第五十二話『本当は』

 

 何故彼女が開発していた、あのプロトタイプを改造したのか。

 それは今でも、分からない。


 ただ何かに苛まれた上での行動なのは、留意していた。

 わざと作った欠陥を理由にして、待ったを掛ける。


 却下されるかも知れない。

 だがその時、リベンの死が確定してしまう。


 それ程までにツアー司令官と言う男は、残酷だ。

 以前シエル民の集落を、たった一人で焼き討ちした事もある程に。


 俺の提案が却下されるのは、ある意味決まっている。

 筈だったが、


「──────許可する」


 ツアー司令官は、神妙な笑みを浮かべてその提案を可決した。

 首を括るつもりでもあったのに。


 彼は裏切る様に、この提案を受け入れたのだ。


「……?!本当ですか……?」

「は?何を怪訝な顔をしてる。君が提案した事じゃ無いのかねぇ?」

「え、いや……そ、それはそうですが───」


 ツアーは何が面白いのか。

 読めぬ失笑を浮かべて、手を叩いた。


「は!なら良い。この事案は、ユリス君の提案を以て保留とする!!

 ──────ではユリス君。頼むぞ?」


 その顔に、凛烈する様な悪寒を感じたのを覚えている。

 しかし。


 俺の提案が可決されたのは、疑いようの無い事実だ。

 命を守ってやったんだから、事実裏切っては無い。


 ───いや。


 俺は。

 俺は……。


 分かってた。

 本当の事、を、言うとするならば。


 そんな事を宣って、心の平静を保ちたい。

 それだけ、だったのかも知れない。


 済まない。


 ─────────本当に、済まない……!

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