ペンギン・ウォー!!

津蔵坂あけび

ペンギン・ウォー!!

 南極は地球の最も南の場所であり、最も寒い場所です。この地は、未だ多くの謎に包まれています。でも、その分厚い氷の下にニンゲンを支配しようとするペンギンたちの王国があるなどとは、誰も夢にも思わないでしょう。


「皇帝様ぁああっ! やりました! やりましたぜえっ!」


 ぺたぺたと短い足をばたつかせながら、氷の階段を上る一匹のペンギン。階段を登りきったところで、氷のじゅうたんの上をつるーっとすべって氷の玉座の前へ。

 氷の玉座では、王冠をかぶった大きな体のペンギンがふんぞり返っていました。その首元は黄色く色づいています。


「またニンゲンどもの食料をうばってきましたぜぇ!」


 ほれ、野郎ども! 威勢のいい呼びかけでたくさんのペンギンたちが氷の階段を上っていきます。アホ毛が頭の両サイドからぴょんっとはねたペンギンや、くちばしがしましまのペンギンも。その中につるっと階段を踏み外して一番下まで転げ落ちていく、真っ黒な頭の一匹が。そのまま床をつるーっとすべって壁に頭をゴチン!


「ったた……」

「おいおいおい、何やってんだ。アデリー、食料がぶちまけているじゃないか」

「すみません、ケープ将軍。すぐに拾いなおします」


 アデリーはせっせと落としてしまった食べ物を拾い集めます。幸い、食料は保存食がほとんど。レトルトパウチだったり缶詰に入っていたりなので、汚れる心配はありませんでした。


(はあ……。なんで、ニンゲンさんの食べ物を奪ったりするんだろ。ニンゲンさん、困らないかなあ)


 と、アデリーは心の中でつぶやきます。全部拾い終えて袋に詰めて、それを引きずって再び氷の階段を上っていきます。他のペンギンたちからにらまれながら上り終えたころにはすっかり息が荒くなっていました。


「こ、皇帝様! これが僕たちの手柄です!」


 皇帝と呼ばれているペンギンの前には、食料をつめた袋がたくさん置かれていました。その一つ一つを皇帝が開けていきます。缶詰に入ったチキンソテー、ポークビーンズ、アンチョビ。レトルトパウチに入ったシチューやカレー。「今日も大量、大量」と上機嫌です。


「さて、お前たちお待ちかねの分け前を決めるぞ、まずはケープ将軍!」


 ケープ将軍には食料を包んだ小包が配られました。マカロニ軍曹にはもう一回り小さい小包が。そしてアデリーには、缶詰が一個だけわたされたのです。残った大量の食糧は全て「来たる食料難のときのために」と皇帝の部屋に蓄えられるのでした。それでもペンギンたちは不満の一つすらもらさずに、皇帝をたたえました。

 皇帝様、ばんざい。皇帝様、ばんざい。その声を聞いて皇帝は、さぞご満悦のようでした。

 

     ***


 暗くて冷たい氷の廊下でアデリーがしょんぼりとしていたところに、お腹にまだら模様のあるペンギンが話しかけます。


「なあ、アデリー、元気出せよ。俺もレトルトのカレーが一個だけだ」

「ありがとう、ボルト」


 彼の名はボルト。アデリーとは親友です。

 アデリーはボルトのなぐさめに対し、「でも元気がないのは分け前が少なかったからじゃないんだ」と返します。


「じゃあ、なんで元気がないんだよ」

「ニンゲンさんがかわいそうと思って……」

「あっはっは、そんなことか。最近元気ないと思ったら」


 うつむくアデリーの肩をボルトが笑いながらたたきました。


「お前は優しいのが過ぎるぜ。ただでさえ、分け前以外の食事は口にするなと言われているのによ。この国のおきてではニンゲンは、俺たちペンギンをおびやかす敵。一人残らず絶滅させるべし、となっているじゃないか」

