第五十一話『報い』


嫌いだった。

あの天才が。



命を、自身の出来る事を全て尽くして、登ろうとした壁を。

彼女は──────リベンは。


たった少しの努力で、簡単にぴょんと飛び越えていく。

あれ程の逸材は他に居ない。


幼少期から天才だ、神童だ、と騒がれていた俺にとって。

彼女との出会いは衝撃で……同時に、妬みを招いた。


あらゆる天才が集う帝国第一の中で、頭百個抜けた才能と勘。

それを兼ね備えたリベンを見て、俺は自身を失くした。


数週間掛けて調整した機械を作ったとて。

彼女はそれ以上に革新的な技術を開発し、実質的にそれを廃らせる。


レーザーブレードの更なる高出力化。

実物とも見紛う程のホログラム技術。


今まで学者達が行い、研鑽してきた研究は……。

全て、どんぐりの背比べに過ぎなかったのだ。


工業科の連中を、策無しで正面突破したあのプロトタイプ。

それを見て俺は、かろうじて保っていた心を根本までへし折られた。


あれが完成してしまったら如何なるのか。

数百人もの兵隊すら、一瞬で一掃出来てしまうのではないかと。


そう察すると同時に。

いや、そう察してしまったからこそ。


妬み、恨み。

それを募らせてしまった挙げ句───。


「リベンとリーグ。姉弟である彼らが、シエルのハーフだと言うことが発覚した」


ツアー司令官。

彼の言葉は重苦しく、俺の心臓を掴みかかって来た。


「ど、どどう言う、事ですか……」

「どうも何も無いだろう、少年。……切れ、と言っているんだ」

「……は」

「まだ分からんのか。ふん、ならばこうしよう。

少年はただ、彼らをおびき寄せるだけで良いのだ。

……この任を成した場合、帝国直属の技術者としての地位を、確約しよう。

帝国第一在籍中にこの栄達。実に比類なきものと思うがねぇ?」


ツアー司令官は俺を手駒にしたい様だ。

……初めてかも知れない。


ずっと俺はリベンと言う壁に苛まれて来た。

彼女に阻まれ、その技術を認められてこなかった。


でも。

裏切りという名目を以っているが。


それでも彼は俺の事を、少なくとも認めてくれた。

だから、なのだろう。


『糞ッ!あたしらはお前の顔を絶対に忘れないッ!!!

──────絶対にぶっ殺してやるッ!!』


俺は彼女らを売った。

その時の俺の心情を支配していたのは、優越感だけだった。


だが。

だがな。


逃げて行くリベンが最後に残した、あの睨みだけが、刺さった。

俺を心底から蔑み、恨む。


そんな眼だけが。

俺に突き刺さり、食い込んで。


優越感は、時間と共に廃れて。

彼女達を貶めて自分だけ栄達を施して行くにつれ……。


──────どうしようも無い、後悔に変わった。


そんなある時。

突如ツアーは軍法会議を開き、こう言った。


「我々に反逆を企むレジスタンスの拠点が判明した。

その構成員は脱帝者リベンを筆頭とした、無法者達の集いだ。

今すぐに叩けば──────」


……!?

聞いた俺は咄嗟に声を上げ、否定を呈していた。


「ま、待って下さい!!!」


何故そう言ってしまったか、今でも分からない。

でも俺の心の何処かにある、懺悔の心が悪さしたのだろう。


「今廃棄予定の機械兵オートマタ!!

それを彼らの所に送り込み、勢力の判明を行うのはどうでしょう?!

エクセル第一王子の生存の件も在り、場所も不明ですし……」


全てが苦し紛れであった。

理由も、動機も。


全てが帝国側にとっての、不純なモノだとは理解していた。

だが。


──────それでも、あの時の優越感に一矢報いたかったんだ。

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