第五十三話『傍若無人』

 

「ふーん」


 ユリスの胸の内を聞き届けたリベン達。

 その口からは、やっと合点がいった様な声が吐き出された。


「あたし達を裏切って幾星霜。やっと改心?……が、出来た訳か」

「あれ、でも姉さん、さらっとアジトがバレたとか……」

「言ってたな。だが分かってた事だ。今更確認すんな」

「はぁ……」


 リーグの納得いかない囁き。

 重ね、リアルは尚も言い放つ。


「でも、裏切ってたのは変わりな──────」


 言い切る前に。

 リベンは、心底から呆れる様に遮った。


「しつこい。もう過ぎた事だろうが」


 でも、と言い返し掛けるリアル。

 それを私は手で止め、黙らせた。


 積年の恨み故なのは分かりますがね。

 彼も、曲がりなりにも努力していたのですから。


 ──────リベンと同じく、赦すべきでしょう。


「若気の至り、って言葉で終わらせる気はない、ただ……。

 恨み、嫉み、辛み。妄りな思考を断ち切って英断をした、お前には感謝しないとなぁ?

 ──────つまり、だ」


 リベンはどすどすとユリスに歩み寄り、服の襟を掴んだ。

 その顔には。


 ……イヤらしき、彼女らしい感情が灯っていた。


「ユリス」

「あ。な、なんだよ……」

「その末の栄達を、無駄にしちゃならねぇよなぁ?」

「───!お、おいまさかお前……!!

 流石に出来ない!!帝国を裏切れって事だろう!!?」


 リベンの笑みは、未だやまない。

 依然として、奥に秘められた威圧が強まっている様にも見えた。


「ああ……そうだ。だから……。

 ──────機械兵科に住まわせろ。そっから帝国をぶっ潰してやんよ」


 ……。

 …………。


 言った。

 言ってしまったな。


 まぁ、否定はしないのだけれど。

 呆れる。


 私がそう項垂れると同時に、


「え」

「え」


 リーグとリアルの二人は調和し、一緒に驚いた。


「え、あ、は。──────えぇッ!!??」


 まぁそれも、確かに相応の反応なのだが。

 はしゃぐ……でもなく、騒ぐ、か。


 そんな風に体を動かして、彼らは心底から困惑している様だった。


「は!?でもそれだとレジスタンスの皆が───!!」

「何言ってんのお前。機械兵科に住むのはあたしだけ。

 お前は帰るの。

 流石にリーダー二人共はまずいに決まってんだろ。馬鹿か?」

「いやでも──────!」

「帰れ。影薄くて取り柄も特にない奴は要らない」

「は───!!」


 リベンの一瞥が私に飛ぶ。

 それに頷いて、私は……。


「えちょま。───本当に!?」


 そう騒ぐリーグを引きずってフードを無理やりかぶらせ。

 ……部屋から放り出した。


 だが。

 これで騒ぎが消えた訳でもない。


「あの……リベンさん」

「あ?なんだリアル。お前もああなりたいか?」


 リベンが皮肉り、部屋の扉を指刺す。

 リアルは凄まじいほど細やかに首を横に振った。


「いやいやいや!と言うか本当に、帝国に潜伏するおつもりで?」

「ん───」


 リベンはユリスの顔を一瞥。

 彼は諦めた様に頷いた。


「良いみたいだが。ついでに責任はこいつが取るって」

「───!!」


 ユリスは何か言いたげにしていましたが。

 私とリベンの睨みに怯み、口を噤ませた。


 かわいそうに、

 私も共犯ですが。


「まぁ、なら良いです。───じゃあ、再び。よろしくお願いしますね」


 諦めて手を差し出すリアル。

 その神妙な表情には、まだ何か言いたそうな感情が入り混じっていた。


 しかし、無視する。


 それが彼女の持ちうる平等性なのだろう。

 例えリベンがシエル民のハーフだろうと。


 例え私が、かのエクセル・シエル本人であろうと。

 彼女は信ずる物の為に、黙り込む事を選んだのか。


「──────ああ。宜しくな。リアル……と、ユリス?」


 そうして、この問題は解決の一途を辿っていった。

 個人的に、どこか否めない感はありますが。


 まぁ大団円で終えれたのは、良いところでしょうか。

 その代わりユリスがリベンの奴隷になりましたが。


 兎に角。

 私にはまだ、この問題について───知っておかねばならない事があります。


 それこそが……。

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