「でも、そんなにニンゲンって悪いやつらなのかな? この前会ったニンゲンは僕らのことをじっと見ているだけで何もして来なかったし。その前は写真を撮ったりとか……」

「俺が見たのは、でっかい機械を使って、氷を掘っていたぜ。きっとこの地下のペンギンの王国の存在に勘づいたんだ」

「ま、まだそうと決まったわけじゃないよ」


 とここでぐうーと大きな音がアデリーのお腹から。そのままアデリーはうずくまってしまいました。


「おいおいおい。大丈夫か。お前最近ちゃんと食べているのかよ」


 ぶんぶんっとアデリーは首を横に振ります。


「そろそろ食べたほうがいいかな。あはは、やせ我慢しすぎたみたい」

「いや、なんで我慢なんてしてんだよ」


 アデリーは首を傾げるボルトを自分の住処に連れていきます。そこには、ニンゲンから奪った食料がたくさん蓄えられていました。


「お、お前……、手柄があるなら隠さなくていいんだぞ」

「違うよ。これは全部分け前だったもの。我慢して貯めているんだ」


 はぁ!? とボルトの大きな声が響きます。分け前を我慢せずに食べてしまう俺だってお腹が空いているぞ。もともと分け前だけでは充分な食料になんかならない。詰め寄るボルトにアデリーは壁際まで追いつめられました。


「どうして、こんな状況で辛抱して食料を貯めこむんだ?」

「ちょ、ちょっとニンゲンさんに返そうと思って」


 あまりにも予想していなかった答えに、くちばしをぽかんと開けてしまうボルト。そのまま数秒の間、沈黙が続きました。やがてため息が彼の口から。


「まったく、アデリー。お前はどこまでバカなんだ」

「ごめんなさい」

「なんで謝るんだ? それはお前が自分の意思で考えてやったことだ。――なんなら、一緒に返しに行ってやろうか?」


 えっ!? びっくりしてアデリーは目をぱちくりさせます。


「ボルト、本気で言ってるの?」

「ああ、本気さ」


 堂々と返すボルトに、アデリーはどうも納得がいきません。さっきまでニンゲンは敵だって、そう考えるのがこの国の掟だって言ってたじゃないか。アデリーは問い返します。


「ニンゲンは俺たちの敵。そう考えたら他に何も考えなくたって済むってだけさ。みんな考えることを止めているんだ。お前は考えるのを止めていない。それは、素直にすごいことだ」


 俺はアデリーがすごいと思ったから、一緒にやろうって思ったんだ。アデリーの両肩にぽんっと手を置くボルト。アデリーはなんだか申し訳なくなってしまいました。


「す、すごいって……。ニンゲンさんに返してあげようと思っても、行動できなくて……勇気がなくて、こんなに貯めちゃったんだよ。全然、すごくなんかないよ」

「だったら、俺がその勇気になってやる」

「え……」

「立派な考えを持つ、そして勇気を持って行動する。一匹が両方やるのは荷が重いだろ。俺に片方分けてくれよ。――そっちの方が、食料もいっぱい運び出せるしな」


 ありがとう、ボルト。アデリーは目に涙をにじませて、ボルトの肩に抱きつきました。おっとっと、とよろけたボルトの手がアデリーの肩に回されます。


「よし、そうと決まったら準備だ」


 二匹は向き合ってうなずきます。そして息を合わせて背中を向け合うとせっせと袋の中に食料をつめました。二人がぱんぱんになった袋を背中に担ぎ、廊下を忍び足になりながら進みます。


「先の様子を見てくる」


 ボルトが大広間へと続く回廊の様子を見に行きます。しばらくして、戻ってきました。誰もいない、今がチャンスだ。二人は短い足をばたばたとさせながら細長い廊下から回廊におどり出ます。


「おい、お前たち。そんな荷物を持って何処に行く」


 回廊をしばらく進んだところで後ろから呼び止められます。でも、振り返ることすらせず、二匹は走ります。


「あいつら、逃げだすつもりだ! 追え!」


「まずい、こうなったら滑るぞ!」

「でも……」

「ばれてしまったら、堂々と逃げるしかない!」


 二匹はたんっと氷の床を蹴って腹ばいになり、つるーっと滑っていきます。さすがの追手も滑る二匹に走っては追いつけません。


「くそう! 回廊の床を滑るだなんてはしたないぞ!」


 悔し気な声が背後から聞こえます。


「へっへーんだ。下っ端が礼節なんて気にしてられっかよ」


 ボルトの捨て台詞の後数秒遅れて、ばんばんっと地団駄の音が回廊に響きわたりました。そして、さらに回廊を進んで、ざぶんっと二匹は冷たい海の中に飛び込みました。

 ペンギンたちの王国がある分厚い氷の下から、ニンゲンたちが南極の調査をしている氷の上に行くには海の中を泳いでいく必要があります。けれど水を得た魚、いや水を得たペンギンは歩いているときとはけた違いの素早さを発揮します。


