第3話 睡眠

騒動の起こっていたSAから1時間走ったところのPでひとまずの休憩。

水分も確保し、一息つく。


携帯を見て通知を確認する。

旦那から何件か来ていたが、また無視を決め込む。


「ごめんね。」


聞こえるわけでもないのに、1人つぶやく。

きっと、焦っているのだろう。でも、もう戻る気はない。

そして、探していた1件の通知を確認する。


『うん、会おう。絶対に。』


同じ気持であるといい。そう願っている私がいる。

通知は3時間ほど前。ちょうど前の返信を送った直後に来ていたようだ。


『そっちは平気?なにか巻き込まれてない?』


返事を打ちつつ休憩をとる。

さすがに座りっぱなしだと体が固まってしまう。

ブラブラと歩いていたら返信が来た。


『大丈夫。そっちは?』


『問題ないよ。一箇所、危ないSAがあったけど、逃げてきた(笑)』


『危ないって(笑)』


いつも通りの代わり映えのない会話。

でも今は、これが落ち着く。

そうだ。運転中は連絡が取れないと思っていたが、【あれ】ならできる。


『ね、電話する?』


そう、携帯片手に…は怖いが、ハンズフリーがある。

これなら、すぐに相手の状況も確認できる。


『いいよ!』


軽いノリ。つい笑ってしまう。

そうと決まれば、車に戻ってハンズフリーの準備をしよう。

物は車の中だ。

幸いにも車から近い場所を歩いていたため、気持ち早足で車に戻る。

イヤフォンを耳に付け、準備完了。


あの人へ発信する。

1コール…2コール…3コール…


『もしもし?』


眠そうな声。変わらぬ愛しい声。


「眠そうだね」


そう言いながら車のエンジンをかける。

声を聞いたら更に会いたくなった。

早く行かなくては。


『そ?あ、でもちょっと寝てた(笑)』


こんな状況でも寝れるのが凄い。

…あんまり、私と会うのを楽しみにしていないのだろうかとまで考えてしまう。


『君に会うために体力温存しとこうと思って。』


「…ふぁ?!」


不覚にもにやけてしまった。

冗談で遊んで言っているだけだろう。

それでも嬉しい事に変わりはない。たまには素直ににやけててもいいだろう。


『会ったら、絶対に離さない。』


「…ん。約束。」


素直に嬉しい。

ただ、自分で考えていた【絶対に離さない】と意味が違かったらしい。

不敵な笑みが思い浮かべられるような意地悪な声でその続きを教えてくれたから。


『…もちろん、朝までね。』


「ぇ」


『ヤだって言っても、離さない。可愛い声、聞かせてね??』


「な…な、なっ!!!」


にやけた顔が硬直したのは言うまでもないだろう。

こいつはこういう奴。変態、どS、どエロ。

あはは、と笑いながら楽しそうにしている。


『だって、最後だし。離したくないもん』


急に真面目な声を出すのはやめて頂きたい。

私の精神がもたない。

イケナイ関係。誰もがそう言うだろう。


この社会は妻1人、旦那1人。

他の異性を好きになったらいけない。

そしたら離婚。

知ってる。他の異性と関係を持ったら、不倫。浮気。

でも本能には逆らえないんじゃない?

公言しないだけで、バレてないだけで、やってる人は多々いるだろう。


私はそんな1人。

旦那でなく、【彼】に心を奪われた。

だから、彼の言葉1つでもときめく。


『だめ?』


「か…」


『か?』


「可愛いから許す…」


言っている意味が分からないであろう。

でも、この人はエロくもあり、可愛いのだ。

おねだり上手というべきか。

電話越しの顔を思い浮かべる。

早く早く。会いたい。



地球が滅ぶまで あと 33時間。



電話に夢中になり3時間ほど走っていた。


携帯は運転しながら充電しているから問題は一切ない。

沢山の事を話した。

会ったら何をするか、どんな話をしようか、どこに行こうか。

そもそもどこに行けばいいのか。


先程一旦電話は切った。

彼曰く、『ご飯食べてくる』だそう。

そういえば、自分もおなかが減っている事に気付きSAにとまり食品を探す。


コンビニへ行くともちろん店員はいない。

店の中も荒れ放題だ。適当なパンを見繕い、拝借する。いや、貰っていく。


ここも少し前までは荒れていたのだろうか。

血が、道路や建物に生々しくこびり付いている。

その近くには横たわった人々。


…気持ち悪くなりそうだから見るのはやめよう。

あと少しで会えるのにこんなところで体調を崩してなんていられない。

しかし、どうしても考えてしまう。


もし私が彼のもとへ行く前に、同じ目にあったら?

もしくは、彼が同じような状況になってしまったら?


あぁ、嫌だ。

考えたくない。

一瞬でも考えて想像してしまい、血の気が引く。

くらり…と立ちくらみも起きるが、なんとか持ちこたえる。


あと2時間ほどで着く。

早く早くと、内心は焦っている。

だが、焦ってもしょうがない。

事故はしたくないし、変なことにも巻き込まれたくない。


正直、ここまでの長距離運転だ。疲れないわけがない。

…少し仮眠でも取るか。

幸いなことにここのPは落ち着いている模様だ。

多分先ほどまで荒れていたが、その騒動が去ったから、だろう。


『少し寝ていくね』そう連絡を入れ、後部座席に移動する。

スモークのかかった窓。

ここで毛布をかぶって寝れば、もし覗かれても誰もいないように見えるだろう。

しっかりと鍵を閉め。タイマーをかけ、眠りにつく。


もう少しで彼に会える。逸る気持ちを抑え、襲い来る睡魔に身をゆだねた。



地球が滅ぶまで あと 30時間。

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