわざわとする気持ちを抑えもう一度連絡を入れる。


『着いたよ』


正確には、まだついていない。

今思えば、彼の名前は知っているが、住所や住まいは詳しく知らない。

実家住まいだから。それは知っているが…


何かあったのか。どうしたのだろう。

不安に苛まれる。独りとはこんなにも怖いことなのか。


街頭もあり明るい街並み。

きっといつもであれば静かなはず。

しかし…。

もう世界も終わるということもあってか騒いでいる人たち。


犯し、騒ぎ、乱闘し、殺戮する。


もうぐちゃぐちゃだ。

本当に、世界がおかしくなっている。


それが更に不安をかきたてる。


あまり知らない土地。独りでいる自分。

どこへ行けばいいのか。

これからどうすればいいのか。


あてもなく車を走らせる。

途中途中ガソリンを入れてきたが、もうギリギリだ。

とりあえずは、連絡が取れるまで動かないといけないから

ガソリンを入れなければいけない。


なるべく乱闘騒ぎが少しでもない場所を。

自分に被害が出ないように、なるべくしなければ。

返信が来た時に、ちゃんと反応できるように。


―――少し走り、落ち着いた場所を見つけた。

むしろ人気が一切ない、人っ子1人いない場所。

誰もいないのを確認してからガソリンを入れる。


その間も携帯は肌身離さず。

連絡が来るのを待ちわびて。


ガソリンを入れ終えてから、ここなら安全だろうと

車に乗り込み毛布をかぶる。

返信が早く来ることを祈り、いつ連絡が来ても気付けるように。

マナーモードを解き音量を最大に。


ここで少し、休憩をとろう。

下手に動いて、命を危険にさらすよりは、いい。




地球が滅ぶまで あと 24時間(1日)。

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