 となるはずでしたが、アデリーとボルトの距離が離れていきます。地上に先に辿り着いたのはボルトでした。それから遅れること一分ほどして、命からがらの様子でアデリーが海面に出ました。しかも岸に上がろうにも、アデリーは力が入らずに海の中に落ちてしまいます。

 そして、三度海に落ちそうになったところでボルトに引き上げられ、岩陰に連れていかれます。


「ありがとう、ボルト」

「アデリー、お前、食べてないから元気が出ないんだぞ」


 ぱかりとボルトがオイルサーディンの缶詰を開けます。けれど、アデリーは遠慮しました。もとはといえばニンゲンから奪ったものだし、今からそれを返しに行くのに食べるなんてできない、と。


「アデリー。ここで倒れたら、返せるものも返せない。だから食べろ」

「――そっか」


 ちょっとだけもらうね。いただきます。アデリーはちいさく礼をしてオイルサーディンの缶詰を食べました。美味しくてちょっぴり元気が出たアデリー。追手が追いかけてきていないか、時おり様子をうかがいながら、ボルトとともに南極の大地を進んでいきます。


 そして、真っ白な吹雪の中でうっすらと灯りが見え始めました。ニンゲンたちが南極の調査をしている基地が近づいてきました。うれしくなって駆け出す二匹。

 一方、二匹を見つけたニンゲンたちはというと大騒ぎ。ペンギンが食料の入った袋を担いでいるだけでも大ごとなのに、二匹とも言葉を喋るのですから。


「あ、しまった。ニンゲンさんには僕たちが話せることは秘密なんだった」

「ま、別にいいんじゃねーの? それも皇帝が決めたことだし」


 どうしよう……と慌てるアデリーに対し、ボルトは能天気な様子。


「ちょっと、ボルト。僕は真面目に考えているのに!」

「俺はあの皇帝が気に入らないってだけだ。それに、ニンゲンの方は嬉しそうだぜ」


 そこで初めてアデリーはニンゲンたちと目を合わせました。

 これは大発見だ、大発見だ、と騒ぎ立てるニンゲン。袋から返ってきた食料たちを見て喜ぶニンゲン。どのニンゲンも目がきらきらしていて、とっても優しそうでした。

 その中の一人が、しゃがみ込んでにっこりと笑いかけながら「これは受け取れない」と言いました。


「え、どうして……?」


 アデリーは困惑しました。そのためにペンギンたちの王国から抜け出してきたのですから。


「だって、君たちお腹が空いて元気がないみたいだから」


 その人はペンギンの生態を研究していて、ペンギンがどれくらいご飯を食べているか見ただけで分かるのだそう。その人の言うところ、二匹はどう考えても痩せすぎている、と。そこでボルトがペンギン研究家に王国の現状を打ち明けました。

 一匹の皇帝と呼ばれるペンギンが国を治めていて、ニンゲンを敵視するように呼びかけている。ペンギンたちはニンゲンから食料をたくさん奪ってくるけれど、分け前としてもらえるのはほんのちょっぴりで、あとは全部皇帝が蓄えとして取っておいてしまう、と。


「――なんだって!?」


 だったらなおさら食料を受け取ることはできない。ペンギン研究家はさらに続けます。


「君たちは何も悪くない。君たちはニンゲンから食料を奪ったんじゃない。皇帝が君たちから食料を奪っているんだ」


 ボルトはその人の言葉に深くうなずきます。けれど、アデリーはどこか浮かない顔をしていました。


「どうした、アデリー。お前はそうは思わないのか?」

「そうじゃなくって、ニンゲンさんの食べ物を奪ったのは僕たちなのにって……」

「アデリー。考えるのはお前のいいところだ。けれど、悪いことでもある。――考えたって良くならないことは考えないってのも手だ。今、お前が考えることで、みんなが良くなるためにはどう考えればいい? どう考えれば、みんながお腹いっぱい食べられると思う?」

「皇帝から、食べ物を取り返す――ってそんなことできるわけ」

「よく言ったぞ!」


 今度はボルトからアデリーの肩に抱きつきました。


「あとは俺が、お前の勇気になってやる」


 ボルトのその言葉通り、アデリーにも少しずつ勇気が湧いてきました。今なら、出来ないことなんてない! そう思えるくらいに。

 すると、うなずき合っている二匹に、さっきのペンギン研究家が割って入ってきました。


「では私は、君たちの知恵になってやろう」

 

