第6話 迫りくる真実。(その2)
その日僕は、美香さんやさくらさんのことを考えないようにしても、美香さんのあの言葉は脳内に居座り続けた。僕はそれから逃げるように、眠りについた。そして今日も不思議な夢を見た。僕は眺めのいいビルの屋上にいるようだ。
「結局何もできないんだ。」
僕はまた、そんなことを呟いた。勝手に足が進んでいく、このままではビルから落ちてしまう。まさか僕は自殺しようとしているのか?怖い、怖い、足が止まることばかり祈っていると、どこからか声が聞こえてきた。
「君は何もできないわけじゃないよ。」
僕の足はピタリと止まった。聞き覚えのない声はまだ続いている。
「君は、自分のせいにしようとしている。君はよく頑張ったんだよ。何も悪いことなんてしてないよ。」
なんのことかさっぱりわからなかった。でも、
「君は何もできないわけじゃない。」
その言葉は、僕の心の傷を癒してくれるような気がした。
僕は日曜日まで美香さんとさくらさんに会わないようにするために朝の電車の時間をずらした。会わないようにしているのに、帰りの電車で美香さんを探すのはなぜだろうか。朝の電車でも、美香さんがいないのに美香さんの香りがした。甘い香りだ。それだけで毎日の朝が青に染まっていく。
でも少し怖かった。もし僕が美香さんに悪いことをしていたとして、もう彼女に会えなくなったら、この青色は薄まっていって、また新しく塗り重ねられて霞んで行くのか。知らないままの方がいいんじゃないかと思った。
そんなことを考えていたら、ふと小学3年の頃のことを思い出した。
その時の僕は人と話すのが怖くて、いつも1人でいた。それで嫌われていた僕に、仲良くしてくれた男の子がいた。さとしっていう子だった。しかしその子は、僕と仲良くしたせいでいじめられ始めた。それでも僕に仲良くしてくれるその子を、今度は僕が守ってあげる番だったのに怖くて逃げてしまった。結局さとしは転校したけど、最後に僕のことを見た彼の冷たい目は、僕の心をえぐった。
もうそんなことにはしたくなかったから、美香さんの謎に立ち向かうべきだと決心した。この先、何があっても僕は逃げないことを決めたんだ。
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