 ペンギン研究家は二匹にある物を授け、耳打ちをしました。


    ***


「逆らってごめんなさい。皇帝様!」


 ペンギンたちの王国に帰った二匹は、皇帝の前にひれ伏して詫びていました。二匹の前にはニンゲンたちに返すと言って持ち出した食料の袋が三つ・・


「ですが、見てください、皇帝様。このとおり、持ち出した食料はニンゲンに返すことなく、そっくりそのまま持ち帰りました。それにさらに食料も奪って戻ってきました! だからどうか、お見逃しを」


 深く頭を下げるボルトに合わせて、アデリーも床に頭をこすりつけるようにして詫びます。皇帝は、ニンゲンから奪った食料が増えたとなると、少しだけ機嫌を取り戻したようでした。


「良かろう。では分け前を決めよう。ほれ!」


 がんっとボルトの頭に缶詰が思いっきり投げつけられました。


「これがこの皇帝様に刃向かったお前らの取り分だ! この薄汚い反逆者どもめが、こそこそこそこそ貯め込んでいるだけでも気に入らないというのに! お前たちはそのたった一缶を仲良くつっつき合っていろ!」


 皇帝に差し出した食料のうち分け前は、たった一缶のオイルサーディンだけ。それでも二匹は皇帝に見えないようにひっそりと合図を送り合っていました。

 やがて、皇帝が部下に食料を持って行くよう命じます。部下のペンギンたちが袋を担いで、皇帝が座っている玉座の左後ろにある扉の鍵を開けます。――そのときです。


 パン! パン! パン!


 大きな音が食料をつめこんでいるはずの袋から鳴りひびきました。


 パン! パン! パン!


 大きな音は止まりません。袋は中で何かがはじけて跳ね回っています。運んでいた部下はおどろくあまりに食料をぶちまけてしまい、缶詰やらレトルトパウチやらを床に散らかしてしまいます。その中に、扉の鍵があったのをボルトは見逃しませんでした。


「まずい! すぐにつかまえろ!」


 でも、ボルトはつかまる前までに鍵を扉のすぐ前にまで移動していたアデリーに投げました。コンビネーションはこちらの方が一枚上手です。


 がちゃり、と扉を開けた瞬間中に貯めこんだ食料の山が露わになります。アデリーは中の様子を見て口を歪めました。


「お前たち、いったい何を持って来たんだ?」

「バクチク? とかいうの? よく分からなくって食べ物かと思って持って帰って来ちゃいました」


 ボルトがとぼけたように質問に答えるのを背中で聞きながら、アデリーは肩を震わせていました。その瞳に映っていたものは、皇帝の自室。テーブルの上やらソファーの上に食べ終わったあとの缶やレトルトパウチの山がうず高く積み重なっていたのです。中には途中で食べるのを止めてしまったものや腐ったものまでありました。


「ひ、ひどい……。皇帝様、みんなから集めた食料を独り占めにして! 食料難のための蓄えじゃなかったんですか!」


「ああ、そうだ! 来たる食料難のときのために私が困らないように蓄えている。あとはどう食べようが私の勝手だ!!」


 取り乱すどころか皇帝は開き直って言い放ちました。


「それをわざわざ意見しようなど、身分をわきまえないにもほどがある! お前たちは何も考えずに憎いニンゲンどもから食料をかっさらって来ればいいものを!」


 ごう慢な怒鳴り声がペンギンたちの王国に響きわたります。やがてぞろぞろと住民のペンギンたちが大広間に集まり始めました。皆が皆、険しい表情を作っています。


「なんだ? 急に出てきて、兵士も民もそろいもそろって。ほれ、ぼさっとしてないでそこの二匹をとっ捕まえ――」


 槍を構えたペンギンの兵士が二匹、皇帝の喉にその刃を突きつけました。


「な、なんだ……お前たち、何を血迷っている!?」


 そこに一匹、また一匹と皇帝に向けて剣先を向ける兵士たち。やがて、そこに住民までもが加わり、じりじりと皇帝に詰め寄っていきます。


「なぜだ!? なぜ、私の命令に従わない!!」

「みんなが取り戻したからです! 皇帝様が摘み取ってきた自分で考える意志を!」


 ボルトの声が高らかにペンギンたちの王国に響きわたります。


「皇帝様、もうあなたの声には誰も耳を傾けませんよ」


 さとすようなボルトの声にくちばしを噛みしめてうなり声を上げる皇帝。そのままつるりと足を滑らせて氷の階段をごろごろと転がり落ちました。どたん、ばたん。どたんばたん――と一番下まで落ちて、住民たちに囲まれて見下ろされる格好になりました。皇帝は絶望しました。あっちを向いても、こっちを向いても自分をにらみつけている顔ばかり。そのまま、きゅうっとあっけない声を上げて気絶してしまいました。


「ボルト、ありがとう」


 その一部始終を階段の上から眺めていたボルトにアデリーが話しかけます。


「礼を言うのはこっちだ、ありがとう」


 振り返って二匹は互いの翼を握手をするように交叉させました。そして二匹は互いに強く強く抱きしめ合いました。

 

「なあ、アデリー」

「なあに、ボルト」

「お前、この国の王になって見ないか」


 え……、と間抜けな声がアデリーのくちばしから漏れてから数秒後。


「えええええええええええええっ‼」


 南極の氷が割れてしまうかと思うほどの叫び声が。


「落ち着けって、アデリー。お前が全ての始まりなんだ」

「で、でも――」


 王様なんて荷が重いよ。肝心なところでアデリーは気弱になってしまいます。でも――この革命の様子を見ていた住民たちが兵士たちが次々に声を上げました。「新しい王は二匹を差し置いて他にはいない」と。


「そっか、二匹で王様になれば――」


 アデリーは喜びます。自分一匹だけなら、何もできないけれど、ボルトと一緒なら何でもできる! そうやってアデリーはボルトと革命を成し遂げたのです。


「二匹で王様か」

「ボルト、言ったじゃないか」


 へへっとふて腐れた笑みをアデリーに返しながら、しょうがないなあとため息をひとつ。


「じゃあ、これからも俺がお前の勇気になってやるよ」


 その言葉が皮切りになって、ぱちぱちと拍手が沸き起こります。今ここに、新しいペンギンたちの王国の王が誕生したのです。


 それから、王国のペンギンはニンゲンを敵視するのではなく、ニンゲンと友好的に暮らすようになりました。食料もニンゲンから奪うのではなく、ニンゲンから調理法を教えてもらったり、王国にニンゲンを案内する代わりに取引をしたりするようになりました。皆が皆お腹を空かせてた前の皇帝のころとは違い、どのペンギンもいきいきと暮らしていけるようになりました。

 活気あふれる国となった王国を見下ろす、新しい二匹の王。彼らの腰かける新しく二つに増えた玉座の前に、首元の黄色い以前よりも少しばかり痩せたペンギンがひざまずきます。


「アデリー第一国王、ボルト第二国王両陛下。ニンゲンから書簡が届いております」

「そうも堅苦しく呼ばなくていいですよ。コーテイ・・・さん」


 アデリーの言葉にぐぬぬと不服そうにしながらも、かつての皇帝は書簡を読み上げる。


“拝啓 言葉をしゃべるペンギンたちへ。

 君たちの国が新しくなったと聞いて非常に嬉しいと同時に驚いたよ。しかも今度は、住民だけでなく私たちニンゲンにも優しい国になったみたいで、本当に良かった。僕たちをペンギンの王国に招いてパーティーを開いてくれたとき、みんなと話して絶対にこの国は良い国になると思ったんだ。けれど、このペンギンたちの王国のことはまだ研究家たち以外には言わないでおくね。きっとみんなパニックになっちゃうからさ。

 私たち南極調査隊は、それぞれの国に帰ることになった。この南極を去ることになる。けれどまたきっと帰って来る。そのときは、きっと今よりも活気あふれる国になってることを願っているよ。

 ペンギンの研究家 一同より”


「もう帰ってしまったのか。もっとバクチク貰えばよかったなあ」

「ボルトはすぐバクチクで遊ぶから、しばらくない方がいいと思う」

「おいおいおいアデリー、冷たいなあ」


 二匹にとって手紙の内容はちょっぴりさみしいものでした。でもそれも、からかい合っていると吹き飛んでしまうくらいのもので。

 それよりも、二匹が強く感じたものは、自分の心の中に沸き起こる強い意志でした。


「「もっと良くしていかないとな。この国を」」

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